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第1章 受け取るはチート、喪うは退職金?
その2 ログイン
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華やかで、重厚なテーマ音楽が響き渡る。オーケストラの生演奏かと錯覚するほど、綺麗な音。迫力ある低音と、伸びやかな高音が見事に聞こえている。
『これ、どこのオケだ? 作曲もすごいけど凄まじい演奏って言うか。だいいち、このヘッドフォンの性能って、並のデキじゃないぞ。むしろ、こいつだけで十万クラスだろ』
オジさんヲタのご多分に漏れず、オーディオにもウルサいオレの耳は、とんでもない高音質のBGMに、感動して聞き入ってしまうほどだ。曲調は、ヒーリング音楽に分類されるのかもしれないが、それを、おそらく名手と呼ばれる指揮者と質の高いオーケストラで演ると、こんな感じになるのかとも思わせる。
聞いたことの無い曲だ。心に響いていて、しかも、心の中に染みこんでくるような、それでいて心にワクワク感をかき立ててくる。ちょっとやそっとの才能では、こんなの作曲できないレベルだろう。
『こりゃ、ホントに金を掛けてるぞ?』
その時、今度は突風が吹き付けてきてきた。よろめくほどの強さだ。
思わず、ゴーグルを外して確かめてしまったほど。いやあ、オレの部屋だ。うん。当たり前か。
その時、胸の奥に、寂しさが噴き上げてくる。「あの音楽を聴きたい」「あの世界に帰りたい」と思わせるようなザワザワだ。
「こ、これで?」
慌ててゴーグルを付けた瞬間、軽い目眩のようなものを感じる。VR酔いか? なんて考える間もなく、オレの前には、意匠の凝った扉が、何もない空間にそびえていた。
え~っと、入り口はこれとしても、こういうのは、大抵、チュートリアルが付いてるハズなんだけど。
あ、これだな。オレはグローブを着けた指で扉の横についている「初めて来訪」のボタンをクリック。
画面が鮮やかに変化した。
「ようこそ、異世界へ」
女性とも男性ともわからない、柔らかなボイスがアナウンス。耳に気を取られた次の瞬間、白い部屋にオレは立っていた。
「すごい。今のゲームの画面ってのは、まるで実写だな」
もちろん、RPGくらいはやったことがある。というよりも、かつて、その新作発売が「国民的行事」とまで言われたシリーズはファンだった。6まではやりこんでいた。やがて、ラスボスまで、あまりにも長時間かかるようになったし、特に、ネットゲームになってから離れた。プライベートの時間まで他人と関わって、あれこれ理不尽に疲れるのは、避けたかったのだ。
「まあ、確かに、このレベルを作り込むなら、サーバーじゃないと無理だろうなぁ」
一つ一つのグラフィックもレベルが違う。オジさん、ちょっと、この世界について行けないかも。
チュートリアルの始まりを待ちながえら、ついそんなことを考えてしまう。
オレが入ろうとしている「黄昏のザンカフェル ONLINE」は、若者に人気で、そして、数々の社会問題を引き起こしている。それなりに予想はしてはいたけれど、実際に目にしてみると、予想の遙か上に行くクォリティだった。
『正規ユーザーが3千万人を突破してるって話だけど、このクオリティに、どれだけの金が掛かってるんだよ。これじゃあ、洋介が、ああなるのは無理もないのか?』
頭の中に、痩せ細って、辛うじて息をするだけだった姿がありありと思い出されてしまう。強制入院させるため、部屋からかつぎ出す間にも、ゲームの中の会話らしき言葉をうわごとにしていた。
母親が言うには、例の三点セットを嬉しそうに買ってきたのは一週間前だという。そこから、学校をサボるようになったのが三日目。そして、あんな姿になるのに、たった四日しかかからなかったという。信じがたい話だ。
『ひょっとして、オレが行かなかったら、洋介はあのままPCの前で死んでたかもな』
ゲーム廃人と言う言葉が社会に出てきて久しいが、このゲームでは、本当に死者まで出ているのだと新聞に出ている。
机に向かったまま、微動だにせず、虚空を睨んだままだった。既に「心」がこの世から離れてしまったかのようだ。医者は、気の毒そうな表情で「この状態から復活するのには、年の単位で時間が掛かる」とボソボソと告げていた。その目は「諦めろ」と言っているかのようだ。
そして、帰り道に調べると、このゲームでは、亡くなったり、こんな状態になってしまった若者が百人以上いるのだとか。オレは、定年前の最後のご奉公として、自分の生徒に何が起きたのかを調べたいと思ったのだ。
『あの姿は、痛々しいなんてもんじゃなかったもんなぁ』
それにしても、そんな義務感なんかを忘れさせるほ見事なグラフィックだ。ヴァーチャルリアリティなんて言葉があるけれど、コイツが、まさにそうなんだろうな。
「だが、システムだよな。問題の核心は。確かに、まるで実体験みたいな、このVRシステムはすごいけど、さ」
と思いつつも、目の前に現れた「女神」を見てしまうと、その圧倒的な妖艶さに、唖然とさせられる。それに、どういう技術を使っているのか見当も付かないけど、完全に、オレは「白い部屋に立っている」ように感じていた。
