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夢か現か

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 真っ暗な視界。一定のリズムで刻まれる電子音。ここはどこだろうか。
「ま……み……」
 誰かが必死に叫んでいる。女性の声。聞き覚えがある。
「まさ……み……きて……」
 体は軽い。けれど動けない。でもきっと彼女は私を呼んでいる。
真粧美まさみ! 起きて!」
 バチッと目を開ける真粧美。目の前には陽子と――死んだはずの母の姿があった。
「ママ?」
 一面真っ白な部屋に、ベッドがひとつ。清潔感のあるその部屋は、おそらく病院の個室だろう。ベッドの横には心拍を測り続ける機械があり、ベッドに寝ている人物が生きていることを伝えてくる。
 ベッドには母が横たわっている。その姿は最後の葬儀で見た姿そのものだった。対して陽子は母の寝ているベッドの横に座っている。
 とうの昔に死んだ母がいる――というか、生きている時点でおかしいが、陽子が母を見舞っているのも気になってしょうがなかった。真粧美は陽子に話しかける。
「陽子さん、どうしてここに?」
 だが陽子は聞こえてないかのように、真粧美の声にピクリとも反応しない。真粧美は手を伸ばす。――さきほどと違って今度はちゃんと動いたので、そのまま陽子の肩に触れようとする。が、
「え?」
 スカッと手がすり抜ける。何度試してみても陽子の肩には触れられず、真粧美は困惑する。
「どうして……?」
 なぜなのか分からないまま自分の手をじっと観察する。と、わずかに透けているようだった。
「……夢、かな」
 現実味のない状況に、真粧美はそう結論づけた。そもそも母が生きている時点でおかしいのだから、夢でしかないだろう。真粧美が一人で納得していると、陽子が母の手を握って話しかけた。
「早く起きなさいよ、
「はい?」
 自分の名前を呼ばれると思っていなかった真粧美。なぜ母に向かって……と思ったところで、違和感を覚える。
「うそ、これ、私?」
〝母〟に近づいて観察してみると、ホクロの位置が違う。もっと言えば自分の顔のホクロの位置そのものだ。つまりこれは、真粧美の体ということであり、真粧美は寝ている自分自身を見ているということになる。
「なんで?」
 異常な事態に真粧美は混乱し始める。これは夢なのだから現実にはありえないことが起きてもおかしくない。おかしくはないはずだが、無性に胸騒ぎがした。
「んん……」
 考えがまとまらないでいると、母もとい真粧美の体が小さく声を漏らしながらゆっくりと目を開けた。そして眩しそうに数回瞬くと、陽子の方を見た。
「どちらさまですか?」
 その声と話し方は記憶の中にある母とうりふたつであった。こんなにも自分は母と似ていたのか、と驚いていたら、陽子が別の意味で動揺しながらその問いに返事をした。
「な、何言ってんのあんた。あたしよ、陽子よ。事故ったからって記憶喪失とかの悪ノリしてるんじゃないでしょうね?」
「事故?」
 真粧美と真粧美の体がハモる。陽子は真粧美本人の方に気付いた様子を見せることなく、真粧美の体に向かって説明する。
「覚えてないの? 昨日別れたあと、あんたの乗ってたタクシーが事故ったのよ。まあ運良く運転手もあんたも命に別状はなかったけど、事故自体はでかかったのよ? 壁に激突した衝撃で車はぺちゃんこになってたらしいわよ」
「そんなことが……」
「でもとにかく無事で良かったよ。目が覚めたこと看護師さんに伝えてくるね」
 そう言うと陽子は病室を出ていく。
 残された真粧美と真粧美の体。真粧美はどうすればいいのか分からずにいると、真粧美の体が起き上がろうとする。するとその瞬間、真粧美に激痛が走った。
「いッた!」
 今までに感じたことのない痛みの強さにうめく真粧美。夢だとしてもおかしい、と思いながら体の方を見ると、同じように苦しんでいるようだった。それを見た瞬間、これは現実のことだ、と直感した。ではなぜ自分の体が自分の意思とは関係なく動いているのだろうか。なぜだか嫌な予感がした。
「真粧美? 大丈夫?」
 訳の分からない状況に戸惑っていたら陽子が看護師を連れて病室に戻ってきた。すると真粧美の体が驚いた表情を見せる。
「まさみ? 今まさみっておっしゃいましたか?」
「そ、そうだけど。え、なんで?」
「まさみは……娘の名前です」
「え?」
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