芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。

ありま氷炎

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成長したディオン様との再会

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 翌日、母がアーベル伯爵家に使いを送った。
 私が目覚めた事、お礼をしたい事、その旨を記した手紙を持したところ、使いは『礼は必要ないので、見舞いに来たい』という返事を持ち帰った。

 流石に今日の今日は色々無理があったので、明日以降でいつでもいいと返したところ、明日見舞いに来ると返事がきた。

「美味しいお茶とお菓子でおもてなしね」
「私も何か手伝おう」

 母は張り切っていて、父は何かできることがないかと、声を上げる。
 私は安静だと、手持ち無沙汰。
 気を紛らわせる事も出来ず、緊張して過ごした。
 小さいディオン様との二ヶ月間の思い出。私からしたら一昨日の出来事。
 アーベル様からしたら九年前の事。遠い昔の事だよね。しかもたった二ヶ月の。
 でもわざわざ声を掛けてくれた。
 覚えてるから、だからだよね。
 あー、何を話したらいいんだろう。

「マギーお嬢様。アーベル様が来られました」

 来た!
 私の体はピンピンしてるのだけど、出迎えは不要。ベッドの上で構わないと言われたので、部屋でアーベル様を迎える事になった。

 扉が叩かれる。

「マギー、アーベル様が来てくださったぞ」

 父の声がして、私が頷くとメイドが扉を開く。
 父、母、そしてアーベル様が部屋に入って来た。
 金色の髪に、新緑を思わせる鮮やかな緑色の瞳。アーベル様とディオン様はやっぱり同じ人だ。丸かった輪郭は細長くなって、耳まで覆っていた髪は綺麗に切揃えられて、凛々しくなってるけど。
 うわあ、格好いい。
 アーベル様ってこんな端正だったっけ。本当に完璧な貴公子。ディオン様も超絶可愛かったし。当然か。

「マギー?」

 母に問われ我に返る。
 あー見惚れてる場合じゃなかった。恥ずかしい。

「アーベル様。お見舞いにお越し頂きありがとうございます。学園でも助けて頂き、家まで運んで頂いたと聞いております。本当にありがとうございます」
「マギーさん。お礼はいらないよ。あなたには沢山助けてもらったから」
「沢山なんてとんでもないです」
「沢山だよ」
「アーベル様、マギー。積もる話があるようですから私達は一旦部屋を出ますね。お話が終わったらお知らせください」
「テリシア!」
「行きましょう」

 父は不服げだが引き摺られてるように母に連れて行かれた。

「気を使わせたみたいだね。僕は助かったけど」

 メイドも退出し部屋にはアーベル様と二人きり。
 婚約もしてない男女二人が部屋に二人きりって問題よね!?
 あ、でもディオン様だし。
 緊張する自分を落ち着かせようと小さいディオン様の事を思う。すると緊張もするすると解けてくる。
 そう、ディオン様なんだから。

「マギーさん。過去から戻って来たんですよね?」

 いきなり核心。
 これは。

「知らない振りをしても無駄です。僕はあなたを階段の下で発見した。その時着ていた服は制服ではなく、九年前、領地から忽然と消えたあなたが着ていた母のドレスだ」
「お母様のドレス!?それは知りませんでした。すみません」

 与えられるドレスをそのまま着ていたけど、あれはアーベル伯爵夫人のドレスだったのね。なんて事を。

「お姉ちゃんはやっぱりヘンだ」

 突然アーベル様が笑い出し、その笑みにディオン様の面影を重ねる。

「気にするところが違う」
「だって、そこは気になるでしょう。ずっと誰のドレスか、って気になっていたんですよ」
「僕に聞いてくれればよかったのに」
「いや、忘れていて」
「やっぱりおかしなお姉ちゃん」
「あ、お姉ちゃん」
「あ!すみません。なんだか嬉しくって、本当に、マギーさんだったんですね。お姉ちゃんは」
「……私も思い出した時はびっくりしました。それで、アーベル様がどうして私にあんなことを聞いたのか、わかりました」
「思い出したなら、小さい僕に話してくれたらよかったのに」
「未来に影響を与えたくなかったのですよ。でも、結局アーベル様は私に声をかけてくれたんですね」
「だって、ベルナルドの奴が」
「あ、ベルナルド様。そう言えば、随分彼は雰囲気が変わりましたね。いいお兄さんって感じだったのに、あんな軟派な感じに」
「そう。ベルナルドは、妹のソフィアが留学すると人が変わったようになってね。本当、忌々しい。僕より先にマギーさんに声をかけるなんて」

