永遠の伴侶(改定前)

白藤桜空

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尾羽打ち枯らす

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 薄暗がりの後宮の一室で一人の女がうずくまり、器に向かって俯いている。
「おぇっ」
 ビチャ。
 嘔吐えずく声に、胃液の吐き出される水音が混ざる。
「はぁ……はぁ……」
 彼女は侍女に背中をさすられながら肩で荒く呼吸し、汚れた口元をぬぐう。
「おめでとうございます」
 と、侍女が言った。だが彼女の耳を素通りしたようだ。
「やっと……やっとだわ」
 仄暗く微笑んだ彼女は、一人悦に入るのであった――――






 夜空に暗雲が垂れ込めている。
 満天に輝いているはずの天の川も、今日は見ることが叶わない。
「ねえ。蝉が鳴いているわ。こんな時間に鳴くなんてあまりないわよね?」
 美琳メイリンは窓の外を見つめながら言う。
「ああ、本当だ。珍しいね」
 それに対してとこの上で胡坐をかいている文生ウェンシェンは、優しく微笑みながら応じる。しかしその目は、薄暗闇に染まった窓の外ではなく、松明に照らされた手元の木簡もっかんに向けられていた。
「文生……そんなに根詰め過ぎると体に悪いわよ?」
「うん。気をつけるね。ありがとう」
 と言いつつ、文生は顔を上げない。美琳は頬を膨らませる。
「もう!」
「あッ!」
 美琳は生返事の文生から木簡を奪うと、静端ジングウェンに取りに来させる。
「あともう少しだけ……」
「駄目よ。他にも大事ながあるでしょう?」
 そう言った美琳は、寝間着を脱ぎながらとこにいる文生の隣に座る。猫のように妖艶な色香を放つ美琳に、文生は目を細める。
「ああ……そうだね。でも君とは仕事と思ったことはないよ?」
、ね」
 美琳の笑顔が張りつく。文生は藪の蛇をつついてしまったのに気づき、慌てて話題を変える。
「あ、明日はどんな着物にするの?正式な式典は初めてなんだから、一番綺麗なのを選ぶんだよ?」
 文生が必死だったので、美琳もそれに付き合うことにした。
「……前に文生が褒めてくれたものよ」
「どれかな?君はどんなものでも着こなしちゃうから……」
「うふふ、そうね。いつも“可愛い”、“綺麗だ”って言ってくれるものね」
 わずかに機嫌の直った美琳。それを察した文生は美琳の体を抱き寄せる。
「うん。君はいつだって可愛いよ。だからどんなのを着てくれるのか気になってしょうがないんだ」
「じゃあ……当ててみて?」

 文生は妖しい微笑みを浮かべた美琳に手を解かれ、押し倒される。すると艶やかな黒髪が文生の視界を奪い、彼女の美しい肢体が眼前に迫る。
 文生はそれだけで下腹部が熱くなったのを感じた。美琳もそれが狙いだったのだろう。
 膨らみ始めの陰茎を太腿に挟んで、蠱惑的に腰をくねらせる。
 ごくり、と生唾を吞み込んだ文生。美琳の腰に手を持っていこうとした。が、それは彼女によって阻止されるのであった。
「メ、美琳?どうして?」
「あらだって、まだ当ててないじゃない」
「そういう……!」
 美琳に動きを封じられた文生は悩まし気に眉を寄せる。
「ふふふ。さ、なんだと思う?」
 文生は何故急に彼女が意地悪をしてくるのか分からず、とにかく今まで見てきた着物の特徴を答えるのであった。



 どれ程答え続けただろうか。そこそこ時間が経ったはずなのに、彼女は未だに首を縦に振らない。
「うぅ……じゃあ……あのときの……」
 文生ウェンシェンはもどかしい刺激に呻きながら、最後に脳裏をよぎったものを言う。
「あの桃の宴のときの、蝶のやつかな……?あれ、一番好きだったから」
「!」
 目を見開いた美琳メイリン。直後、それはそれは嬉しそうに笑む。
「それならあれを着るわね」
「え……?もしかして、決めてなかったの⁈」
 驚いた文生は上体を起こしかける。が、それは敢え無く押し戻されてしまう。
「だって、文生が好きなのを着たいじゃない?だから聞いておきたかったの」
「そ、それならそうと言ってくれれば……わざわざこんなことしなくても「半分それが理由」
 にこり、と美琳は微笑む。
「もう半分は……言った方がいい?」
「あ……」
 その一言で文生は悟った。まだ彼女の怒りが収まっていなかったのを。
「ごめんね、もう話題にしないから、だから……」
 文生は熱っぽく懇願し、ゆらりと腰を押し付ける。
 それを見た美琳は愛おしそうに文生に口づける。
「私こそごめんね。意地悪し過ぎたわ」
 優しく唇をみながら、美琳も謝る。と、不意に彼女の顔が曇る。

「私も……『仕方ない』ことだって分かってるのよ。でも、あの人のところに文生が行ったんだな、って思う度にここが……」
 美琳は胸を指し示す。
「『痛くなる』の」
 “不思議よね”と呟く。
「どんなに傷を負っても平気なのに、貴方のことになると、こう……『弱く』なるのよ」
「美琳……」
 文生は彼女の頬を伝う雫をぬぐう。
「大丈夫。もう体面は保ったんだから、これ以上文句は言わせないよ」
「うん……」
「きっとまだ僕らはそのときじゃないんだよ。だからゆっくり待とう?」
「……うん。そのためには」
「うッ!」
 急に加わった刺激に文生は苦悶……いや、悦楽の声を上げる。上に乗っている美琳に、秘部で男根をからだ。
 突然の刺激に気をやられかけた文生は、歯を食いしばって耐える。だが、蠱惑的に蠢く肉壺には到底敵わない。
「くッ!美琳、絞めつけ過ぎだよッ!」
「だって。ちゃんと、ん!を果たさないと……ね?」
 そう言いつつ瞳を潤ませた美琳は、自らの体重を利用して快感を貪る。
 彼女の吐息は段々と甘くなり、つられて文生の息も荒くなる。紅潮した頬で見つめ、上半身を起こして彼女の腰をき抱く。今度は美琳も素直に受け止める。
 二人の体は熱く溶け合い、夜の闇に呑み込まれていくのであった。
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