芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。

ありま氷炎

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「また明日ね」
「じゃあな」
「ありがとうございました」
 
 二人にお礼を行って、馬車から降りる。
 無駄な抵抗だけど、両親に見られたら面倒なことになる。
 馬車を見送ってから、家に足を向ける。
 
 周りの人たちはさりげなく私に視線を寄越している。
 そうだよね。
 あの馬車にはアーベル家の家紋がついていたし、この辺は子爵、男爵家の貴族で身分の低い家柄、少しばかり裕福な商人たちが家を連ねているところだし。
 視線を気にしないようにして家の門に差し掛かったら、両親が出てきた。

「あら、もう帰ってしまわれたの?」
「帰ってしまったのかあ」

 ああ、よかった。
 家から離れたところで降ろしてもらって。
 残念そうな両親の横を通り過ぎて、私は家の中に入った。
 夕食時は二人からアーベル様のことを聞かれてうんざり。

「だから、期待しているようなことはまったくないの」
「だったら、どうしてアーベル様はお前に構うんだ?」
「好意以外の何物でもないでしょう?」

 両親の言うことはもっともなんだけど、アーベル様からは好意以外に別の何かが見て取れる。いつか話してくれそうだけど。本当なんなんだろう。

 夕食を終え、湯浴み。 
 ベッドに入って、そのことを考えたけど、答えはまったく見つからなかった。

 ☆

 朝起きて、支度をしてから家を出る。
 護衛さん、見えなくてもそばにいるのかなあ。
 っていうか、まさかアーベル様本人とか?
 いやまさか、ないはず。
 まあ、いいや。
 気にしても仕方ない。
 いつか理由がわかったらすっきりするはず。

 首をブンブンと振り、気にしないようにして学園を目指す。

「あら、売女のお出ましよ」

 淑女なのに、売女なんて使うんだ。
 門をくぐった途端、女子が絡んできた。

「……君は誰?売女って誰こと?」

 いつの間にか、自然とアーベル様が横にいて驚く。
 どういう仕組み?
 本当は伯爵子息じゃなくて、間者かなんかじゃ??

「ディ、ディオン様!あの、それは」
「大体、僕の名前を呼ぶこと自体、気に入らない。今まで黙っていたけど、気安く僕の名前を呼ばないでくれ」

 アーベル様が言い切り、辺りが静まり返った。

「そういうことだ。邪魔だ。邪魔。授業に遅れるぞ」

 ひょいと、ジソエル様も顔を出して口を挟む。
 すると立ち止まって様子を窺っていた人や、野次馬たちが動き出した。

「……ありがとうございます」
「いや、僕のせいみたいだし。ごめんなさい」
「謝られることでは」

 確かにアーベル様のせいだけど、こんな顔をされると困る。
 本当子犬みたいだよね。
 今は。さっきはめっちゃ怖かったけど。

「教室まで送ろう」
「大丈夫です。流石にちょっかいを出してくる人はいないと思いますよ。あの後で」
「……ならいいのだけど」
「大丈夫だろ。ディオン。心配しすぎた。また噂を撒き散らすつもりか」
「そうですよ。アーベル様。さあ、教室へ行ってください。私も自分の教室へ向かいますから」
 
 アーベル様は一つ学年が上だ。
 マージョリー学園は貴族の子女必須の学校で、二年の教育過程だ。
 私は今年入学したばかり、アーベル様は今年卒業だ。ジソエル様もハーバー様も今年卒業。
 なので意地悪されるとしても一年で済むだろう。本当はもう関わらないで、静かに過ごすほうがいいのだけど、一緒にいると楽しいことがわかってしまった。
 ずっと一人だったのに、そういう感情がちょっと扱いにくい。
 
「それでは。ありがとうございました」

 とりあえず、アーベル様とジソエル様に別れを告げ、教室へ向かう。
 私は一年で、教室は二階だ。
 天井がかなり高く造られている建物なので、階段が長い。途中踊り場があって足を乗せたところで、影が私を覆う。

「え?」
「あなたのせいで、ディオン様に怒られたじゃないの!」

 それは先ほど絡んできた女子だった。 
 両手で胸を押されて、私の体が傾く。
 体が浮いた気がした。
 頭を打つなって思ったところで、意識を失った。

 
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