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きっかけはクリスマス
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「乾杯!」
灘さんがそう言ってパーティーが始まる。
「王さん、白酒ってうまいの?」
「おいしいですよ」
なんで秀雄は白酒を持って来たんだろう?そんなことを思いながら俺は料理を口に入れる。鶏もも肉の唐揚げはパリッとしていて食べるのと香ばしい香りが口の中に広がった。
「うまーい!」
「うん、マジでうまい。灘すごいなあ」
「そう?よかった」
俺と実田先輩に言葉に灘さんはにこりと微笑む。
ふとその無邪気な笑顔に気を取られ、俺は嫌な気持ちになる。
いや、俺やっぱり、おかしいわ。
酒でも飲んでちょっと気を紛らわせよう。
「よっし。ケーキ食べようぜ」
2時間ほど過ぎたところで灘さんがそう言い、冷蔵庫から俺の作ったケーキを取り出す。
「え?手作り?」
「そうだぜ。忠史が作ったんだ」
なぜか灘さんが胸を張ってそう言い、俺は笑ってしまう。
本当子供みたいだな。
「紀原くん、すごいなあ。ケーキとか作れるんだ」
「本当ですね。そんな才能があったは知りませんでしたよ」
実田先輩と秀雄が感心した様子で俺を見て、俺は照れてしまう。
「神業みたいだったぜ。さあ、食べよう」
「あ、皿は俺がとってきます」
俺は包丁を持ち、今にでも切ろうとしている灘さんにそう言って台所に走る。
「いっただきまーす」
「うっまーい」
「うん。美味しい」
「あ、本当だ。よかった」
俺達はそんなことを言いながらケーキを食べ始める。
ケーキは思ったよりうまく出来てて俺はほっとした。
中でも灘さんが幸せそうに微笑むから、俺も釣られて顔がほころぶ。
ケーキを食べ終わり、秀雄が勧めるので俺達は白酒を飲み始めた。
「きっつー。でもうまい」
「あ、灘さん。そんな一気に飲んだらやばいですよ」
「そうだ。灘。この酒はやばいから。ちびちび飲む方がいいんだ」
ほろ酔い加減で頬を染めた実田先輩がそう言って、俺はやっぱりその可愛らしさに見とれてしまう。しかし、秀雄の恐ろしい視線を受けて、俺は慌てて視線を外した。
「いやあ。気分は最高!」
「灘、それってどこかで聞いたことある言葉」
30分後、白酒ですっかりテンションが上がった二人はけらけらと笑いだす。
俺は中国で白酒の強さを味わっているから、ちびちびと飲み二人の様子を観察していた。二人はやっぱり似ていて、仲がいい。だから秀雄は今日、参加したんだろうと思う。
「忠史(ジョンシ)。君は灘(タン)が好きなのですか?」
「タン?灘さん??……冗談!ありえないですよ。なんか一緒に準備するって約束したから今日は付き合ってるだけなんです」
「だったらいいですけど。勇が気にしています。だから……。私がそんなこと言う権利はないですけど」
秀雄は少し悲しそうに笑う。
実田先輩は秀雄と暮らしてるけど、やっぱりゲイだと思われることに抵抗があるらしい。俺はゲイであることに誇りをもっているから、わからないけど、やっぱりノーマルな人はそうなんだろうな。
だから秀雄も苦しむ。
でも二人が選んだ道だもんな。
という俺もあの時、秀雄がこなかったら自分の欲望のまま、先輩を抱いてしまうところだった。それくらい先輩は可愛い。
「忠史(ジョンシ)。勇に今度手を出したら覚えていてくださいね」
秀雄は、先輩を熱い目で見ていた俺に気が付き、凍てつく声で俺に囁く。
部屋は暖かいはずなのに、冷たい風が吹いた気分になり、俺は体を震わせる。
いや、この人敵に回したら死ぬ。
「さあ、私達は帰りますかね。もう少ししたら吐いてしまうかもしれないですし」
おびえる俺の側から腰を上げ、彼は愛しい彼氏に近付く。
「え、帰る?いやだ。俺はもう少し飲みたい」
「そうだぜ。クリスマスの夜。一緒に楽しもうぜ」
