赴任先の俺様上司と私

ありま氷炎

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最悪のシチュエーション

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「気持ち悪い……」

 目が覚めるとまずはその気持ち悪さに驚いた。
 そして見慣れぬ部屋に自分がいるのがわかる。

「?」

 体を起こすと、はらりと浴衣がはだけ、ブラが見えそうになり、ユウコは胸元を押さえる。そしてほどけた浴衣の帯を探すとベッドから立ち上がる。帯を締め直し、寝室を出て、リビングに出たところでソファに男が寝ているに気がついた。

「?!」

(館林?!)
 
 ユウコは眩暈がしそうになる自分を奮い立たせ、昨日のことを思いだそうを頭に手を当てる。

(確か、確か、昨日ホテルのパーティに参加して…そうそうバットマンの格好をした男と話したわ)

 館林とはアイリーンの歌を一緒に聞いていた記憶が残っていた。

(なんで?どうして私、彼と同じ家にいるの?っていうかここ、彼の家?どうしたらそういうシチュエーションになるわけ?だって一緒に飲んでいたのは別の男だし……)

 ユウコは頭痛がして、その場に座り込む。そして吐き気までこみ上げてきて、慌ててトイレを探す。
 トイレらしい個室を空け、慌てて入ると一気に便器に向かって異物を吐きだす。

「気持ち悪い……」

 こんなになるまで飲むなんて久々だった。

(やっぱり、記憶があいまいだわ。やっぱり、やっぱり、まさか、私、彼とやっちゃったとか?)

 口を蛇口の水でそそぎ、ティッシュで口を拭うと便器のノズルを押し、全てを押し流す。
 これからのことを考え、ユウコは絶望的な気持ちになった。
 
(一番避けたかったシチュエーションなのに!あー!!私の馬鹿!)

「おはよう」

 トイレから出ると、ソファから体を起こした館林がにやにや笑いながらユウコを見ていた。

「しゃ、社長!すみません!どうか、昨日のことはなかったことに!」

 先手必勝とばかりユウコはぺこりと頭を下げる。
  覚えはないが館林と寝た確率はかなり高かった。

「……覚えてないのか?」
「はあ…」
「いやいや、昨日は本当激しかったなあ。お前淡白と思うつつ…」

 社長の言葉にユウコの動悸が激しくなり、顔を蒼白にさせていく。

(まったく覚えがない。なんで私もよりによってこいつと!)

「なーんて冗談だ」

 顔を完全に真っ青にさせたユウコに館林はくすっと笑う。

「なーにもって、何もなかったよ。男に連れていかれそうになった酔っ払いのお前を家に送り届けようとしたんだけど、酔いつぶれてしょうがないから家に連れてきた。帯がついてないのは、苦しそうだったから緩めただけだ」
「……あ、そうなんですか。よかった……」

(良かった……。最悪のシチュエーションは避けられた。酔っぱらった情けない姿を見られたのがしょうがないとして、寝てなくてほんとよかった)
 
 ユウコが安堵して胸をなでおろしたのを見て、館林は少し怒ったような顔をする。

「少しもよかったじゃないぞ。俺が止めないとお前は確実にあの男にやられていた。本当日本人の女は股が緩いって思われてるから狙われるんだ」
「?!」

(股が緩いぃ!!なんてこと言うのよ、この男はまったく!)

「まあ、その調子じゃ俺は余計なお世話にしたみたいだな。俺が止めなきゃ、セフレくらいには慣れたかもしれないしな」
「せ、セフレぇ!」
 
(許せない。 黙っていたら、なんか人を馬鹿にするようなことばかり。やっぱりこの男、大嫌いだ!)

「社長。言わせていただきますけど、日本人の女とばかり言いますが、日本人の男もどうかと思いますよ。赤線地帯で遊ぶのは大概日本人の男、日本人といえば一皮むけばスケベなことしか考えてない、そう思われているの、わかってますか?」
「そうだな。確かに。俺はそれを否定しないが?」

 顔色変えずさらっと言われ、ユウコは顔を真っ赤にさせる。

「……ならいいです。昨日はお世話になりました。帰ります」

 自分の口撃が全く役に立たないとわかり、ユウコはいたたまれなく、くるりと館林に背を向けた。
 自分を卑下されているような気持ちになり、鼻がつんとする。
 
(まずい、このままじゃ泣いてしまう。この人の前では絶対に弱みなんて見せたくない)

「……悪かったな。でも俺は日本人の女が海外の男に軽く扱われるのが嫌なんだ。だから悪い言い方して悪かった。ほら、お前の鞄」

 玄関に向かって歩くユウコに近づき、館林は鞄をその手に握らせる。

「明日は休んでもいいぞ。明日は俺が事務所にいるから」

 ユウコは館林の言葉を背中で聞いて、そのまま玄関から出て行った。
 確かに館林の言葉は一理ある。
 どうにでもなれと楽しくなってカクテルを水のように煽った。
 男は明らかに自分を寝るのが目的だった。

(馬鹿みたいだわ)

 ユウコはコンドミニアムの外に出て、タクシーを拾うと逃げるように帰路を急いだ。

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