黄昏のザンカフェル

新川 さとし

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第1章 受け取るはチート、喪うは退職金?

その9 やってやろうじゃないか

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「つまり、魔王に殺されると生き返れないってコトですか?」
「ことです」
「ことです、じゃないでしょ! そんな大事なコトを伝えてないんですか?」

 コイツ、ポンコツの振りをした、悪徳商人ってヤツだな、絶対。

「だって、魔王に殺されちゃうと生き返れないなんて話しちゃうと誰も来てくれなくなっちゃうし。私、嘘を言うのはダメですけど、言わないのはルールに反してないから……」

 モジモジと指先で「の」の字を書き始めながら「わたし、悪くないモン」と小さく付け足す。

「悪徳不動産屋の手口だぞ? 悪い情報は聞かない限り話さないなんて」
「違うモン。私、悪くないもん。悪くないモン。私、可愛いんだもん」

 幼児返りすれば許されると思うなよ、ポンコツ女神。

 ふっと、この幼児返りがわざとらしいことに、気がついた。これは、まだあるな。ってことは……

「今、魔王にって、言いましたよね」

 ビクッと手が止まる。あ、やっぱりだ。

「魔王の手下に殺されたら?」
「あの…… えっと、あ、それはですねぇ、あのぉ、曖昧なんです」
「曖昧?」
「ほら、魔王の手下って言っても、ホントの下っ端なら普通に蘇りますし、魔王の直属でも、2割は大丈夫ですから! それに、ほら、上手くヤリさえすれば、魔王も普段は出てきませんし? ね? あの、ほら、ね? 何もしないから? えっと、あの、先っちょ、ほんの先っちょだけで良いから? ね? ちょっと入ってみましょ? ね? 痛かったら途中でやめるからさぁ」

 ガチン!

「いった~い!」

 我慢できずにゲンコツを落としていた。体罰は禁止だが、ここは学校ではないので問題はない。

「あぁん、私、女神なのにぃ~」
「合コンで、田舎の女の子を口説いてる馬鹿か! お前は!」
「あぁあ! 馬鹿って言った! 馬鹿って言う方が馬鹿なんだからぁ!」

 口をとんがらかせて、小学生並みだ。

『ハリセンがあったら、ひっぱたいているところだぞ、まったく…… あ、もう、ゲンコツ、落としちゃったか』

 ドンマイ、オレ。

 とりあえず、ここは置いて、と。

「ところで、一度、行ったら、もう、戻れないんですよね?」

 そりゃ、男の一人暮らしだけに、いろいろと処分したいモノはある。マンションも、車も誰かが
勝手に持っていくが良い。けど、ハードディスクだけはダメ、絶対に! あれだけは、ダメ、絶対。

「あ、えっと!」

 おい! 今、お前ニヤっと笑っただろ! また、心を読んで、笑っただろ! クソっ、オレの尊厳を返しやがれ、どうだ? クソ食らいやがれ! いや、今度は、先週、飲み過ぎて、夜中に気持ち悪くなってトイレに駆け込んだ「あれ」だ。

「や、やめてぇえええ!」

 真っ青になって、ブルブルと顔を振った所を見ると、どうやら、攻撃が効いたらしい。

 ふん、油断もスキも無い。

「あ、えっと、そちらの世界に戻る件ですけど、OKでぇ~す」

 ポンコツ女神は、またしても、ドヤ顔になっていた。
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