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事故で死んだ女子高生の霊
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茶髪にそう言われてもピアスは悪びれた様子もなく、ニヤニヤと笑っている。
「………」
何か気分が悪くなってきた。
「それでこいつだけ助かってるんですよ。酷い奴ですよねえ」
ピアスは、チッと小さく舌打ちする。
「こいつがね、こいつが死なせたようなもんなんですよ。おまけに無免で事故りやがって」
「……うるせえ」
ピアスはさすがにそこまで言われると頭にきたのか、茶髪を睨みつけると低く威圧的な声を出した。
腕を乱暴に振りほどく。
茶髪はそんなことにはお構いなく、ピアスの頭をまた掴むと言った。
「それでね、女子高生の幽霊が……彼女の幽霊が事故った時のまんま、死んだ時のまんまの姿で出るようになったんですよ。……それをこいつが、供養にも行ってやらないで」
「本当なのか?」
「だから、さっきから本当だって言っているでしょう。俺たち、彼女の霊を何回も見ているんだから」
「………」
後ろにいる何人かの若者達は黙ってこちらを見ている。
コンビニの蛍光灯に照らし出された彼らの表情は、ゾッとする程無表情だった。
腋の下から冷たい汗がポトリと落ちるのが分かった。
窓から時折風が入ってくるが、生暖かく湿気をジットリと含んでいて酷く息苦しく感じた。
「ついこの前も、俺見てるんです。何回も見てるんですけど、あれだけは慣れるもんじゃあないですよね。……頭から血を流して、虚ろな表情で、俺に千切れてブラブラになった手を伸ばすんですよ。やっぱり俺らに何か言いたいことがあるんですよ」
茶髪はじっと俺の目を見ながら言った。ピアスは白けたように横を向いている。
「……そうだ。彼女だって、何か言いたいことがあったはずだ」
後ろから短く刈った頭を金髪に染めた若者が、独り言を言うように小さく言った。
「チッ」
ピアスはこれ見よがしに大きな音をたてて、舌打ちした。
その音に反応したかのように、後ろにいた何人かの若者が前に進み出た。
そのうちの一人がピアスの襟首を掴んで前に突き飛ばした。
「なんだよ! このやろう!」
「お前、何か言うことないのか。あいつに」
金髪がピアスに言った。
ピアスはバランスを失って前に手をついたが、すぐに立ち上がった。
「へっ! てめえは、あいつにただ相手にされなかっただけの話じゃねえか。それにあれは、事故だよ。しょうがなかったん……」
いきなり金髪はピアスの顔面に拳を叩きつけた。
不意を付かれたピアスは、まともにそれをくらった。
後ろに蹌踉ける。手で押さえた口元からは、赤い血がボトボトと滴り始めた。
「てめえ!」
ピアスは精一杯凄みを利かせようとしているが、その声には少し脅えが混じっている。
俺は突然の事にただ唖然としてしまって声すらも出なかった。
「……彼女は、あの時のまんまであそこで彷徨っているんですよ。頭からいっぱい血を流して……。寂しげに」
茶髪は後ろを見ようともせずに、俺の車の窓に手を掛け呟き続けている。
俺の目をジッと見つめるその目は、虚ろだ。思わず背筋に鳥肌が立ってくる。
その後ろでピアスは、何人かの他の若者にTシャツを掴まれ引きずり回されている。
「やめろ! やめろ!」
ピアスの叫び声が辺りに響いた。
バランスを失って前のめりに倒れたピアスの口元から血の滴が垂れ、地面に転々と跡を付ける。
そこへ狙いを付けた金髪が思いっきりピアスの腹を蹴り上げた。
異様な呻き声を上げたピアスは、腹を押さえて辺りを転げ回った。
ヒュウヒュウと苦しそうな息がピアスの口から漏れる。
「おい!」
あまりの突然の出来事に呆然としていた俺だったが、やっと声が出せた。
しかし若者達はピアスへの暴力の手を緩めない。
別の若者がピアスの顔面に蹴りを入れた。
思わず車のドアに手を掛けると、茶髪が俺の腕を掴んだ。
「いいんすよ。俺らで、彼女の恨みをはらしてやるんですよ」
茶髪は凍るような声でそう言うと、目を細めて掴んだ腕に力を込めた。
「………」
茶髪の異様な雰囲気に気圧されてまたも声が出ない。
コンビニの中を見たが、店員の姿は見えなかった。
辺りを見回して見ても民家らしきものは無い。
枝を揺らす風の音に混じって、ピアスに加えられる暴力の音と、ピアスの呻き声だけが聞こえる。
「ほら、もう行ってください。後は、俺らでケリをつけますから」
茶髪は静かに言った。
ピアスは頭を抱えて地面に蹲っていた。
アスファルトの地面には丸く血溜まりが出来ている。
ピアスに凄惨なリンチを加えていた若者達が、茶髪の言葉に一斉にこちらに振り向いた。
茶髪と同じく虚ろな表情で俺を見る。
身の危険を感じた。
「ほら! 早く!」
突然の茶髪の大声に、俺は弾かれたようにエンジンを掛け車をバックさせた。
道路に出るとギアをファーストに入れ、アクセルを思いっきり踏み込んだ。
視線の端に映る若者達は、ただ俺の車を身動き一つせず見つめているだけだ。
「あそこに行ってやってください。第3トンネルです」
茶髪が呟くように言った。
