芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。

ありま氷炎

文字の大きさ
上 下
6 / 16

6

しおりを挟む
「お姉ちゃん、大丈夫?」

 可愛らしい声で起こされた。
 視界いっぱいには、痩せ気味、だけど元々の顔の作りは可愛いと思われる少年の顔が広がった。
 虐待を受けてる感じじゃなくて、体が弱そうだ。

「あ、起きた!」
「ディオン様、そんなにはしゃいではお体には触ります」
「大丈夫だよ!」

 ディオン。
 ああ、この子はディオンって言うんだ。
 っていうか、私は?
 私って何?

「あの、すみません。私はいったい、記憶がまったくないのですが」

 ベッドの上に寝かされていた。
 部屋はこじんまりしているが、白で統一されていて高級感がある。
 見覚えがない。
 っていうか、何もかもわからない。
 自分が人で女であることはわかるんだけど、名前とか、まったく思い出せない。

「お嬢様は中庭で倒れていらっしゃったのです」
「え?そうなんですか?」

 私、いったい、何してるの?
 人様の中庭にどうやって入り込んだの?

「お姉ちゃんは、お空から降りてきた天使なんだ」
「て、天使?」

 うん。天使はわかる。
 神様の使いでしょ?
 いや、私、多分普通の人間だと思うよ。
 記憶はないけど、そういう大層なものではないと思う。

「ディオン様。また困ったことを。お嬢様、あのお名前を教えていただけますか?事情があって迷い込まれたのだと思いますので、まずはその事情を知る必要があります」

 ディオンという少年は多分いいところのお坊ちゃん。
 そしてこの女性が侍女なのかな。

「すみません。あの、私、記憶が全くないのです。どうやって大胆にも中庭に入り込んだのか。さっぱりわかりません」
「き、記憶がない?」
「記憶喪失。すごいねぇ!じゃあ、僕の姉ちゃんになってもらおう!妹はいるけど、お姉ちゃん、欲しかったんだ」
「ディオン様。そんな簡単なものじゃありません」

 この少年、可愛いな。
 ちょっと痩せすぎだけど。

「旦那様にご相談する必要があります。それまでごゆっくり滞在されてください」
「やったー!」

 ディオン少年がぎゅっと私に抱きついてきた。
 子犬みたい、痩せすぎだけど。

 ☆

「夕食を一緒に食べよう!」

 ディオン少年と侍女が出て行って、いつの間にか寝ていたみたいだ。
 衝撃がして目を覚ますと、ディオン少年がそこにいた。
 夢も見ないで寝てたみたい。

「ディオン様。そうやって起こすのはだめですよ」

 侍女がベッドに張り付いたディオン少年を引き離す。
 猫みたいだなあ。
 あ、ところで侍女の名前知らないわ。

「あの、すみません。そちらのお坊ちゃまの名前はディオン様ってわかるのですか、あなたの名前を教えてもらいますか?」
「ああ、自己紹介してませんでしたね。私としたことがすみません。私はレーヌと申します。アーベル家で侍女として働いております。主にディオン様のお守りをしています」
「お守り?僕は赤ちゃんじゃないよ」

 赤ちゃんじゃないけど、お守りってぴったり合うかも。

「お姉ちゃん、笑った?僕怒るよ!」
「あ、ごめん。ごめん」
「あの。お嬢様。夕食が整っておりますが、いかがしますか?」
「いただいていいのですか?」
「勿論です。お客様なので」
「助けてもらった上に色々すみません!記憶を取り戻したら必ずお礼をしますから!」

 本当なら、追い出されてもおかしくない。
 それなのに、客として丁重に扱ってくれるなんて。
 申し訳なさすぎる。

「あのレーヌさん。私、何ができるかわかりませんが、滞在している間なにかお手伝いをさせてください!」
「それなら私と一緒にディオン様のお守りをしてください。ディオン様も喜ばれます」
「お守り。ひどいよ。僕は赤ちゃんじゃないのに」