 アーベル様は口を尖らせて怒っていて、それがまた小さいディオン様を思い起こしてしまう。
 ああ、でも彼は、伯爵令息。私とは別世界の人。しかもキラキラしてるし。ディオン様も可愛かったけど、子供だったから。

「どうしました?」
「いえ、あの。何かご迷惑おかけしてすみません。あの後、大丈夫でした?」
「セルヴィスがレーヌをあの場で取り押さえたよ。僕はお姉ちゃん、マギーさんを必死に探した。けれども見つからなかった」

 最後のディオン様の叫びを思い出す。
 胸がきゅっと痛くなって、思わず胸を抑えてしまった。

「大丈夫ですか?胸が痛いですか?」
「いえ、大丈夫。アーベル様、なんと言っていいか。頑張りましたね」

 レーヌさんのことは辛かっただろう。 
 そして私は突然消えるし。
 思い上がっているかもしれない。
 だけど、あの時、ディオン様は私を本当に必要としてくれてた。
 私たちはいつも一緒にいた。
 それこそ、本当の姉弟のように。

「うん。僕、頑張ったよ。またマギーさんに会えるって知ったし」
「え?どうして……、あ、セルヴィスさんが話したんですね!」
「うん。教えてくれた。僕、マギーさんがいなくなって、また体調が悪くなったんだ。王都に戻る予定を先延ばすくらいに」
「ディオン様……」
「やっと呼んでくれたね。僕の名前」
「あ、えっと」
「マギーさん。僕のこと、名前で呼んでよ。あの時みたいに」
「ダメですよ。あれは特殊だったので」
「じゃあ、僕はマギーさんのことお姉ちゃんって呼んでいい?」
「え?いやダメですよ!」

 そんなの。変態とかそんな風に思われちゃいそう。

「だったら僕のこと、名前で呼んでくれる?」
「わかりました。ディオン様」

 これは仕方ないこと。 
 うん、仕方ないことなんだから。

「ああ、よかった。嬉しい。あ、そう。僕の体の調子がものすごく悪くなって、セルヴィスが教えてくれたんだ。大きくなって、マージョリー学園に入れば、マギーさんに会えるはずだって。その時、僕が格好よくなっていれば、見つけてもらいやすいだろうって」

 ああ、セルヴィスさん!
 まあ、そのおかげで元気になったから、いいのか。

「それでは、ディオン様は初めから、私のことを知っていたんですか?」
「うん。あなたが学園に入学するのを待ちきれなかったから、色々調べたよ」
「そう、ですか」

 うああ、なんていうか。
 そこでま思われているって。
 あ、でも姉としてだよね。
 うん。

「もう、私はあなたの姉代わりにはなれませんよ。年も私のほうが一つ下ですし、身長もあなたのほうがずっと高いので」
「僕は、別に姉になってもらおうと思っていたわけじゃない」

 きっぱり、強く言われてしまった狼狽える。

「ごめんなさい。えっと、学園には復帰するんだよね?また学園で会おう。邪魔するような人はもう誰もいないから」
「邪魔するような人はもう誰もいない?」
「あなたは気にしなくていいよ。じゃあ、また学園で」

 なぜか、ディオン様は逃げるようにして部屋を出て行ってしまった。
 父と母は彼をお見送りした後、部屋へ来た。それから、母に「慌ただしかったわ。何かあったの?」と聞かれたけど、私はよくわからないと答えるしかない。どうしたのかな?
 父がちょっと心配そうだったけど。
 怒ってなかったし、大丈夫だと思うけど。
 それより『邪魔するような人はもう誰もいない』とか、ちょっと気になる。

 

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