上 下
24 / 26

社長室

しおりを挟む
 社長室の扉を開く。
「失礼します」と声を上げて、中に入る。

 社長が机から立ち上がる。
「あぁ、よく来てくれた」

 中に入り、扉を閉める。

 部屋にいた女性が
「どうぞ、かけて」とソファーに歩いて来る。

 私達はソファーの脇に立ち、社長を待った。

 社長が座ると、私達も座った。
「真司くん、来てもらって悪かったな」

「智昭おじさん、結婚のこと、ご報告が遅れて申し訳ありません」

智昭おじさん!心の中でビックリした。

「おい、会社では、社長と呼べと言ってるだろう」と呆れた声を出す。

「そうでした。失礼しました。社長」

「まずは、結婚おめでとう。初めて、優助から聞いた時は、ビックリしたが、本当に良かった」

「ご心配をおかけしました」と頭を下げた。

「まぁ、心配になって、アチコチ探してみたんだが、自分で相手を見つけられて、本当に良かったと思ってるよ」

「幸い、花音さんという素敵な女性がいてくれたので、僕も決心することができました」

3人の目が私を見る。
「システム開発部のプログラミング第一課の山上花音です」
と頭を下げた。

「旧姓使用なのかな?」

「あっ、すいません。会社では秘密にしていたので」

「まぁ、いい。でも、システム開発部に、こんなに綺麗な人がいたなんて、知らなかったな」

「社長、セクハラになりますよ」と女性は言った。

「そっ、そんなつもりはない。あぁ、褒めることもできない。窮屈な時代だ」

「社長、ありがとうございます」と素直に言った。

「あぁ、良かった。それで、真司くん、提案なんだが」

「はい、なんでしょうか?」

「個人的なことは置いといて、やはり会社は組織だ。このまま2人を今の部署に置いておくわけにもいかない」

やはりそうなるか、と思った。

「はい、分かります」

「それで、山上くんは、今後は社長夫人となっていくわけだが、他の財界人へ顔を売っておいた方が何かといいんではないか、と思ってな」

えっ!嫌な予感しかしない。ある程度、覚悟してはいたが、まさか!

「と、おっしゃいますと・・・」

「秘書課で私の担当になってもらえないかと考えておる」

あぁ、やっぱり・・・

「えっ!」真司もビックリいている。

「社長、私は入社してから、ずっとプログラムしか経験がございませんが、よろしいのでしょうか?」
真司が怒り出しそうなので、私が冷静に対応しなくては。

「もちろん、退社のこともあるから、一人前になれ、とは言わない。この福田くんの仕事を補佐してくれればいい」

「福田天音です。主に社長の面倒を見てます」

「そういうこと言うな」社長は呆れている。

天音さんは、とても人当たりの良さそうな優しい笑顔を振りまいている。しかし毒舌キャラらしい。
年齢は、40辺りか。

「補佐と言いますと」

「主に私のスケジュール管理だが、会合とか、その後の懇親会とかには随行してもらう」

「分からないことばかりですが、よろしくお願いします」と頭を下げた。

「特に準備してもらうことはないんだけど、1つだけいい?」天音さんが言った。

「はい、何でしょうか?」

「髪も黒いし、化粧も控えめでキチンとできているし、派手なアクセサリーもしていない。それはいいんだけど」

そう言って、私の足を指差した。

「秘書課では基本的に、スカートにしてくれる。もちろん、設営とか動く時は、みんな、パンツになるんだけど、それ以外は、スカートよ」

あっ、マズイ!

私は真司の膝に置かれた腕を掴んだ。

「それは認められません」

あぁ、言っちゃった。

「えっ!」
社長と天音さんは少し驚いた顔をした。

「山上さん、スタイルいいし、絶対に似合うと思うけど」

「もちろん花音は似合います。そんなことは分かってます。でも、スカートを履くことには反対です」

はぁ、しょうがない。私は真司の方を向いて、
「真司さん、社長は真司さんと私のためを思って、ご提案してくださったの
よ。そんな子供みたいな理由で、断ることはできないの」

「子供みたいって・・、僕は花音のためを思って言ってるんだ」

「今も胸はチラチラ見られてるのよ。コートか何かで隠せって言うつもりなの?」

「胸は隠れてるから」

「隠れてても見る人は見るの。それに、そんなに私が信用できないの?私が誰かに気に入られて、ホイホイついて行くよう女だと思ってるの?」
    
「そういう訳じゃないけど」

「だったら、足くらいで騒がないの!ストッキング履くんだし、生足は真司しか見ないんだから」

「分かったよ。もう何も言わないよ」

「それでいいのよ」

私は社長達の方に顔を向けた。

2人ともニヤニヤしている。

しまった!またやってしまった!と気がついた。

「金曜のことは本当らしいな」社長が言うと、
「そうみたいですね。山上さん、私はそういうの嫌いじゃない、いえ、好きだけど、会社の外では我慢することも覚えてね」

私は顔が熱くなって、下を向いた。
「はい、気をつけます」

「私は、裏でコソコソされるのは好きじゃない。しかし、この立場になると、そんな綺麗事を言ったところで無理な話だ。だから、家では言いたいことをお互いに言ったほうが、いいと思っている。家の中まで腹の中を探り合うのは、さすがにシンドイからな。
真司くん、いい相手を見つけたな」

「まぁ、それはそうなんですけど」
イマイチ歯切れが悪い。

隣で私はにこやかに笑顔を向ける。心の中では、機嫌を取らないとならないな、と思っている。

「発令は一ヶ月後だ。今の部社で仕事の引き継ぎ等をしてくれ」

「はい。分かりました」

社長達は立ち上がろうとした。
「すいません!私が気にすることでもないと思うのですが」

「何だい?」座り直す。

「私がいなくなった後に、補充はされるんでしょうか?」

「あぁ、システム開発部が忙しいのは分かっています。今日の午後にでも社内外に募集をかけます。だから、安心して」

「ありがとうございます」
私と真司は改めて会釈をして、扉の前に行き、
「失礼します」と言って外に出た。

「真司」
私は手を引っ張っていく。近くに給湯室がある、中を確認して、真司を連れ込む。
  
「ごめんなさい」と抱きつく。

「もういいよ。花音のこと信じてるから」真司の手も背中に回る。

私は顔を上げ、
「口紅落ちちゃうから」と舌を出す。

「しょうがないな」と舌を絡める。

真司の手に力が入ってくる。会社だと考えると、やはり私も興奮してくる。こんなことだから、異動があるんだと思った。

私は真司を離して、
「続きは帰った後ね」と手を引っ張って出ていく。

ここは危険過ぎる。

エレベーターで、下りていく。

廊下では、真司が先に歩き、ついていく。私の職場の前で、別れた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...