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よし、これで準備中万端だ。帰ろうと思った。
「あっ」ケーキを買うと言ってしまった。
また荷物が増える。わたしはうんざりしながら、ケーキ屋に行った。

しかし、ケーキを見ると、テンションはあがった。買い物で疲れて、甘いものが欲しかった。

しかし、罪悪感も湧いてきた。こんなに買い込んで、太ったら?
確かチーズケーキはカロリーがは低い方だったはず。

「姉ちゃん?』
いきなり声がかかった。

振り返ると、楓だった。

「どうしたの?ケーキなんて珍しい』

「姉ちゃんが店に入るのが、見えたから」

「あぁ、そうなんだ』

「荷物持つよ』

「ありがとう。楓はいつも優しいね」買い物をした袋を渡した。楓は褒められて、まんざらでもない顔をしながら、受け取った。
相変わらず素直で可愛いやつだ。

「楓は焼き菓子の方がいいよね?』

「うん、甘くない方がいい」

「じゃあ、チーズケーキ2つとショートケーキ1つ」そう言って、レジの横に置いてある焼き菓子を取って出した。

お金を払って、ケーキが入った袋を受け取った。店を出ると、自転車に野球の道具が置きっぱなしになっていた。

「不用心じゃない?」

「誰も取らないよ」
楓はハンドルに渡した袋を掛けて、自転車を押した。

家で会っていると、そんなに分からないが、並んで歩くとよく分かる。つい見上げてしまった。

「何?」

「背伸びたなぁって」

「もうそんなに伸びてないよ。高校までだよ」

「そう?昔は私より低かったのに」

「中学には抜いただろ。そんな昔の話」

「そうだね」私は腕を組んだ。楓は、恥ずかしそうな顔をしたが、止めろとは言わない。

「昨日は仕事?」

「あぁ、うん」私は少し狼狽えた。いい歳なんだから、本当のことを言ってもいいのだが、言うのがはばかられた。
もう少し真田さんを信じられるようになったら、家族に言おうと思う。

「そのカッコで寝たの?」

「つっ、机に頭を乗せて寝たから」

「それならいいけど。少しは気をつけろよ」

「分かった。ありがと。試合は?」

「大勝ちしたよ。監督が上機嫌で、午後の練習かなくなった」

「それは良かったね。楓は出たの?」

「4打数2安打3打点」

「凄いじゃない!ご褒美に、帰ったら膝枕してあげる」

「ホントに!」楓の顔がニッコリと笑った。

本当に可愛いヤツだ。

弟の顔のことを私が言うのも変なんだが、私には似ずに、スポーツマンらしく短髪が似合うスッキリとした顔立ち顔だ。身長もあるし、よくは分からないが、野球も上手いようだ。

でも、彼女ができたとは聞いたことがない。誕生日は家にいて、ケーキは本人が食べないのでないが、その代わりなのか、私の膝枕を求めてくる。クリスマスは野球部の残念組と過ごしているらしい。