 ディオン少年、いやディオン様が泣きそうになって、レーヌさんと私は慌てて慰めた。

 ☆

 夕食をディオン様と一緒にいただいてから、お世話係なのに同じ席に着いてしまった。
 お世話係ってことは、レーヌさんと同じ立場。
 となると使用人なのに。
 ディオン様にほぼ強制的に椅子に座らされ、レーヌさんも了承していたから、美味しくいただいた。
 けど気になったことが、ディオン様はなんていうか、あまり食べない。
 しかも気に入った味しか食べない。
 料理人も頑張って用意しているんだけど、それでもちょっとだけ食べてお腹いっぱいになるらしい。
 今日はいつもより食べたらしいけど、私の三分の一くらいだった。
 年は聞いたら八歳だって言っていたけど、それでも少なすぎじゃないかと思う。
 だから、痩せているのかと納得。
 とりあえずお世話係としては、ディオン様にたくさん食べさせることを最初の目標にする。
 今でも可愛いけど、もうちょっと肉がついたら、もっと可愛くなると思うんだよね。
 私は文字は読めたので、ディオン様の部屋で読み聞かせてして、眠ったのを確認して、レーヌさんと部屋を出た。
 私の部屋は彼の隣の部屋になるらしい。
 ディオン様の希望で。
 めっちゃ気に入られてるのは、私がディオン様のお母様と同じ髪色と目をしているからだって。
 妹さんが生まれて、ディオン様が病気がちだったから、田舎の領地に静養することになったみたい。
 両親は王都にいるので、寂しいらしい。
 それはそうだよね。
 まだ八歳だし。
 うんうん。可愛がってあげよう。
 おか、お姉さんとして。

 ベッドに入るとすぐに眠気がやってきた。
 すうっと眠ったのだけど、そこにディオン様が出てきてびっくり。
 しかもかなり大きい。

「マギーさん」

 成長したディオン様は私のことをそう呼んでいた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】みそっかす転生王女の婚活

佐倉えび
恋愛
私は幼い頃の言動から変わり者と蔑まれ、他国からも自国からも結婚の申し込みのない、みそっかす王女と呼ばれている。旨味のない小国の第二王女であり、見目もイマイチな上にすでに十九歳という王女としては行き遅れ。残り物感が半端ない。自分のことながらペットショップで売れ残っている仔犬という名の成犬を見たときのような気分になる。 兄はそんな私を厄介払いとばかりに嫁がせようと、今日も婚活パーティーを主催する(適当に) もう、この国での婚活なんて無理じゃないのかと思い始めたとき、私の目の前に現れたのは―― ※小説家になろう様でも掲載しています。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

あなたより年上ですが、愛してくれますか?

Ruhuna
恋愛
シャーロット・ロックフェラーは今年25歳を迎える 5年前から7歳年下の第3王子の教育係に任命され弟のように大事に大事に接してきた 結婚してほしい、と言われるまでは 7/23 完結予定 6/11 「第3王子の教育係は翻弄される」から題名を変更させて頂きました。 *直接的な表現はなるべく避けておりますが、男女の営みを連想させるような場面があります *誤字脱字には気をつけておりますが見逃している部分もあるかと思いますが暖かい目で見守ってください

【完結】異形の令嬢は花嫁に選ばれる

白雨 音
恋愛
男爵令嬢ブランシュは、十四歳の時に病を患い、右頬から胸に掛けて病痕が残ってしまう。 家族はブランシュの醜い姿に耐えられず、彼女を離れに隔離した。 月日は流れ、ブランシュは二十歳になっていた。 資産家ジェルマンから縁談の打診があり、結婚を諦めていたブランシュは喜ぶが、 そこには落とし穴があった。 結婚後、彼の態度は一変し、ブランシュは離れの古い塔に追いやられてしまう。 「もう、何も期待なんてしない…」無気力にただ日々を過ごすブランシュだったが、 ある不思議な出会いから、彼女は光を取り戻していく…  異世界恋愛☆ 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

クレアは婚約者が恋に落ちる瞬間を見た

ましろ
恋愛
──あ。 本当に恋とは一瞬で落ちるものなのですね。 その日、私は見てしまいました。 婚約者が私以外の女性に恋をする瞬間を見てしまったのです。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ

ハチ助
恋愛
【あらすじ】6歳になると受けさせられる魔力測定で、微弱の初級魔法しか使えないと判定された子爵令嬢のロナリアは、魔法学園に入学出来ない事で落胆していた。すると母レナリアが気分転換にと、自分の親友宅へとロナリアを連れ出す。そこで出会った同年齢の伯爵家三男リュカスも魔法が使えないという判定を受け、酷く落ち込んでいた。そんな似た境遇の二人はお互いを慰め合っていると、ひょんなことからロナリアと接している時だけ、リュカスが上級魔法限定で使える事が分かり、二人は翌年7歳になると一緒に王立魔法学園に通える事となる。この物語は、そんな二人が手を繋ぎながら成長していくお話。 ※魔法設定有りですが、対人で使用する展開はございません。ですが魔獣にぶっ放してる時があります。 ★本編は16話完結済み★ 番外編は今後も更新を追加する可能性が高いですが、2024年2月現在は切りの良いところまで書きあげている為、作品を一度完結処理しております。 ※尚『小説家になろう』でも投稿している作品になります。

処理中です...