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きっかけはクリスマス
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「すげぇ。お菓子作り専門店みたいだ」
俺のアパートに入り、台所を見た灘さんが溜息をつく。
俺にとっては普通だが、ホームベーカーリーとか、ケーキの型とかが家にあるのは驚きらしい。
「忠史……。ブッシュドノエルとか作れる?」
「え、まあ。サンタの砂糖菓子とかは無理ですけど」
「じゃ、ブッシュドノエル作って!俺、アレ大好きなんだよなあ」
灘さんは子供みたいに笑う。
それがなんだか可愛いと思ってしまい、俺ははっと苦い顔になる。
男だったら誰でもいいわけじゃないんだ。
俺は!
「灘さんの家にはオーブンありますよね?」
「うん。天板だっけ?それも付いてるよ」
「だったら、クッキングシートを引けばOKっかあ。あとは」
俺はがさごそとケーキ作りに必要な道具を探す。
材料も買わないと……
「ケーキの材料買わないとやばいよな。どこか行きたい店ある?」
「あります」
連れて行ってもらえるなら、粉とか生クリームとかいいものが揃っている店に行きたい。
俺はそう思い、灘さんに連れていったもらうことにした。
「………やばいな。この店」
「そうですよね。俺、一人で行ってきますから」
女の目線なんてどうでもいい、俺はその店の前で足をすくませた灘さんにそう言った。お菓子作りの店らしく、客層は女性だけ、しかも店内はピンクだった。
俺は俺を好奇の目でみる女たちを無視して、自分の必要なものを探していく。
灘さんを待たせるわけにもいかないし、手際良く。
「すげぇ」
しかし、久々にきたその店で使い勝手がよさそうな道具をみてしまい、俺は時間を忘れてしまった。
「……忠史。探し物見つかった?」
ぼそってそう声が聞こえ、俺ははっと我に変える。
側にいたのはちょっと顔を赤くした灘さんで、俺はいつもと違う彼の様子に気を取られた。
「悪いけど、やっぱりきついな。この店。俺、近くの喫茶店で待ってるから。終わったら電話して」
「あ、もう終わります。会計しますからちょっと待っててください」
俺は買い物籠を抱えるとレジに走る。
いや、灘さんでもあんな顔するんだな。
やっぱり女ばかりの店だから恥ずかしいんだ。
ちょっと可愛かったかも。
イヤイヤ、おかしなことを考えちゃだめだ。
どう考えても好みじゃないんだから!
「お待たせしました」
俺は買い物袋を抱え、店の前で待っていた灘さんに頭を下げる。
「面白いものあったんだ?」
すっかり元の灘さんに戻った様子で、彼はひょいと袋を一つかっさらう。
「いいですよ。俺が持ちます」
「いいって」
彼はそう言うとてくてくと、駐車場に歩いて行った。
「………」
買い物を全て終え、灘さんの家に戻ったのは5時近くだった。
「疲れた?もう5時だよなあ。腹減った?何か食べて行く?」
彼は冷蔵庫に食料品を入れながら、そう聞く。
「いや、いいですよ。俺適当に食べますから」
なんだか、これ以上一緒にいない方がいいような気がして俺はそう答えた。
「あ、でも二人分作るのも一人分作るのも一緒だから食べていけば?酒飲むから帰りは送れないけど」
灘さんにそう言われ、夕飯を共にすることになった。
「うまい」
「そう?よかった」
灘さんの料理は本人が好きなだけあって美味しかった。
これはクリスマスは期待できそうだ。
そうだ、俺も頑張ってケーキ作んなきゃなあ。焼いて冷やしたりだから、昼から休みを取るか。っていうか、それなら自宅で作って運んだ方がよそうだ。
「灘さん。やっぱり俺、家でケーキ作って持ってきますよ。結構作るの時間かかりそうだから、家で作った方がいいかもしんないですし」
「何時から作るの?」
「えっと、多分3時くらい」
「だったらうちに3時くらいにくれば。俺25日は休みを取ること決めたし」
「休み?!」
「うん。なんかさあ、色々作ろうと思ったら休み取った方がいいと思ってさあ。去年はほとんど持ち込みだったけど、今年は作るからさ」
休みって、やっぱり灘さん。ちょっとおかしいかも。
しかも休みとるなら、ケーキとか余裕で買えるんじゃ……
ま、いいか。作るの好きだし。
作ることに対して自分が楽しんでるのがわかり、なんだか苦笑してしまう。
好きな人のために作るわけでもないのにな。
「やっぱりおかしいか。男だけのパーティー。しかも俺達4人だしな」
灘さんは俺の苦笑にちょっと恥ずかしそうに笑う。
なんか、これって照れてるのか?
……もしかして、灘さん。
俺のこと好き?
俺はふいにそんなことを思う。
だって普通は男同志のパーティーでそんな大がかりなことしないし、ましては料理のために休むなんて。
「何?」
俺がじっと見ていたのを不思議がり、灘さんが尋ねる。
「灘さん……」
聞いてどうする。
もし彼が俺のこと好きでも彼は俺の対象外だ。
聞けるわけない。
「ごちそうさまでした。俺、もう帰りますね。25日、3時くらいにまた来ますから」
俺は自分が使っていた食器を持つと台所のシンクに入れる。
「ああ、俺が後で洗うから。置いといて」
「じゃ、遠慮なく」
俺は鞄を掴むと玄関へ歩き出す。その後を灘さんがてくてくと付いてきた。
「今日は買い物に付き合ってくれてありがとう。楽しかった。またな!」
玄関で手をひらひらと振られ、俺はなんだか少し悲しくなる。
「こちらこそ楽しかったです。夕飯も美味しかったです。ご馳走様でした」
しかし俺は自分のおかしな気持ちを振り払うと頭を下げ、玄関のドアを開けた。
俺のアパートに入り、台所を見た灘さんが溜息をつく。
俺にとっては普通だが、ホームベーカーリーとか、ケーキの型とかが家にあるのは驚きらしい。
「忠史……。ブッシュドノエルとか作れる?」
「え、まあ。サンタの砂糖菓子とかは無理ですけど」
「じゃ、ブッシュドノエル作って!俺、アレ大好きなんだよなあ」
灘さんは子供みたいに笑う。
それがなんだか可愛いと思ってしまい、俺ははっと苦い顔になる。
男だったら誰でもいいわけじゃないんだ。
俺は!