性格も優しいし、常々私は不思議に思っている。

私から、彼女作らないの?とは口が裂けても言えない。姉さんは?と返されたら、何も反論できない。

まぁ、真田さんのことを話せるようになったら、聞いてみよう。

家に着いた。
「ありがとう」私は自分の荷物を受け取り、楓は自分の荷物をもった。

「ただいま~」とリビングのドアを開けると、母さんはキッチンで何かを作っていた。

父さんはソファーで、趣味の釣り竿をチェックしている。

「お帰りなさい」父と母が言う。

「あら?楓も一緒だったの?」

私は荷物を置いて上着を脱ぎ、ケーキの箱を持ってキッチンに行く。

「ケーキ屋で会った」冷蔵庫にケーキを入れて、料理を手伝った。

「楓、試合、どうだったんだ?」父さんが聴いた。

「4打数2安打3打点で。ホームラン打った」

「そうか!凄いな」父さんは満面の笑みを浮かべた。父さんも大学まで野球をやっていたと言っていた。

だからと言って、楓に野球を強要したことはなかったと思う。小さい頃に遊びでやっていて、楓が少年野球をやりたいと言ったら、練習に付き合ってあげていたくらいだ。

もう父さんが相手をすることはないので、今は釣りに没頭している。

「また釣り?」楓が言った。

「またって、一ヶ月ぶりだぞ。母さんみたいなこと言わないでくれよ」

「そうだっけ?」

「楓、父さん、いじめないで、可愛そうだよ」見かねて私がかばった。

「父さん、ごめん」

「明日はちゃんと魚を持って帰ってくるからな。そうすれば記憶にも残るだろ?」

「うん、楽しみにしてる。お風呂行ってくる」

楓はバッグを持って出ていった。

「花音、あなたはお風呂いいの?」

「私は」と言って、朝入ったから大丈夫と続く言葉を飲み込んだ。

「楓の後に入るから」

「本当に程々にしなさいよ。仕事」

「うん、分かってる」

そして、少し遅い昼食ができ上がった。

「私も荷物、部屋においてくる」リビングを出た。

すると、腰にタオルを巻いた楓が、風呂場から出てきた。別にいつものことだ。
いつもは、風邪引くわよ、と言って、すぐに離れていく。

しかし、今は、胸や肩の筋肉を黙って眺めてしまった。真田さんより逞しいと思った。

いつもとは違う短い間があり、「早く服着なさい。風邪引くわよ」と言って、私は自分の部屋へと向かった。

「姉さん」と声が聞こえた。振り返ると、

「膝枕」と楓は言った。

「服着て、お昼食べたらね」と言って階段を登った。

私は部屋でスエットに着替えた。買ってきたワンピースにハンガーを入れて、壁に付いているフックに掛けた。

そして、クリーニングに出すために、スーツを袋に入れた。
「あっ、買い替えるんだっけ。どうしようかな?」

また太るから、その時はちょうどよくなる。でも、太ったら、真田さんに嫌われるかもしれない。考えてもしょうがない。やっぱりクリーニングに出すことにした。

シャツと下着を入れた袋を、脱衣所に置いてから、リビングに行った。すでにみんな食べ始めていた。

私も「いただきます」と言って食べ始めた。

「花音、明日はいる?」と母さんが聞いた。

「あっ、ごめん・・・早苗と約束してる」
早苗は会社の同期で、よく2人で遊びに行っている。

「あぁ、そうなの。学生時代の友達の親が亡くなったみたいで、ちょっと駅から遠いのよ。送り迎えお願いしようと思ったんだけど」

「いいよ、母さん、僕が付き合うから」

「そう?ありがとう。あなた喪服あった?」

「えっ、どこかで時間つぶしてるから、中には行かないよ」

「その友達、娘がいるのよ。多分大学生よ」

「いいよ。興味ない」

「年賀状では、かなり可愛い子よ」

「だから、興味ない」

「はぁ、我が家に、孫は来てくれるのかしら。元気なうちに見たいもんだわ」

リビングが凍りついた。私の箸が止まった。

「母さん、止めなよ」

「いいでしょ。少しくらい私が思ってること言っても」

「そうだよ。楓。母さんだって、年なんだから」私は嫌味で返した。

「こら!花音」母さんの気に触ったようだ。

「はいはい、ごめんなさい」私はすぐに降参した。私が男と一夜を共にしてきたと言ったら、どんな顔をするのだろう。
頭の中で鼻歌が流れていた。私の箸は再び動き出した。

食べ終わり、母さんと父さんは、我慢できずにケーキを出した。

私は、とりあえず止めておいた。

「花音、いただきます」母さんの機嫌が良くなっていた。

「とうぞ」と言って、テーブルを離れた。楓がついてきた。

「あぁ、そうだったわね」私は耳掻きを持って、ソファーに座った。

楓が嬉しそうな顔で、大きな体を横にした。

私は楓の頭を撫でた。
「頑張ったね。楓」

「うん、頑張ったんだ」

私は、すっかり趣味となった楓の耳掻きを開始した。
覗き込むと、思ったよりも放置してしまったらしい。やりがいがあった。

いつもよりも長い時間が経ち、
「はい、逆向いて」と声をかけた。

楓は顔を私のお腹の方に向けた。
そして、顔をお腹に押し付けて、右手で私の背中やお尻の上の方を触った。小さい頃からやっていることなので、気にならない。

私は、また趣味に没頭した。

「はい、終わったよ」と言った。

楓は聞こえないフリをした。いつものことだ。

私は、自分の耳が痒くなってきたので、ほっといて、耳掻きを始めた。

そして、自分の耳も満足したので、
「もういいでしょ。どいて」と言った。
すると、背中にある楓の手がスエット、いや下着の中に入ってきた。

私はビクンとして、反射的に楓の頭を思いっきりはたいた。

それでも楓はお尻の割れ目の方に、手を入れてきた。

私は両親を見た。母さんは洗い物を、父さんはトイレに行ったのか、いなかった。

私は体を屈め、小さい声で「止めて!」と言った。
楓はお尻を揉んできた。私はまたビクンとしてしまった。

私はスエットの腰の部分を掴んで立ち上がった。
楓がソファーの下に落ちて、仰向けになった。

私は上から楓を睨んだ。
楓は寂しそうな目で、私を見つめていた。
私は何も言わずにリビングを出て、部屋に行った。

部屋に戻ると、心臓がバクバクと言っていた。何であんなことを、楓の寂しそうな目が浮かんだ。

ベッドにドサッと倒れ込む。真田さんに悪いという思いが湧いてきた。

すると、ドアがノックされた。
「姉ちゃん、ごめんよ」と声がした。

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