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外伝 コロッケとボク 4
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掌に載せたおやつを差し出して「よしっ」って言った時だった。耳がピクンと立った。
「ワンッ!」
え?
ちゃんとした日本犬は、めったに吠えない。まして「親分」に対して吠えるなんてありえないはずなのに、ボクに対して本気で吠えたんだ。
驚いた。
「コロッケ?」
ボクの声をムシして、コロッケは走り出した。
「コロッケ! 待て! 待つんだ! 待てってば!」
ボクの命令は聞こえていたはずなのに振り向かない。
見たことのない加速で走り出したコロッケをボクは全力で追いかけた。速い! コロッケって、こんなに速く走れるんだ?
ただひたすら驚いて、ただひたすら追いかけていった。
あれ? これって、ピアノの先生の家の方?
間違いない。
ジャーンプ!
いつもなら回り込むフェンスをコロッケは跳び越えた。そこを曲がれば先生の家だ。
ボクは回り込んだ分だけ、遅れた。
「バウゥウウウウウ!」
「うわぁああ」
「きゃぁあああ!」
三つの声が交錯して聞こえたんだ。
後でわかったんだけど、未玖は帰り道、偶然、空き巣狙いがお隣から出てきたところに出会ってしまったらしい。
刃物を出されて怯えた未玖。怖くて悲鳴も上げられなかった。でも、コロッケは未玖が直面した「恐怖」を感じ取ったんじゃないかな。
本当にタッチの差だった。
いち早く到着したコロッケは「噛んじゃダメ」って言うボクの言葉を思いだしたのか、全力疾走のまま、その巨体を空き巣狙いにぶつけたらしい。
倒れ込んだ男に対して「うぅううー」と低く唸り声。
日本犬が全力で威嚇すれば、熊すら怯える迫力を持ってる。
男が逃げようかどうしようか迷ったところに、近所からワラワラと人が出てきた。
男は慌てて逃げ出した。誰かが110番をしたのだろう。近所で空き巣狙いの男は捕まった。
男が逃げ出した直後に到着したのがボクってわけだ。
泣いている未玖を慰めるように、頬をペロペロと舐めてるコロッケは、ボクを見て申し訳なさそうな顔をした。未玖を守るためとは言え、ボクの命令を無視したお詫びをしているように見えた。
あの顔が今でも頭に残ってるよ。
「ありがとう。コロッケ」
首を抱いたら、誇らしげに、でも、本当に申し訳なさそうに「くぅ~ん」と弱々しく鳴いたんだ。
ごめんなさいって言ってるみたいにね。
「ありがとう。コロッケ。君が守ってくれたんだね」
ボクと、未玖のホッペをいつまでもペロペロしてくれたね。でも、呼吸に混じった咳がひどい。
コロッケが辛いんだってことは、わかっていたんだよ。
でも、ボクたちの家族を、君は守ってくれたんだ。
「ワンッ!」
え?
ちゃんとした日本犬は、めったに吠えない。まして「親分」に対して吠えるなんてありえないはずなのに、ボクに対して本気で吠えたんだ。
驚いた。
「コロッケ?」
ボクの声をムシして、コロッケは走り出した。
「コロッケ! 待て! 待つんだ! 待てってば!」
ボクの命令は聞こえていたはずなのに振り向かない。
見たことのない加速で走り出したコロッケをボクは全力で追いかけた。速い! コロッケって、こんなに速く走れるんだ?
ただひたすら驚いて、ただひたすら追いかけていった。
あれ? これって、ピアノの先生の家の方?
間違いない。
ジャーンプ!
いつもなら回り込むフェンスをコロッケは跳び越えた。そこを曲がれば先生の家だ。
ボクは回り込んだ分だけ、遅れた。
「バウゥウウウウウ!」
「うわぁああ」
「きゃぁあああ!」
三つの声が交錯して聞こえたんだ。
後でわかったんだけど、未玖は帰り道、偶然、空き巣狙いがお隣から出てきたところに出会ってしまったらしい。
刃物を出されて怯えた未玖。怖くて悲鳴も上げられなかった。でも、コロッケは未玖が直面した「恐怖」を感じ取ったんじゃないかな。
本当にタッチの差だった。
いち早く到着したコロッケは「噛んじゃダメ」って言うボクの言葉を思いだしたのか、全力疾走のまま、その巨体を空き巣狙いにぶつけたらしい。
倒れ込んだ男に対して「うぅううー」と低く唸り声。
日本犬が全力で威嚇すれば、熊すら怯える迫力を持ってる。
男が逃げようかどうしようか迷ったところに、近所からワラワラと人が出てきた。
男は慌てて逃げ出した。誰かが110番をしたのだろう。近所で空き巣狙いの男は捕まった。
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泣いている未玖を慰めるように、頬をペロペロと舐めてるコロッケは、ボクを見て申し訳なさそうな顔をした。未玖を守るためとは言え、ボクの命令を無視したお詫びをしているように見えた。
あの顔が今でも頭に残ってるよ。
「ありがとう。コロッケ」
首を抱いたら、誇らしげに、でも、本当に申し訳なさそうに「くぅ~ん」と弱々しく鳴いたんだ。
ごめんなさいって言ってるみたいにね。
「ありがとう。コロッケ。君が守ってくれたんだね」
ボクと、未玖のホッペをいつまでもペロペロしてくれたね。でも、呼吸に混じった咳がひどい。
コロッケが辛いんだってことは、わかっていたんだよ。
でも、ボクたちの家族を、君は守ってくれたんだ。
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