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裸足の足
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辺りが静かになると、微かに水滴がポタポタと落ちる音が聞こえる。
血だ。
俺の頭や身体から流れ落ちる血の音だ。
身動きが出来ない状態で、自分の血液が流れ落ちる音を聞いているというのは、気が狂いそうになるくらいの恐怖だ。
確実に自分が死に向かっていく音だ。
どうせなら、意識が無くなればいいと思った。しかし、妙に意識はハッキリしていた。
音が聞こえた。
何か別の音が微かに聞こえる。
足音だ。
足音が近づいて来る。
俺は安堵の息を漏らした。助かるかも知れない。
足音は車のそばに来ると、止まった。
暫くそのままで動かない。
「……助けて。……助けてくれ」
俺は振り絞るように声を出した。囁くような声が辛うじて出ただけだった。
足音の主は動かない。
俺は窓の外に目を向けた。
思いがけずすぐ側にそれはあった。
そこにあったのは、裸足の足だった。
そういえば響いてきた足音は妙な音だった。ペタリペタリと肉感的な響きだったのだ。
背筋に悪寒が走った。
なんで真夜中に、こんな所を裸足で歩いているのだ?
俺の目は吸い付けられたように、その足を凝視した。
足は華奢で、小さい。
そのまま動かない。
自分の心臓の音が耳元で大きく響いてるような気がした。
きゃはははははははは。
ぞっとする甲高い笑い声が響いたその時、するするっと手が車の中に差し入れられた。
静脈が浮き出た、白く細い手だ。
手は俺の頭を掴んだ。
思わず悲鳴が出た。
どこにそんな力があったのかと思う程、大きな声が出た。
しかし白い手はそんな事に構いもせず、俺の頭を強い力で掴む。
爪が頭皮に食い込んだ。
全身が痛いはずなのに、その痛みは何よりにも増して激しかった。
今度は呻き声が俺の口から漏れた。
白い手は、凄まじく強い力で俺の頭を車の外に掴み出そうとしている。
しかし下半身が座席の下やハンドルに引っ掛かっているので、身体は動かない。
指が俺の顎に掛かった。
首が抜けるかと思う程強い力だ。
「……やめろ……やめ」
白い手はしかし、力を入れるのを止めない。
手は、今度は俺のシャツの胸倉を掴む。
目の前に見える細く華奢な指は、俺の血なのか真っ赤に染まっていた。
シャツがビリビリと裂け始める。何か凶暴な意志がその白い手に込められているような気がした。
俺は激しい痛みに耐えながらも、目を窓の外に向けた。
白い足が、そこにある。
しかし、身体らしきものは全く見えない。
ただ、手だけが差し込まれている。
それだけが、独立した器官ででもあるように。
白い手は、なおも力を緩めようとしない。身体を張り裂けそうな痛みが襲う。
やめてくれ、と心の中で何度も叫んだ。涙が溢れた。
ふと白い手の力が緩み、窓の外に出て行った。
静寂が戻った。
外を見ると足はもうそこにはなかった。
身体の緊張が解けていく。
しかし頭がキリキリと痛む。身体も変わらず元のままだ。
息をするのも困難になってきた。
と、今度は、どんっと激しい衝撃に車が揺れた。
血だ。
俺の頭や身体から流れ落ちる血の音だ。
身動きが出来ない状態で、自分の血液が流れ落ちる音を聞いているというのは、気が狂いそうになるくらいの恐怖だ。
確実に自分が死に向かっていく音だ。
どうせなら、意識が無くなればいいと思った。しかし、妙に意識はハッキリしていた。
音が聞こえた。
何か別の音が微かに聞こえる。
足音だ。
足音が近づいて来る。
俺は安堵の息を漏らした。助かるかも知れない。
足音は車のそばに来ると、止まった。
暫くそのままで動かない。
「……助けて。……助けてくれ」
俺は振り絞るように声を出した。囁くような声が辛うじて出ただけだった。
足音の主は動かない。
俺は窓の外に目を向けた。
思いがけずすぐ側にそれはあった。
そこにあったのは、裸足の足だった。
そういえば響いてきた足音は妙な音だった。ペタリペタリと肉感的な響きだったのだ。
背筋に悪寒が走った。
なんで真夜中に、こんな所を裸足で歩いているのだ?
俺の目は吸い付けられたように、その足を凝視した。
足は華奢で、小さい。
そのまま動かない。
自分の心臓の音が耳元で大きく響いてるような気がした。
きゃはははははははは。
ぞっとする甲高い笑い声が響いたその時、するするっと手が車の中に差し入れられた。
静脈が浮き出た、白く細い手だ。
手は俺の頭を掴んだ。
思わず悲鳴が出た。
どこにそんな力があったのかと思う程、大きな声が出た。
しかし白い手はそんな事に構いもせず、俺の頭を強い力で掴む。
爪が頭皮に食い込んだ。
全身が痛いはずなのに、その痛みは何よりにも増して激しかった。
今度は呻き声が俺の口から漏れた。
白い手は、凄まじく強い力で俺の頭を車の外に掴み出そうとしている。
しかし下半身が座席の下やハンドルに引っ掛かっているので、身体は動かない。
指が俺の顎に掛かった。
首が抜けるかと思う程強い力だ。
「……やめろ……やめ」
白い手はしかし、力を入れるのを止めない。
手は、今度は俺のシャツの胸倉を掴む。
目の前に見える細く華奢な指は、俺の血なのか真っ赤に染まっていた。
シャツがビリビリと裂け始める。何か凶暴な意志がその白い手に込められているような気がした。
俺は激しい痛みに耐えながらも、目を窓の外に向けた。
白い足が、そこにある。
しかし、身体らしきものは全く見えない。
ただ、手だけが差し込まれている。
それだけが、独立した器官ででもあるように。
白い手は、なおも力を緩めようとしない。身体を張り裂けそうな痛みが襲う。
やめてくれ、と心の中で何度も叫んだ。涙が溢れた。
ふと白い手の力が緩み、窓の外に出て行った。
静寂が戻った。
外を見ると足はもうそこにはなかった。
身体の緊張が解けていく。
しかし頭がキリキリと痛む。身体も変わらず元のままだ。
息をするのも困難になってきた。
と、今度は、どんっと激しい衝撃に車が揺れた。
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