「悪いですけど、明日も仕事ですし。帰ります」
不服そうな二人にピシャリと言い、秀雄は実田先輩の腰に手をやる。そして何かを囁いたみたいで先輩の顔が一気に真っ赤になった。
……エロい。
絶対にエロいこと言ったんだ。今。
「忠史も帰るのか?」
玄関に向かおうとする二人から視線を外して、灘さんがそう問う。
なんだか置いてきぼりにされた子供のようで俺は思わず同情してしまった。
「えっと、俺はしばらくいます。片付けとかも大変そうだし」
「そうか?ありがとう!」
一気にくっしゃと顔を綻ばせて笑う灘さんが本当に可愛く見えて、俺は慌てて視線をそらす。
イヤ、違うから
「じゃ、メリークリスマス~」
「はい」
「灘、悪いなあ。今度またな~」
秀雄に支えられて、実田先輩が歩き出す。
彼が言ったことは案外嘘じゃないかもな。あれ以上飲んだら吐いていたかもしれない。
え、でも。先輩って弱いほうじゃなかったのになあ。
あ、白酒か。
先輩は白酒に弱いのか。だから、秀雄を敢えて持ってきたのか。
早く帰るために。
本当、用意周到だ。
「じゃ、飲みなおそうぜ」
二人っきりになったリビングルームはなんだかがらんとしていた。
灘さんが少しさびしそうで、俺はテレビのスイッチを入れる。
するとクリスマスソングが流れてきて、俺はほっとした。
片付けして、とっとと帰ろうかな。
ソファでグラスを片手にテレビを見る彼を見ながら俺はそんなことを思う。
「忠史、今日泊まっていく?」
「え?!いや、いいですよ。まだ終電ありますし」
「そうか」
俺の答えに灘さんがぼそっとつぶやく。
本当、この人がわからない。
俺はゲイなんだぞ。
襲われても問題がないってことか?
いや、灘さんを襲うなんてありえないけど。
「……なんかさあ、クリスマスの夜を一人で過ごすのって苦手なんだ。お祭りのときは大概人と一緒にいないと落ち着かない。取り残されたような気分になるのが嫌なんだ。だから去年も勇に付き合ってもらった。きっとちゃんとした彼女がいればいいんだけど、いつもイベント前に振られるんだよな」
「………」
確かに俺も祭り気分の時に一人でいるのは好きじゃない。だから去年も確かゲイバーでクリスマスを迎えたんだっけ。
「わかりました。俺今日泊まります」
早起きして、家に帰ればいいか。
まあ、俺もクリスマスの夜は人と過ごすほうがいいし。
「サンタクロースって本当にいるのかな」
「?!」
何言って。まあ、酔っ払いだからしょうがないか。
「いるんじゃないですか?だからそういう物語が作られる」
俺は適当にそう答える。
サンタクロースなんて小さい時から信じたことはない。
クリスマスプレゼントは親が買っていた。
幼稚園の時など信じていた子もいたけど。
「いたらいいよな。その方が楽しいし、幸せだ」
灘さんはクリスマス用の映画が流れているテレビ画面を見ている。
『34丁目の奇跡』か……
俺はその映画のタイトルを思い出す。
灘さんは無言のまま食い入るように見ていて、俺はその横顔に目をやる。
好みじゃない。
美しくないし、可愛くない。
でも愛嬌がある顔だよな。
変な人だし……でも一緒にいると楽しくなる人だ。
「あ、俺トイレに行ってきます」
「あ、うん」
サンタクロースが本当に好きなんだろうな、俺は画面に出てきたサンタクロースに目を向けたままの灘さんにそう言って、ソファから腰を上げる。
もう11時かあ。
こんなことになるなら着替えもってくればよかったな。
「あ、灘さん?!」
トイレから戻ると彼の姿が見えなくて、俺はぎょっとする。しかし近付くと彼がソファの上で猫のように体を丸くして寝ているのがわかった。
「まったく……」
秀雄がすこし片付けてくれたおかげでそこまでは多くはないが、食器などがまだ置いてあり俺は溜息をつく。
俺は彼の部屋に入って毛布を取ると彼にかけた。
片付けが終わってから、運べばいいか。
「……忠史?悪い!」
食器をほとんど片付け、余った料理を冷蔵庫に入れたところでそんな声が聞こえる。灘さんが慌てて台所まで駆けてきた。
