上 下
88 / 99

第32話 母子 3

しおりを挟む
 悩ましい問題だ。
 
『未玖が頼んだら、間違いなく、光樹は行くって言っちゃうものね。あぁ、あの子って、すごい子なのよ、実際』

 けっして引け目など感じないように、注意深く育ててきたつもりだったし、二人ともとして接してきたつもりだった。

 しかし、お兄ちゃんは、いい子すぎた。

『今回の学校のことだって、私には一言も言わなかったわ。きっと私に心配を掛けまいとしたのよね。先生からいっぱい謝られちゃったけど、むしろ、何も知らなくて恥ずかしかったくらいよ』

 光樹がイジメに遭っていた。

 ちっとも気付かなかったのは母親として恥ずかしい。光樹に、心の底から謝った。しかし「ボクが言わなかったからだもん。お母さんは全然悪くないからね。ビックリさせてごめん」と、むしろ慰められてしまった。
 
 光樹の実の両親は、人類学者であった。

 ダムで喪われることが決定したアマゾンの奥地の村へのフィールドワークとして、幼い子どもを親友夫妻に預けて向かい、そこで飛行機事故に遭って亡くなった。日本の数倍の広さを持った密林のどこに墜落したのかもわからず、遺体は十年経っても発見できないでいるほどに広い。

 そんな苦しい事態に見舞われた以上、預かっていた親友夫妻の一人息子を、そのまま引き取るのは、とても自然なことでもあった。

 年子のような我が子と一緒に、実の兄妹として育ててきたつもりだ。

 しかし、我が娘が「兄」を見る目は、どんどん「恋する乙女」になっている。

 母親として、娘の気持ちを応援したいような、けれども困ってしまうという、複雑な気持ちがあるのも事実だ。

『二人がお付き合いするのも、なんだったら、結婚してくれちゃっても、ぜーんぜんいいし、その前に体の関係になるとかならないとか、そんなことは二人が決めることよ。何の問題もないわ。ただ、問題があるとしたら光樹が未玖を妹としてしか見ないことなのよね』

 それは、我が子として育ててきたとしては嬉しいこと。けれども同じとして未玖の気持ちが痛いほどにわかってしまうのも事実なのだ。

「お母さん、お願い! ね? おねがい」

 娘のおねだりに心を揺さぶられながら『あぁ、また光樹に甘えることになっちゃうのかしら』と申し訳ない気持ちになってしまう母であった。
  
  
 
 
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作者より
 アマゾンのジャングルの広さは日本の国土面積の18倍以上ですが
飛行機の飛べる範囲で考えると「日本の数倍の広さ」になります。

 お母さんは、正月も取材で家に戻れません。農業系の新聞にとって、田舎の年末とお正月を取材するのは必須なんです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

処理中です...