懐かしい空を見る望遠鏡

にゃあ

文字の大きさ
上 下
7 / 9

懐かしい夢が見られる枕

しおりを挟む
 それから夕食時の憂鬱は消えた。
 あの箸さえ使っていればただのインスタント食品が、懐かしい味で、それもとびきり旨くなってくれるからだ。 
 真結は相変わらず忙しく、帰りが遅い。
 でも、夕食がそこらで買ってきたものでも、あの箸があれば美味しく食べられる。

 ……のはずだが、問題はそれですべて解決したわけではなかった。 

 日ごと真結への鬱憤はたまり、こんなはずじゃなかった、と思うことが多くなった。
 箸で懐かしい味を味わう度に、なお一層のことその気持ちが強くなる。
 真結ともちょっとのことで喧嘩をすることも多かった。 

 それから、また何か別なものが手に入るかとamizonに何度もアクセスしてみたが、あれ以来、煙のように【なつかし本舗】は姿を消していた。 

 その日、お互い仕事で疲れてカリカリしていたのか、何のことは無いことで大喧嘩をした。
 僕は、頭にきて捨てぜりふを残すと家を飛び出した。

 暫く書店やビデオレンタルショップに行って時間を潰した。
 しかしそのうちに飽きて店を出た。別に行くところなんか無い。
 カフェに行くと、またamizonに繋ぐ。

「あった!」

 そこには古ぼけたデザインの枕の画像があった。 

【懐かしい夢が見られる枕】とある。

 また、値段は500円だった。



 ★★★★★


 数日後、コンビニで受け取った商品を持って、ウキウキとして家に帰る。
 もう深夜近くで、真結は先に寝ていた。 

 僕は期待に胸を膨らませ、真結の隣で横になった。
 もちろん、あの枕を置いた。
 匂いを嗅ぐと、懐かしい枯れ草のような匂いがほのかにした。 
 枕に頭を置くと、すぐに僕は寝入ってしまった。 

 夢を見た。 

 若い夫婦らしき人たちが僕の顔を覗き込んでいる。
 しきりに僕をあやしているようだ。
 それは僕の両親ではなかった。
 しかし、その二人はどこかで見たことがある。
 親戚の叔父と叔母だと思った。 
 二人は僕を抱きしめてくれたり、御飯を食べさせてくれたりした。溢れるような愛情が伝わってくる。

 僕はどうやら赤ん坊らしい。
 やはり、あの枕は懐かしい夢が見られる枕だったのだ。 

 僕は、二人の愛情を受け、信じられないほどの大きな幸福感に包まれた。 
 目が覚めても夢の中で味わった幸福感は消えていなかった。
 真結とはお互い言葉を交わすことは無く関係が修復されることはなかったが、僕はその日一日中、夢で味わった幸福感の中に浸れることが出来た。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とわ骨董店

藤和
ライト文芸
とある骨董店と、そこに訪れる人々の話。 日常物の短編連作です。長編の箸休めにどうぞ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

差し伸べられなかった手で空を覆った

楠富 つかさ
ライト文芸
 地方都市、空の宮市の公立高校で主人公・猪俣愛弥は、美人だが少々ナルシストで物言いが哲学的なクラスメイト・卯花彩瑛と出逢う。コミュ障で馴染めない愛弥と、周囲を寄せ付けない彩瑛は次第に惹かれていくが……。  生きることを見つめ直す少女たちが過ごす青春の十二ヵ月。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

地獄三番街

arche
ライト文芸
羽ノ浦市で暮らす中学生・遥人は家族や友人に囲まれ、平凡ながらも穏やかな毎日を過ごしていた。しかし自宅に突如届いた“鈴のついた荷物”をきっかけに、日常はじわじわと崩れていく。そしてある日曜日の夕暮れ、想像を絶する出来事が遥人を襲う。 父が最後に遺した言葉「三番街に向かえ」。理由も分からぬまま逃げ出した遥人が辿り着いたのは“地獄の釜”と呼ばれる歓楽街・千暮新市街だった。そしてそこで出会ったのは、“地獄の番人”を名乗る怪しい男。 突如として裏社会へと足を踏み入れた遥人を待ち受けるものとは──。

パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない

セカイ
ライト文芸
新入社員の『俺』草野新一は入社して半年以上の間、上司である椿原麗香からの執拗なパワハラに苦しめられていた。 しかしそんな屈辱的な時間の中で毎回発生するラッキースケベな展開が、パワハラによる苦しみを相殺させている。 高身長でスタイルのいい超美人。おまけにすごく巨乳。性格以外は最高に魅力的な美人上司が、パワハラ中に引き起こす無自覚ラッキースケベの数々。 パワハラはしんどくて嫌だけれど、ムフフが美味しすぎて堪らない。そんな彼の日常の中のとある日の物語。 ※他サイト(小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラス)でも掲載。

十年目の結婚記念日

あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。 特別なことはなにもしない。 だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。 妻と夫の愛する気持ち。 短編です。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

処理中です...