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上司の受難と私の気持ち
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「社長?!」
事務所に到着し、おかしな格好で固まっている館林を見つける。
「悪い。動けないんだ」
かなり古い型のコピー機を持ち上げようとして、動けなくなったらしかった。
ユウコは困っている顔の館林を見て、思わず笑い出してしまった。
「何がおかしいんだ。笑ってないで、助けろ」
(だって、おかしい。ぎっくり腰ってかなり年のいった人がなるものだと思ってたら、よりにもよって社長が!)
「鈴木!そのまま笑い続けていたら給料カットするぞ」
「社長!それはありえないですよ!」
ユウコは笑うのをやめると館林を支え、椅子に座らせる。
「誰にも言うなよ。特に日本の支社の奴にはな」
かっこいい支社長で通ってるのでイメージを崩したくないのか、椅子に座りながら館林はそう言う。ユウコはその様子がいつもの館林らしくなく、おかしくなりまた笑い出してしまった。
「また笑う。それ以上笑ったら本当に給料カットな」
「社長。そんなことしたら、この国の労働省に行って訴えますよ!」
「できるのか?」
「できますよ!」
「じゃ、やめておく。悪かったな。呼び出して。しばらく座っていたら多分大丈夫のはずだから、帰っていいぞ。この分も休日手当請求してもいい」
「本当ですか?」
「本当だ」
「私が言ってるのは、本当に元に戻るんですかってことです。動けなかったどうするんですか?」
「……大丈夫だ。いつものことだ」
「いつも?!もう何度もやってるんですか?」
「……そうだ」
「それって、ぎっくり腰じゃないですよ。ヘルニアじゃないですか?」
「ヘルニア?」
「そう、病院行きましょう!」
「病院?!」
ユウコは嫌がる館林にそう言うと無理やり彼を病院まで送る。緊急外来扱いで、すぐに見てもらえ、急性ヘルニアで手術が必要といわれた。驚く館林を説得し、ユウコは手術の手続きを代わりに行った。
数日後手術が行われ、館林は1週間ほど自宅療養後、リハビリをしながら出勤可能と診断された。
ユウコは館林の自宅に顔を時たま見せながら、仕事をこなしていた。ツアーガイドの仕事は外注し、結構遅くまで事務所に残業し、なんとか事務所を回していた。
自宅療養から会社復帰まであと2日となったある日、来週の病院視察団体のアレンジの方法でわからないことがあり、ユウコは少し遅い時間だと思ったが、館林の家を訪れた。
呼び鈴を鳴らすと、ドアが開けられ、きれいな黒髪のスレンダーな美人が姿を見せた。
「シンのドーリョー?」
女性は片言の日本語でそう聞く。
「はい」
「Shin、Your colleague is coming!」
女性がそう言いながら家の中に戻る。キチンと開けなかったドアはユウコの目の前でパタンと閉まり、ユウコは家の外で待つことになった。
(今の、彼女かな?初めて見た……)
ユウコは口の中がなぜか乾くのがわかった。そして苦い何かがこみ上げてくる。
(見たことなかったけど、それはいるわよね。私は単なる部下に過ぎないんだもん)
ユウコは持ってきた書類にペンを走らせると、それ書類をドアの下から入れる。そして逃げだした。
二人が一緒にいる姿を見るのが嫌だった。この気持ちがなにかユウコはわかっていた。
(嫉妬だ。手術の付き添い、入院中も仕事をしながら時間あれば顔を見せた。でもそんなの、彼にとってはどうでもいいことだったかもしれない。むしろ俺に惚れやがって、馬鹿だなくらいに思われていたかもしれない)
ユウコは階下に降り、門を抜け、タクシーを拾うため、大通りに向かって歩きながら、涙が止めどもなく流れ落ちるのを止められなかった。
(馬鹿な私。本当に馬鹿だ)
タクシーを拾うと、携帯電話の着信音が聞こえた。館林からだった。ここで出ないと変に思われると、ユウコは深呼吸すると電話に出た。