もちろん、実際のオレは、終の棲家にしたマンションで、PCに向かっているはずだった。
「ずっと、お待ちしておりました」
やわらかな声だった。
『これ、どこのオケだ? 作曲もすごいけど凄まじい演奏って言うか。だいいち、このヘッドフォンの性能って、並のデキじゃないぞ。むしろ、こいつだけで十万クラスだろ』
オジさんヲタのご多分に漏れず、オーディオにもウルサいオレの耳は、とんでもない高音質のBGMに、感動して聞き入ってしまうほどだ。曲調は、ヒーリング音楽に分類されるのかもしれないが、それを、おそらく名手と呼ばれる指揮者と質の高いオーケストラで演ると、こんな感じになるのかとも思わせる。
聞いたことの無い曲だ。心に響いていて、しかも、心の中に染みこんでくるような、それでいて心にワクワク感をかき立ててくる。ちょっとやそっとの才能では、こんなの作曲できないレベルだろう。
『こりゃ、ホントに金を掛けてるぞ?』
その時、今度は突風が吹き付けてきてきた。よろめくほどの強さだ。
思わず、ゴーグルを外して確かめてしまったほど。いやあ、オレの部屋だ。うん。当たり前か。
その時、胸の奥に、寂しさが噴き上げてくる。「あの音楽を聴きたい」「あの世界に帰りたい」と思わせるようなザワザワだ。
「こ、これで?」
慌ててゴーグルを付けた瞬間、軽い目眩のようなものを感じる。VR酔いか? なんて考える間もなく、オレの前には、意匠の凝った扉が、何もない空間にそびえていた。
え~っと、入り口はこれとしても、こういうのは、大抵、チュートリアルが付いてるハズなんだけど。
あ、これだな。オレはグローブを着けた指で扉の横についている「初めて来訪」のボタンをクリック。
画面が鮮やかに変化した。
「ようこそ、異世界へ」
女性とも男性ともわからない、柔らかなボイスがアナウンス。耳に気を取られた次の瞬間、白い部屋にオレは立っていた。
「すごい。今のゲームの画面ってのは、まるで実写だな」
もちろん、RPGくらいはやったことがある。というよりも、かつて、その新作発売が「国民的行事」とまで言われたシリーズはファンだった。6まではやりこんでいた。やがて、ラスボスまで、あまりにも長時間かかるようになったし、特に、ネットゲームになってから離れた。プライベートの時間まで他人と関わって、あれこれ理不尽に疲れるのは、避けたかったのだ。
「まあ、確かに、このレベルを作り込むなら、サーバーじゃないと無理だろうなぁ」
一つ一つのグラフィックもレベルが違う。オジさん、ちょっと、この世界について行けないかも。
チュートリアルの始まりを待ちながえら、ついそんなことを考えてしまう。
オレが入ろうとしている「黄昏のザンカフェル ONLINE」は、若者に人気で、そして、数々の社会問題を引き起こしている。それなりに予想はしてはいたけれど、実際に目にしてみると、予想の遙か上に行くクォリティだった。
『正規ユーザーが3千万人を突破してるって話だけど、このクオリティに、どれだけの金が掛かってるんだよ。これじゃあ、洋介が、ああなるのは無理もないのか?』
頭の中に、痩せ細って、辛うじて息をするだけだった姿がありありと思い出されてしまう。強制入院させるため、部屋からかつぎ出す間にも、ゲームの中の会話らしき言葉をうわごとにしていた。
母親が言うには、例の三点セットを嬉しそうに買ってきたのは一週間前だという。そこから、学校をサボるようになったのが三日目。そして、あんな姿になるのに、たった四日しかかからなかったという。信じがたい話だ。
『ひょっとして、オレが行かなかったら、洋介はあのままPCの前で死んでたかもな』
ゲーム廃人と言う言葉が社会に出てきて久しいが、このゲームでは、本当に死者まで出ているのだと新聞に出ている。
机に向かったまま、微動だにせず、虚空を睨んだままだった。既に「心」がこの世から離れてしまったかのようだ。医者は、気の毒そうな表情で「この状態から復活するのには、年の単位で時間が掛かる」とボソボソと告げていた。その目は「諦めろ」と言っているかのようだ。
そして、帰り道に調べると、このゲームでは、亡くなったり、こんな状態になってしまった若者が百人以上いるのだとか。オレは、定年前の最後のご奉公として、自分の生徒に何が起きたのかを調べたいと思ったのだ。
『あの姿は、痛々しいなんてもんじゃなかったもんなぁ』
それにしても、そんな義務感なんかを忘れさせるほ見事なグラフィックだ。ヴァーチャルリアリティなんて言葉があるけれど、コイツが、まさにそうなんだろうな。
「だが、システムだよな。問題の核心は。確かに、まるで実体験みたいな、このVRシステムはすごいけど、さ」
と思いつつも、目の前に現れた「女神」を見てしまうと、その圧倒的な妖艶さに、唖然とさせられる。それに、どういう技術を使っているのか見当も付かないけど、完全に、オレは「白い部屋に立っている」ように感じていた。
もちろん、実際のオレは、終の棲家にしたマンションで、PCに向かっているはずだった。
「ずっと、お待ちしておりました」
やわらかな声だった。
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