「もう終わりましたから。明日仕事ですよね。もう寝ましょう」
「嫌だ。俺は起きてる」
子供かよ。この人は。
「忠史は俺のベッド借りていいから。俺、リビングで寝る」
「え?!俺がリビングで寝ますよ」
「いや、俺がリビング。見たい映画もあるし」
「じゃあ、そうします」
一緒にリビングのソファでテレビを見るものおかしな話だと思い、それは灘さんの言葉に甘えることにした。
彼のベッドにごろんと横になる。
男臭い匂いがするのかと思ったが、そうではなくて爽やかな石鹸の香りがした。
しかし、疲れているはずなのに何度寝返りを打っても睡魔はやってこず、俺はリビングリームに再び戻った。
じっと膝を抱え、灘さんがテレビを見ていた。見ているのはやっぱりクリスマスの映画で、本当にこの人は子供だなと思った。
「あ、俺も見てもいいですか?」
「あ、うん」
俺が起きていたことに驚いたが、彼は頷くとソファの端っこに移動した。
「そこ、見えますか?もしかして警戒してます?大丈夫です。俺、ゲイですけど。節度はありますから」
「悪い。ごめん」
灘さんはそう言って笑うと少し中央に寄ってきて、膝を抱える。
この人は本当にさびしがり屋なんだと思う。
俺もそうだけど、俺より酷いかもな。
クリスマスの映画は見たことがないもので、コメディタッチのものだった。久々に映画を見る俺はなんだかんだ、夢中になっていた。
「!?灘さん?!」
肩にふいに重みがかかり、俺は驚く。
しかし、彼が寝ていることに気が付き、苦笑した。
まったく灘さんは……起きたら悲鳴あがるかもな。
その夜俺は結局寝入った灘さんを起こすのも悪いと思って、そのままソファに腰掛けていた。
朝方うとうとしていると、驚いた形相の灘さんが膝の上で眼を覚ましていた。
どうやら、肩だけじゃなくて、膝まで俺は貸してしまったらしい。
灘さんは無言で起き上がると部屋に篭ってしまった。
結局、部屋から出て来なかったから、俺は声をかけて部屋を後にした。
彼のショックはなんとなくわかる。
俺はゲイだ。
そのゲイの俺に膝枕をしてもらったんだからノン気な彼としてはショックだろう。
でも俺は灘さんの気持ちに反して、なんだかちょっと、幸せな気分になっていた。
思わず触れてしまった彼の髪が硬くてごわごわだった。でもその寝顔を可愛くて、ずっと見ていたくなるくらいだった。
そう、これは俺が彼のことを好きになったきっかけだ。
そしてその思いが確信と変わったのは、それから5日後の大晦日の夜だった。
灘さんがそう言ってパーティーが始まる。
「王さん、白酒ってうまいの?」
「おいしいですよ」
なんで秀雄は白酒を持って来たんだろう?そんなことを思いながら俺は料理を口に入れる。鶏もも肉の唐揚げはパリッとしていて食べるのと香ばしい香りが口の中に広がった。
「うまーい!」
「うん、マジでうまい。灘すごいなあ」
「そう?よかった」
俺と実田先輩に言葉に灘さんはにこりと微笑む。
ふとその無邪気な笑顔に気を取られ、俺は嫌な気持ちになる。
いや、俺やっぱり、おかしいわ。
酒でも飲んでちょっと気を紛らわせよう。
「よっし。ケーキ食べようぜ」
2時間ほど過ぎたところで灘さんがそう言い、冷蔵庫から俺の作ったケーキを取り出す。
「え?手作り?」
「そうだぜ。忠史が作ったんだ」
なぜか灘さんが胸を張ってそう言い、俺は笑ってしまう。
本当子供みたいだな。
「紀原くん、すごいなあ。ケーキとか作れるんだ」
「本当ですね。そんな才能があったは知りませんでしたよ」
実田先輩と秀雄が感心した様子で俺を見て、俺は照れてしまう。
「神業みたいだったぜ。さあ、食べよう」
「あ、皿は俺がとってきます」
俺は包丁を持ち、今にでも切ろうとしている灘さんにそう言って台所に走る。
「いっただきまーす」
「うっまーい」
「うん。美味しい」
「あ、本当だ。よかった」
俺達はそんなことを言いながらケーキを食べ始める。