声は小さいのだが何故か俺の耳にはっきりと届いた。
思わず茶髪の顔を見ると、やはりその表情は凍りついたように無表情だった。
「………」
何か気分が悪くなってきた。
「それでこいつだけ助かってるんですよ。酷い奴ですよねえ」
ピアスは、チッと小さく舌打ちする。
「こいつがね、こいつが死なせたようなもんなんですよ。おまけに無免で事故りやがって」
「……うるせえ」
ピアスはさすがにそこまで言われると頭にきたのか、茶髪を睨みつけると低く威圧的な声を出した。
腕を乱暴に振りほどく。
茶髪はそんなことにはお構いなく、ピアスの頭をまた掴むと言った。
「それでね、女子高生の幽霊が……彼女の幽霊が事故った時のまんま、死んだ時のまんまの姿で出るようになったんですよ。……それをこいつが、供養にも行ってやらないで」
「本当なのか?」
「だから、さっきから本当だって言っているでしょう。俺たち、彼女の霊を何回も見ているんだから」
「………」
後ろにいる何人かの若者達は黙ってこちらを見ている。
コンビニの蛍光灯に照らし出された彼らの表情は、ゾッとする程無表情だった。
腋の下から冷たい汗がポトリと落ちるのが分かった。
窓から時折風が入ってくるが、生暖かく湿気をジットリと含んでいて酷く息苦しく感じた。
「ついこの前も、俺見てるんです。何回も見てるんですけど、あれだけは慣れるもんじゃあないですよね。……頭から血を流して、虚ろな表情で、俺に千切れてブラブラになった手を伸ばすんですよ。やっぱり俺らに何か言いたいことがあるんですよ」
茶髪はじっと俺の目を見ながら言った。ピアスは白けたように横を向いている。
「……そうだ。彼女だって、何か言いたいことがあったはずだ」
後ろから短く刈った頭を金髪に染めた若者が、独り言を言うように小さく言った。
「チッ」
ピアスはこれ見よがしに大きな音をたてて、舌打ちした。
その音に反応したかのように、後ろにいた何人かの若者が前に進み出た。
そのうちの一人がピアスの襟首を掴んで前に突き飛ばした。
「なんだよ! このやろう!」
「お前、何か言うことないのか。あいつに」
金髪がピアスに言った。
ピアスはバランスを失って前に手をついたが、すぐに立ち上がった。
「へっ! てめえは、あいつにただ相手にされなかっただけの話じゃねえか。それにあれは、事故だよ。しょうがなかったん……」
いきなり金髪はピアスの顔面に拳を叩きつけた。
不意を付かれたピアスは、まともにそれをくらった。
後ろに蹌踉ける。手で押さえた口元からは、赤い血がボトボトと滴り始めた。
「てめえ!」
ピアスは精一杯凄みを利かせようとしているが、その声には少し脅えが混じっている。
俺は突然の事にただ唖然としてしまって声すらも出なかった。
「……彼女は、あの時のまんまであそこで彷徨っているんですよ。頭からいっぱい血を流して……。寂しげに」
茶髪は後ろを見ようともせずに、俺の車の窓に手を掛け呟き続けている。
俺の目をジッと見つめるその目は、虚ろだ。思わず背筋に鳥肌が立ってくる。
その後ろでピアスは、何人かの他の若者にTシャツを掴まれ引きずり回されている。
「やめろ! やめろ!」
ピアスの叫び声が辺りに響いた。
バランスを失って前のめりに倒れたピアスの口元から血の滴が垂れ、地面に転々と跡を付ける。
そこへ狙いを付けた金髪が思いっきりピアスの腹を蹴り上げた。
異様な呻き声を上げたピアスは、腹を押さえて辺りを転げ回った。
ヒュウヒュウと苦しそうな息がピアスの口から漏れる。
「おい!」
あまりの突然の出来事に呆然としていた俺だったが、やっと声が出せた。
しかし若者達はピアスへの暴力の手を緩めない。
別の若者がピアスの顔面に蹴りを入れた。
思わず車のドアに手を掛けると、茶髪が俺の腕を掴んだ。
「いいんすよ。俺らで、彼女の恨みをはらしてやるんですよ」
茶髪は凍るような声でそう言うと、目を細めて掴んだ腕に力を込めた。
「………」
茶髪の異様な雰囲気に気圧されてまたも声が出ない。
コンビニの中を見たが、店員の姿は見えなかった。
辺りを見回して見ても民家らしきものは無い。
枝を揺らす風の音に混じって、ピアスに加えられる暴力の音と、ピアスの呻き声だけが聞こえる。
「ほら、もう行ってください。後は、俺らでケリをつけますから」
茶髪は静かに言った。
ピアスは頭を抱えて地面に蹲っていた。
アスファルトの地面には丸く血溜まりが出来ている。
ピアスに凄惨なリンチを加えていた若者達が、茶髪の言葉に一斉にこちらに振り向いた。
茶髪と同じく虚ろな表情で俺を見る。
身の危険を感じた。
「ほら! 早く!」
突然の茶髪の大声に、俺は弾かれたようにエンジンを掛け車をバックさせた。
道路に出るとギアをファーストに入れ、アクセルを思いっきり踏み込んだ。
視線の端に映る若者達は、ただ俺の車を身動き一つせず見つめているだけだ。
「あそこに行ってやってください。第3トンネルです」
茶髪が呟くように言った。
声は小さいのだが何故か俺の耳にはっきりと届いた。
思わず茶髪の顔を見ると、やはりその表情は凍りついたように無表情だった。
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