「社長?すみません。ちょっと質問があったんです。でも約束があったことを思い出して…質問はドアの下からいれた紙に書いてあります。返信はメールでいいです。あ、友達から電話がかかってきました。すみません。よろしくお願いします」
館林に何か言わせる隙を与えないように、何か悟られる隙を見せないようにユウコは機関銃のようにまくし立てると電話を切った。
(絶対に私の気持ちは知られたくない。知られたらおしまいだ)
2日後、館林は松葉杖を突きながら、出社した。
いつもの自信過剰な館林だった。
(これでいつもの関係に戻れる。前みたいにむかつく上司として、館林のことを思おう)
ユウコはそう決めると、必死に顔を作って過ごした。
「I’m leaving. Take care」
アイリーンがいつもの通り午後5時きっかりに会社を去る。ユウコも本当は帰りたかったが、仕事が山積みで帰れる状態ではなかった。
「社長。ひさびさの仕事で疲れたんじゃないんですか?後は私がしておくので大丈夫ですよ」
ユウコは不自然にならないように笑顔を浮かべる。
このまま館林を事務所に二人でいるのは避けたかった。
一人で心を落ち着けたかった。
「鈴木、お前、俺のこと避けてる?」
「そ、そんなことないですよ。考えすぎですよ。社長」
ユウコは館林の視線から逃げるように顔を背け、そう答える。
忙しいところを見せて、これ以上の詮索をさせないように、マウスを動かし、画面上のエクセルファイルに視線を向ける。
「そうか。だったらいいけど。なあ。鈴木。またお前に世話になったな。お礼に今度……」
「お礼?お礼は休暇がいいです。ほら、社長がいない間、結構遅くまで残業してたんで疲れてるんですよ。有給取らしてください」
「そ、そうか。うん、わかった。俺はしばらく事務所でしか仕事できないから、ツアーガイドは外注する。だから、お前はいつでも休めるぞ」
「うれしいです。じゃあ、来週1週間休みを取りますね」
それ以上の話はしたくないと、ユウコは手元のファイルを開くと、電話をかけ始める。
館林のため息を聞こえたが、ユウコは聞こえない振りをした。
事務所に到着し、おかしな格好で固まっている館林を見つける。
「悪い。動けないんだ」
かなり古い型のコピー機を持ち上げようとして、動けなくなったらしかった。
ユウコは困っている顔の館林を見て、思わず笑い出してしまった。
「何がおかしいんだ。笑ってないで、助けろ」
(だって、おかしい。ぎっくり腰ってかなり年のいった人がなるものだと思ってたら、よりにもよって社長が!)
「鈴木!そのまま笑い続けていたら給料カットするぞ」
「社長!それはありえないですよ!」
ユウコは笑うのをやめると館林を支え、椅子に座らせる。
「誰にも言うなよ。特に日本の支社の奴にはな」
かっこいい支社長で通ってるのでイメージを崩したくないのか、椅子に座りながら館林はそう言う。ユウコはその様子がいつもの館林らしくなく、おかしくなりまた笑い出してしまった。
「また笑う。それ以上笑ったら本当に給料カットな」
「社長。そんなことしたら、この国の労働省に行って訴えますよ!」
「できるのか?」
「できますよ!」
「じゃ、やめておく。悪かったな。呼び出して。しばらく座っていたら多分大丈夫のはずだから、帰っていいぞ。この分も休日手当請求してもいい」
「本当ですか?」
「本当だ」
「私が言ってるのは、本当に元に戻るんですかってことです。動けなかったどうするんですか?」
「……大丈夫だ。いつものことだ」
「いつも?!もう何度もやってるんですか?」
「……そうだ」
「それって、ぎっくり腰じゃないですよ。ヘルニアじゃないですか?」
「ヘルニア?」
「そう、病院行きましょう!」
「病院?!」
ユウコは嫌がる館林にそう言うと無理やり彼を病院まで送る。緊急外来扱いで、すぐに見てもらえ、急性ヘルニアで手術が必要といわれた。驚く館林を説得し、ユウコは手術の手続きを代わりに行った。
数日後手術が行われ、館林は1週間ほど自宅療養後、リハビリをしながら出勤可能と診断された。
