懐かしい空を見る望遠鏡

にゃあ

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鏡に映ったのは

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 そして、夜になると再びあの枕で寝た。 

 道は一面の桜吹雪だった。
 小学校の正門の前で僕はあの夫婦と記念写真を撮っていた。
 小学校の入学式らしい。

 親戚の人と小学校の入学式に行った記憶は無かったのだが、そんなこともあったのだろう。 

 男の人の方が僕を抱き上げて、カメラを向ける女の人に笑いかけた。 

「ほら、笑って、笑って」

 女の人が僕にしきりに言う。 
 僕はまた言いようのない懐かしさと幸福感に包まれた。 

 それから場面は変わり、今度は家の中にいる。
 あの夫婦がまた僕の目の前にいた。
 少し年を取ったようだ。 
 僕は真新しい制服のボタンを掛けていた。

 今度は中学か高校の入学式なのだろうか。 

「ほら、鏡に映してみてごらんよ」

 皺が深くなった女の人の方が僕に笑いかけた。
 僕は頷き、鏡の前に立った。 

 そこに、僕はいなかった。 

 鏡に映し出されたのは、ひとりの少女。 

 それはまだ少女の面影を残した……真結だった。 

 鏡の中の真結ははにかんだような表情を浮かべ、笑っている。
 新品の制服がよく似合っていた。

 あれは、真結の昔の写真で見たことがある。確か、高校の制服だったはずだ。 

 ……そうか、どおりで夫婦の顔に見覚えがあったはずだ。

 一回だけ真結の実家に遊びに行って会ったことがある。

 それは真結の両親の若い姿だったのだ。 
 僕は、自分の懐かしい幼い頃の夢を見ていたのではなく、真結の懐かしい夢を見ていたのだ。 

 真結の父親が真結に言った。 

「大きくなったなぁ。もう高校生か」 

 真結はその言葉に、鏡の中で大きく頷いた。 

 そしてまた場面が変わり、僕の前に一層年老いた真結の両親がいた。 

「真結、おめでとう。希望の会社に入れて本当によかったな」

 両親は涙ぐみながら僕に向かって言う。

 僕は両親に向かって真結の声で言った。 

「お父さん、お母さん、本当に今までありがとう。わたし、夢に向かって頑張るから」

 真結の言葉の最後の方は涙声になった。 

 父親は涙を流しながら何度も頷き、一言言った。 

「応援してるよ」 

 また、場面が変わった。
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