懐かしい空を見る望遠鏡

にゃあ

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懐かしい夢が見られる枕

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 それから夕食時の憂鬱は消えた。
 あの箸さえ使っていればただのインスタント食品が、懐かしい味で、それもとびきり旨くなってくれるからだ。 
 真結は相変わらず忙しく、帰りが遅い。
 でも、夕食がそこらで買ってきたものでも、あの箸があれば美味しく食べられる。

 ……のはずだが、問題はそれですべて解決したわけではなかった。 

 日ごと真結への鬱憤はたまり、こんなはずじゃなかった、と思うことが多くなった。
 箸で懐かしい味を味わう度に、なお一層のことその気持ちが強くなる。
 真結ともちょっとのことで喧嘩をすることも多かった。 

 それから、また何か別なものが手に入るかとamizonに何度もアクセスしてみたが、あれ以来、煙のように【なつかし本舗】は姿を消していた。 

 その日、お互い仕事で疲れてカリカリしていたのか、何のことは無いことで大喧嘩をした。
 僕は、頭にきて捨てぜりふを残すと家を飛び出した。

 暫く書店やビデオレンタルショップに行って時間を潰した。
 しかしそのうちに飽きて店を出た。別に行くところなんか無い。
 カフェに行くと、またamizonに繋ぐ。

「あった!」

 そこには古ぼけたデザインの枕の画像があった。 

【懐かしい夢が見られる枕】とある。

 また、値段は500円だった。



 ★★★★★


 数日後、コンビニで受け取った商品を持って、ウキウキとして家に帰る。
 もう深夜近くで、真結は先に寝ていた。 

 僕は期待に胸を膨らませ、真結の隣で横になった。
 もちろん、あの枕を置いた。
 匂いを嗅ぐと、懐かしい枯れ草のような匂いがほのかにした。 
 枕に頭を置くと、すぐに僕は寝入ってしまった。 

 夢を見た。 

 若い夫婦らしき人たちが僕の顔を覗き込んでいる。
 しきりに僕をあやしているようだ。
 それは僕の両親ではなかった。
 しかし、その二人はどこかで見たことがある。
 親戚の叔父と叔母だと思った。 
 二人は僕を抱きしめてくれたり、御飯を食べさせてくれたりした。溢れるような愛情が伝わってくる。

 僕はどうやら赤ん坊らしい。
 やはり、あの枕は懐かしい夢が見られる枕だったのだ。 

 僕は、二人の愛情を受け、信じられないほどの大きな幸福感に包まれた。 
 目が覚めても夢の中で味わった幸福感は消えていなかった。
 真結とはお互い言葉を交わすことは無く関係が修復されることはなかったが、僕はその日一日中、夢で味わった幸福感の中に浸れることが出来た。  
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