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王都に戻る日
しおりを挟むいつ戻れるかわからない。
でも戻れるのは確かだと思う。
私が未来でまだディオン様のそばにいたら、あんな声の掛け方しないと思うし。
っていうかもし側にいたら、私何歳?おばちゃんだね。それは嫌だなあ。
いやいや可能性はない。
きっと戻れるはず。
ま、とりあえず記憶は戻っていないふりを続けよう。
そうして、私はディオン様と一緒に過ごした。
レーヌさんは領地でディオン様に家庭教師もつけていなかった。
表向きは静養に集中させたい、らしいけど、実際は賢さを身につけさせないためだったらしい。
もしディオン様が愚かだったら、マリオンって人の爵位継承の可能性が高くなると思ったのかな?
とりあえずディオン様に家庭教師をつける事になったのだけど、なぜか私が教える事に。
最初は雇おうとしていたんだけど、執事さんに色々質問されて試験までやらされて、お願いされてしまった。
まあ、一、二年くらいは教えられそうだけど。
ディオン様の現在の教育水準を確認して、教材を用意する。
実際教材は王都から持ってきたものがあったから、それからディオン様にふさわしいものを選んだだけだけど。
勉強まで教える事になって、本当に私たちはほぼ丸一日一緒にいた。
ソフィア様とベルナルド様はあの事件があっても、遊びにきた。
ハーバー伯爵は謝罪を受け入れ、その上、交流を止めようとしなかったみたい。
ハーバー伯爵もいい人そうだ。
ソフィア様は、前は私に対してツンケンしている感じだったけど、かなり打ち解けた。
いや、なんていうか懐かれている?
「お姉ちゃんかっこよかった。私のお姉ちゃんになって」
「だめ。お姉ちゃんは、僕だけのお姉ちゃんだから!」
「ディオン。ディオンは私より年上だよ。いらないでしょ?お姉ちゃんは?」
「必要だよ。ソフィアにはベルナルドがいるでしょ」
「お兄ちゃんはいらない」
「ソフィア、それは酷すぎるよ」
ベルナルド様が泣きそうになっている。
私たちとハーバー兄妹は、こう言うやり取りをするくらいに仲良くなった。
そうして毎日賑やかに過ごしていると、あっという間に一ヶ月が過ぎた。
そしてある日、執事のセルヴィスさんに捕まった。
「本当は記憶を取り戻しているのではないのですか?」
そう聞かれて、迷った挙句、話す事にした。
セルヴィスさんには話しても大丈夫な気がしたからだ。
「……信じられないですが、あなた様が着てらっしゃった服は、マージョリー学園の制服に似ています。御坊ちゃまを命懸けで助けてくれたあなた様が嘘をつくようにも見えませんし」
「ありがとうございます。信じてくださって」
「お嬢様の本当の名前はなんておっしゃるのですか?」
「マギー・ヒルスです。ディオン様に黙っていてくれませんか?できればアーベル伯爵様にも。未来は変えたくないのです」
「……聞かれない限り、そうしましょう」
「よろしくお願いします」
セルヴィスさんには全てを話したが、それから何かが変わることはなかった。
ディオン様と穏やかに毎日を過ごす。
咳もしなくなって、体もかなり丈夫になった。
もう痩せ過ぎではなく、ふっくらな天使のような子になった。
本当、可愛いよね。
「お姉ちゃん、そんなにほっぺたを掴まないでくれる?」
「あ、ごめん。ごめん」
すごく柔らかいから思わず触ってしまう。
「お姉ちゃん、王都に戻る事になったんだよ」
「王都に戻る、ですか?」
「うん。もう元気になったでしょ?だから戻る事になったんだよ」
ディオン様は嬉しそうに言う。
家族と会えるもんね。それは嬉しいよ。
うーん。戻るのか。
私は、どうしようか。
王都には今の私がいる。
まあ、貧乏男爵家の娘と、ディオン様が会う可能性がないけどね。
それにしても、ここにきて二ヶ月、まだ元の時代?に戻る兆候はない。
あの時、あの人に押されて、階段を落ちた。
そのショックで飛ばされたと考えれば、また同じようなことがあれば。
でも、それは怖いな。
下手したら死んでしまう。
「どうしたの?お姉ちゃん?」
「なんでもない」
「お姉ちゃんも一緒だからね」
「はい」
ディオン様が真っ直ぐ私を見て、そう言うものだから思わず返事をしてしまった。
そうして戻る日はあっという間にやってきた。
見送りには、ソフィア様とベルナルド様もきてくれた。
「お姉ちゃん!」
「はい。今行きます」
階下からソフィア様に呼ばれ、私は階段を降りようとした。
視界の端に黒い影が見えた。
「あなたが邪魔をしなければ!」
その声と同時に背中を押された。
体が傾いていく。
「レーヌさん!?」
女性の高笑い聞こえる。
それは修道院に送られたはずのレーヌさんだった。
これまでのディオン様への献身を考え、辺境の地の修道院に送られたはずなのに。
どうして?
「お姉ちゃん!」
悲鳴のようなディオン様の声が最後に聞こえ、意識がぷっつりと途切れた。
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