ケーキは思ったよりうまく出来てて俺はほっとした。
中でも灘さんが幸せそうに微笑むから、俺も釣られて顔がほころぶ。
ケーキを食べ終わり、秀雄が勧めるので俺達は白酒を飲み始めた。
「きっつー。でもうまい」
「あ、灘さん。そんな一気に飲んだらやばいですよ」
「そうだ。灘。この酒はやばいから。ちびちび飲む方がいいんだ」
ほろ酔い加減で頬を染めた実田先輩がそう言って、俺はやっぱりその可愛らしさに見とれてしまう。しかし、秀雄の恐ろしい視線を受けて、俺は慌てて視線を外した。
「いやあ。気分は最高!」
「灘、それってどこかで聞いたことある言葉」
30分後、白酒ですっかりテンションが上がった二人はけらけらと笑いだす。
俺は中国で白酒の強さを味わっているから、ちびちびと飲み二人の様子を観察していた。二人はやっぱり似ていて、仲がいい。だから秀雄は今日、参加したんだろうと思う。
「忠史(ジョンシ)。君は灘(タン)が好きなのですか?」
「タン?灘さん??……冗談!ありえないですよ。なんか一緒に準備するって約束したから今日は付き合ってるだけなんです」
「だったらいいですけど。勇が気にしています。だから……。私がそんなこと言う権利はないですけど」
秀雄は少し悲しそうに笑う。
実田先輩は秀雄と暮らしてるけど、やっぱりゲイだと思われることに抵抗があるらしい。俺はゲイであることに誇りをもっているから、わからないけど、やっぱりノーマルな人はそうなんだろうな。
だから秀雄も苦しむ。
でも二人が選んだ道だもんな。
という俺もあの時、秀雄がこなかったら自分の欲望のまま、先輩を抱いてしまうところだった。それくらい先輩は可愛い。
「忠史(ジョンシ)。勇に今度手を出したら覚えていてくださいね」
秀雄は、先輩を熱い目で見ていた俺に気が付き、凍てつく声で俺に囁く。
部屋は暖かいはずなのに、冷たい風が吹いた気分になり、俺は体を震わせる。
いや、この人敵に回したら死ぬ。
「さあ、私達は帰りますかね。もう少ししたら吐いてしまうかもしれないですし」
おびえる俺の側から腰を上げ、彼は愛しい彼氏に近付く。
「え、帰る?いやだ。俺はもう少し飲みたい」
「そうだぜ。クリスマスの夜。一緒に楽しもうぜ」
「悪いですけど、明日も仕事ですし。帰ります」
不服そうな二人にピシャリと言い、秀雄は実田先輩の腰に手をやる。そして何かを囁いたみたいで先輩の顔が一気に真っ赤になった。
……エロい。
絶対にエロいこと言ったんだ。今。
「忠史も帰るのか?」
玄関に向かおうとする二人から視線を外して、灘さんがそう問う。
なんだか置いてきぼりにされた子供のようで俺は思わず同情してしまった。
「えっと、俺はしばらくいます。片付けとかも大変そうだし」
「そうか?ありがとう!」
一気にくっしゃと顔を綻ばせて笑う灘さんが本当に可愛く見えて、俺は慌てて視線をそらす。
イヤ、違うから
「じゃ、メリークリスマス~」
「はい」
「灘、悪いなあ。今度またな~」
秀雄に支えられて、実田先輩が歩き出す。
彼が言ったことは案外嘘じゃないかもな。あれ以上飲んだら吐いていたかもしれない。
え、でも。先輩って弱いほうじゃなかったのになあ。
あ、白酒か。
先輩は白酒に弱いのか。だから、秀雄を敢えて持ってきたのか。
早く帰るために。
本当、用意周到だ。
「じゃ、飲みなおそうぜ」
二人っきりになったリビングルームはなんだかがらんとしていた。
灘さんが少しさびしそうで、俺はテレビのスイッチを入れる。
するとクリスマスソングが流れてきて、俺はほっとした。
片付けして、とっとと帰ろうかな。
ソファでグラスを片手にテレビを見る彼を見ながら俺はそんなことを思う。
「忠史、今日泊まっていく?」
「え?!いや、いいですよ。まだ終電ありますし」
「そうか」
俺の答えに灘さんがぼそっとつぶやく。
本当、この人がわからない。
俺はゲイなんだぞ。
襲われても問題がないってことか?
