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外伝8 指輪 前編 3

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 申し訳ないけれども、クスクスとした笑いが止まらない。少年の顔が憮然としたものに変わっていくのはわかっていても、止まらなかったのだ。

『でも、あの大島先生が、一晩抱いただけで、こんなに狼狽えちゃうだなんて』

 大島は憮然としつつも、紗絵の意外な反応に戸惑いでいっぱいらしい。

 そこで一つ呼吸をして、真っ直ぐに大島を見た。

「あのぉ、昨夜、確かに私達エッチをしました。でも、私のことが好きだから求めてくれたわけじゃないですよね?」

 大島は行き場のなくなった感情をぶつける欲しかっただけ。
 自分はたまたま、そこにいた。受け止める人間が必要ならば、気付かせてしまった自分が引き受けるのも責任のようなもの。

 幸い、それは嫌なことではなかった。

『それだけは自分でもビックリ。あんなに素直に受け入れられたのは不思議よ。でも、勘違いしちゃダメ』

 強く自分に言い聞かせている。

「大島先生」
「はいっ」
「忘れていただけると嬉しいです。大人同士なのでエッチするのは悪いことでもなんでもないですけど、こんなことで先生を縛ろうとは思いません。この後も普通にしていただけると嬉しいです」
「しかし」
「正直に申し上げれば、先生としたことは嫌じゃなかったです。すごく久しぶりでしたけど…… 自分にも、こんなことができるが残ってたんだなって。今朝は、少し嬉しいくらいです」

 そう。今朝、部屋が暖かったから。

「でも、私は、先生に信じていただけるような女じゃないんです。だから、忘れてください」

 ぺこんと頭を下げてから「先生、いったんお帰りにならないと、さすがに着替えないと不味いですよ」と立ち上がって見せた。

 大島が家に戻る時間を見計らって起こしている分、時間的には余裕はあるが、ゆっくり話し込む時間など、ないのだから。

 大島は、ふっと考え込む顔を見せてから、瞬き二つ分だけ考えた後、思いのほかに明るい声で「わかりました」と笑顔を見せた。

 そこからパッパと身支度をすると、つむじ風のように家を飛び出していった大島だった。

「いや~ ホントは名残惜しいですけど、また、後で会えますね」
「はい。また、後で」

 何を想ったのか、大島は「いつもの爽やか体育会系」の笑いを浮かべると、頭を下げて帰って行った。

 その背中を見送ってから、昨夜のシーツを洗濯機に放り込んだ紗絵は、なんだか楽しくなっている自分に気付いていた。
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