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外伝8 指輪 前編 8

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 紗絵は唖然とする。

「作戦、ですか?」
「ええ。だって、そうでも言わないと、ちゃんと聞いてくれないでしょ?」
「それは、その……」
 
 確かに、いきなり「好きだ」と言われても無条件ではね除けていた自信くらいはある。そして、大島の言う「作戦」通り、話を聞いてしまっているのが今だ。

「オレの話を聞いてもらう作戦です。そして、それってヒドいかもしれませんけど、少なくともウソ告じゃないですから。そんなひどいマネをする男じゃないくらいには信じてくれますよね?」
「それと、これとは……」
「オレは本気で言ってます。さん、オレと付き合ってください。お願いします」
「誰かとお付き合いするとか、そんなことができるような。だって、私「今は話さなくて良いです」え?」
「過去の紗絵さんは知りません。でも、ずっと一緒に働いてきて仲間として信頼できる人だと思ってきたし、オレの闇も受け入れてくれる優しい人だとわかったんです。そういう人を好きになったらダメですか?」

 困った。

 大島の言葉にちっともウソを感じない。しかも、もっと困ったことがある。

『私、騙されても良いって…… ううん。騙されてもいいから信じてみたいって思ってる』

 そんな自分がいることに紗絵は困惑しかない。

「そういう聞き方は、ズルいと思いますよ」
「ははは。そうです。オレはズルくて、悪い人間で~す」
「むぅ~ 私を騙すんですか?」

 一ミリも「騙す」だなんて思って無い分、そんな言葉を口にすれば、紗絵の負け。

 事実、大島は、ニコニコと笑顔を見せて手を伸ばしてきた。

「そうです。騙しちゃいますから。ずっと、ず~っと。騙し続けますんで。ね、オレに騙されていてくれませんか?」
「それって、サイテーの口説き文句だと思うんですけど」

 伸ばしてきた手を拒めなかった。

 昨日知った、細マッチョの胸に身体を委ねると、アゴに軽く手を添えられた。

 瞳を閉じてしまった。それは全てを委ねる信頼の姿だろう。

 ゆっくりと唇を重ねた後で、紗絵はモジモジっとしてから「あのぉ……」と小さく声を出した。

「ん?」
「また、私を抱くんですか?」
「紗絵さんが嫌じゃなければ」
「嫌じゃ…… ないです」

 その時、心のどこかに「さよなら」という言葉が浮かんでいたのを、紗絵自身も気付かなかったのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作者より
やっぱり「指輪」の行方は気になりますよね?
人物紹介の一行ですませるな、と紗絵ちゃんがお冠のご様子。
紗絵が「ちゃんと書け」と言うんで、長い話になりました。笑笑

後半に続きます
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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