ユウコは館林の自宅に顔を時たま見せながら、仕事をこなしていた。ツアーガイドの仕事は外注し、結構遅くまで事務所に残業し、なんとか事務所を回していた。
自宅療養から会社復帰まであと2日となったある日、来週の病院視察団体のアレンジの方法でわからないことがあり、ユウコは少し遅い時間だと思ったが、館林の家を訪れた。
呼び鈴を鳴らすと、ドアが開けられ、きれいな黒髪のスレンダーな美人が姿を見せた。
「シンのドーリョー?」
女性は片言の日本語でそう聞く。
「はい」
「Shin、Your colleague is coming!」
女性がそう言いながら家の中に戻る。キチンと開けなかったドアはユウコの目の前でパタンと閉まり、ユウコは家の外で待つことになった。
(今の、彼女かな?初めて見た……)
ユウコは口の中がなぜか乾くのがわかった。そして苦い何かがこみ上げてくる。
(見たことなかったけど、それはいるわよね。私は単なる部下に過ぎないんだもん)
ユウコは持ってきた書類にペンを走らせると、それ書類をドアの下から入れる。そして逃げだした。
二人が一緒にいる姿を見るのが嫌だった。この気持ちがなにかユウコはわかっていた。
(嫉妬だ。手術の付き添い、入院中も仕事をしながら時間あれば顔を見せた。でもそんなの、彼にとってはどうでもいいことだったかもしれない。むしろ俺に惚れやがって、馬鹿だなくらいに思われていたかもしれない)
ユウコは階下に降り、門を抜け、タクシーを拾うため、大通りに向かって歩きながら、涙が止めどもなく流れ落ちるのを止められなかった。
(馬鹿な私。本当に馬鹿だ)
タクシーを拾うと、携帯電話の着信音が聞こえた。館林からだった。ここで出ないと変に思われると、ユウコは深呼吸すると電話に出た。
「社長?すみません。ちょっと質問があったんです。でも約束があったことを思い出して…質問はドアの下からいれた紙に書いてあります。返信はメールでいいです。あ、友達から電話がかかってきました。すみません。よろしくお願いします」
館林に何か言わせる隙を与えないように、何か悟られる隙を見せないようにユウコは機関銃のようにまくし立てると電話を切った。
(絶対に私の気持ちは知られたくない。知られたらおしまいだ)
2日後、館林は松葉杖を突きながら、出社した。
いつもの自信過剰な館林だった。
(これでいつもの関係に戻れる。前みたいにむかつく上司として、館林のことを思おう)
ユウコはそう決めると、必死に顔を作って過ごした。
「I’m leaving. Take care」
アイリーンがいつもの通り午後5時きっかりに会社を去る。ユウコも本当は帰りたかったが、仕事が山積みで帰れる状態ではなかった。
「社長。ひさびさの仕事で疲れたんじゃないんですか?後は私がしておくので大丈夫ですよ」
ユウコは不自然にならないように笑顔を浮かべる。
このまま館林を事務所に二人でいるのは避けたかった。
一人で心を落ち着けたかった。
「鈴木、お前、俺のこと避けてる?」
「そ、そんなことないですよ。考えすぎですよ。社長」
ユウコは館林の視線から逃げるように顔を背け、そう答える。
忙しいところを見せて、これ以上の詮索をさせないように、マウスを動かし、画面上のエクセルファイルに視線を向ける。
「そうか。だったらいいけど。なあ。鈴木。またお前に世話になったな。お礼に今度……」
「お礼?お礼は休暇がいいです。ほら、社長がいない間、結構遅くまで残業してたんで疲れてるんですよ。有給取らしてください」
「そ、そうか。うん、わかった。俺はしばらく事務所でしか仕事できないから、ツアーガイドは外注する。だから、お前はいつでも休めるぞ」
「うれしいです。じゃあ、来週1週間休みを取りますね」
それ以上の話はしたくないと、ユウコは手元のファイルを開くと、電話をかけ始める。
館林のため息を聞こえたが、ユウコは聞こえない振りをした。
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