いや、灘さんを襲うなんてありえないけど。
「……なんかさあ、クリスマスの夜を一人で過ごすのって苦手なんだ。お祭りのときは大概人と一緒にいないと落ち着かない。取り残されたような気分になるのが嫌なんだ。だから去年も勇に付き合ってもらった。きっとちゃんとした彼女がいればいいんだけど、いつもイベント前に振られるんだよな」
「………」
確かに俺も祭り気分の時に一人でいるのは好きじゃない。だから去年も確かゲイバーでクリスマスを迎えたんだっけ。
「わかりました。俺今日泊まります」
早起きして、家に帰ればいいか。
まあ、俺もクリスマスの夜は人と過ごすほうがいいし。
「サンタクロースって本当にいるのかな」
「?!」
何言って。まあ、酔っ払いだからしょうがないか。
「いるんじゃないですか?だからそういう物語が作られる」
俺は適当にそう答える。
サンタクロースなんて小さい時から信じたことはない。
クリスマスプレゼントは親が買っていた。
幼稚園の時など信じていた子もいたけど。
「いたらいいよな。その方が楽しいし、幸せだ」
灘さんはクリスマス用の映画が流れているテレビ画面を見ている。
『34丁目の奇跡』か……
俺はその映画のタイトルを思い出す。
灘さんは無言のまま食い入るように見ていて、俺はその横顔に目をやる。
好みじゃない。
美しくないし、可愛くない。
でも愛嬌がある顔だよな。
変な人だし……でも一緒にいると楽しくなる人だ。
「あ、俺トイレに行ってきます」
「あ、うん」
サンタクロースが本当に好きなんだろうな、俺は画面に出てきたサンタクロースに目を向けたままの灘さんにそう言って、ソファから腰を上げる。
もう11時かあ。
こんなことになるなら着替えもってくればよかったな。
「あ、灘さん?!」
トイレから戻ると彼の姿が見えなくて、俺はぎょっとする。しかし近付くと彼がソファの上で猫のように体を丸くして寝ているのがわかった。
「まったく……」
秀雄がすこし片付けてくれたおかげでそこまでは多くはないが、食器などがまだ置いてあり俺は溜息をつく。
俺は彼の部屋に入って毛布を取ると彼にかけた。
片付けが終わってから、運べばいいか。
「……忠史?悪い!」
食器をほとんど片付け、余った料理を冷蔵庫に入れたところでそんな声が聞こえる。灘さんが慌てて台所まで駆けてきた。
「もう終わりましたから。明日仕事ですよね。もう寝ましょう」
「嫌だ。俺は起きてる」
子供かよ。この人は。
「忠史は俺のベッド借りていいから。俺、リビングで寝る」
「え?!俺がリビングで寝ますよ」
「いや、俺がリビング。見たい映画もあるし」
「じゃあ、そうします」
一緒にリビングのソファでテレビを見るものおかしな話だと思い、それは灘さんの言葉に甘えることにした。
彼のベッドにごろんと横になる。
男臭い匂いがするのかと思ったが、そうではなくて爽やかな石鹸の香りがした。
しかし、疲れているはずなのに何度寝返りを打っても睡魔はやってこず、俺はリビングリームに再び戻った。
じっと膝を抱え、灘さんがテレビを見ていた。見ているのはやっぱりクリスマスの映画で、本当にこの人は子供だなと思った。
「あ、俺も見てもいいですか?」
「あ、うん」
俺が起きていたことに驚いたが、彼は頷くとソファの端っこに移動した。
「そこ、見えますか?もしかして警戒してます?大丈夫です。俺、ゲイですけど。節度はありますから」
「悪い。ごめん」
灘さんはそう言って笑うと少し中央に寄ってきて、膝を抱える。
この人は本当にさびしがり屋なんだと思う。
俺もそうだけど、俺より酷いかもな。
クリスマスの映画は見たことがないもので、コメディタッチのものだった。久々に映画を見る俺はなんだかんだ、夢中になっていた。
「!?灘さん?!」
肩にふいに重みがかかり、俺は驚く。
しかし、彼が寝ていることに気が付き、苦笑した。
まったく灘さんは……起きたら悲鳴あがるかもな。
その夜俺は結局寝入った灘さんを起こすのも悪いと思って、そのままソファに腰掛けていた。
朝方うとうとしていると、驚いた形相の灘さんが膝の上で眼を覚ましていた。
どうやら、肩だけじゃなくて、膝まで俺は貸してしまったらしい。
灘さんは無言で起き上がると部屋に篭ってしまった。
結局、部屋から出て来なかったから、俺は声をかけて部屋を後にした。
彼のショックはなんとなくわかる。
俺はゲイだ。
そのゲイの俺に膝枕をしてもらったんだからノン気な彼としてはショックだろう。
でも俺は灘さんの気持ちに反して、なんだかちょっと、幸せな気分になっていた。
思わず触れてしまった彼の髪が硬くてごわごわだった。でもその寝顔を可愛くて、ずっと見ていたくなるくらいだった。
そう、これは俺が彼のことを好きになったきっかけだ。
そしてその思いが確信と変わったのは、それから5日後の大晦日の夜だった。
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