「灘さんの家にはオーブンありますよね?」
「うん。天板だっけ?それも付いてるよ」
「だったら、クッキングシートを引けばOKっかあ。あとは」
俺はがさごそとケーキ作りに必要な道具を探す。
材料も買わないと……
「ケーキの材料買わないとやばいよな。どこか行きたい店ある?」
「あります」
連れて行ってもらえるなら、粉とか生クリームとかいいものが揃っている店に行きたい。
俺はそう思い、灘さんに連れていったもらうことにした。
「………やばいな。この店」
「そうですよね。俺、一人で行ってきますから」
女の目線なんてどうでもいい、俺はその店の前で足をすくませた灘さんにそう言った。お菓子作りの店らしく、客層は女性だけ、しかも店内はピンクだった。
俺は俺を好奇の目でみる女たちを無視して、自分の必要なものを探していく。
灘さんを待たせるわけにもいかないし、手際良く。
「すげぇ」
しかし、久々にきたその店で使い勝手がよさそうな道具をみてしまい、俺は時間を忘れてしまった。
「……忠史。探し物見つかった?」
ぼそってそう声が聞こえ、俺ははっと我に変える。
側にいたのはちょっと顔を赤くした灘さんで、俺はいつもと違う彼の様子に気を取られた。
「悪いけど、やっぱりきついな。この店。俺、近くの喫茶店で待ってるから。終わったら電話して」
「あ、もう終わります。会計しますからちょっと待っててください」
俺は買い物籠を抱えるとレジに走る。
いや、灘さんでもあんな顔するんだな。
やっぱり女ばかりの店だから恥ずかしいんだ。
ちょっと可愛かったかも。
イヤイヤ、おかしなことを考えちゃだめだ。
どう考えても好みじゃないんだから!
「お待たせしました」
俺は買い物袋を抱え、店の前で待っていた灘さんに頭を下げる。
「面白いものあったんだ?」
すっかり元の灘さんに戻った様子で、彼はひょいと袋を一つかっさらう。
「いいですよ。俺が持ちます」
「いいって」
彼はそう言うとてくてくと、駐車場に歩いて行った。
「………」
買い物を全て終え、灘さんの家に戻ったのは5時近くだった。
「疲れた?もう5時だよなあ。腹減った?何か食べて行く?」
彼は冷蔵庫に食料品を入れながら、そう聞く。
「いや、いいですよ。俺適当に食べますから」
なんだか、これ以上一緒にいない方がいいような気がして俺はそう答えた。
「あ、でも二人分作るのも一人分作るのも一緒だから食べていけば?酒飲むから帰りは送れないけど」
灘さんにそう言われ、夕飯を共にすることになった。
「うまい」
「そう?よかった」
灘さんの料理は本人が好きなだけあって美味しかった。
これはクリスマスは期待できそうだ。
そうだ、俺も頑張ってケーキ作んなきゃなあ。焼いて冷やしたりだから、昼から休みを取るか。っていうか、それなら自宅で作って運んだ方がよそうだ。
「灘さん。やっぱり俺、家でケーキ作って持ってきますよ。結構作るの時間かかりそうだから、家で作った方がいいかもしんないですし」
「何時から作るの?」
「えっと、多分3時くらい」
「だったらうちに3時くらいにくれば。俺25日は休みを取ること決めたし」
「休み?!」
「うん。なんかさあ、色々作ろうと思ったら休み取った方がいいと思ってさあ。去年はほとんど持ち込みだったけど、今年は作るからさ」
休みって、やっぱり灘さん。ちょっとおかしいかも。
しかも休みとるなら、ケーキとか余裕で買えるんじゃ……
ま、いいか。作るの好きだし。
作ることに対して自分が楽しんでるのがわかり、なんだか苦笑してしまう。
好きな人のために作るわけでもないのにな。
「やっぱりおかしいか。男だけのパーティー。しかも俺達4人だしな」
灘さんは俺の苦笑にちょっと恥ずかしそうに笑う。
なんか、これって照れてるのか?
……もしかして、灘さん。
俺のこと好き?
俺はふいにそんなことを思う。
だって普通は男同志のパーティーでそんな大がかりなことしないし、ましては料理のために休むなんて。
「何?」
俺がじっと見ていたのを不思議がり、灘さんが尋ねる。
「灘さん……」
聞いてどうする。
もし彼が俺のこと好きでも彼は俺の対象外だ。
聞けるわけない。
「ごちそうさまでした。俺、もう帰りますね。25日、3時くらいにまた来ますから」
俺は自分が使っていた食器を持つと台所のシンクに入れる。
「ああ、俺が後で洗うから。置いといて」
「じゃ、遠慮なく」
俺は鞄を掴むと玄関へ歩き出す。その後を灘さんがてくてくと付いてきた。
「今日は買い物に付き合ってくれてありがとう。楽しかった。またな!」
玄関で手をひらひらと振られ、俺はなんだか少し悲しくなる。
「こちらこそ楽しかったです。夕飯も美味しかったです。ご馳走様でした」
しかし俺は自分のおかしな気持ちを振り払うと頭を下げ、玄関のドアを開けた。
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