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外伝7 後編 春遠からじ 5
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大島の表情に浮かぶのは「虚無」だった。
「彼女さんが男の人と一緒だったんですか?」
「ベンチで、男の上に乗って…… してる最中でしたよ」
「あなたは?」
「逃げるしかできなくてね。パニクってたんでしょう。ただ、相手の男がボランティア部のイケメン先輩だって。その幼なじみだった男? そいつだって見るのが精一杯でした」
「浮気、ですか?」
「どっちがよかったんですかね」
「どっちが、とは?」
「1時間くらいしてから電話が来たんですよ。で、浮気してたよなって言ったら否定するから、公園のベンチでヤッてるのを、さっき見たぞって話したら無言で切られました。しばらく見かけないなと思ったら、ある日突然、うちにやってきたんです」
「謝罪…… ではなかったんですね」
大島の歪んだ顔を見れば、わかる。
「はい。この間、あなたは浮気って言ってたけど違うって言うんですよ。真顔で。最初に頭がおかしくなったのかと思って。次に、あ、こうやって誤魔化せると思ってるんだ、と。ずいぶんと舐められた話ですよ」
「誤魔化すつもりだったんですかね?」
「さあ? 相手は一個上の幼なじみで、夏休みに身体の関係があったことまでは、すぐ認めたんです。でも、浮気じゃないんだ。愛してるのはあなただけだと。それを真顔で言ってくれるんですよ?」
「それは……」
心の中にモヤがかかる。モヤの中に、何かがある気がした。自分はそれを見つけなくちゃいけない。そんな気がした。
何かがある。
でも、それを見つけていいのだろうか?
大島は、紗絵の葛藤に気付いていなかった。
「白々しく、浮気だと思われるのは困るので先輩とはもうしない。好きなのはあなただけだって。真剣に言うんですよ? 頭、おかしいでしょ。もう、そいつのことが理解できなくて。別の生物を見てる感じでした。それ以来ですよ。女ってものを…… いや、他人を信じるのをやめたんです。信じなければ、失望もしないですからね」
ゴクリとつばを飲み込んだ。心臓が早鐘のように響いてる。
『これは違う、ホントに違う。きっと、違う…… でも、それを言って良いの? 私に、それを言う資格なんてあるの? でも、言うのは、私の義務かもしれないし』
「その後は?」
その質問は、ホントは必要ない。自分が踏み切るための時間稼ぎのようなものだ。
「もちろん即刻追い出しました。二度と近寄るなって言って。ま、キャンパスが同じなんで、たまに見かけましたけど、その後はオレを避けるようにしてくれたのだけは感謝ですね」
冷え冷えとした薄い笑いを浮かべる大島は、紗絵の表情が歪むのに気付いていなかった。
「彼女さんが男の人と一緒だったんですか?」
「ベンチで、男の上に乗って…… してる最中でしたよ」
「あなたは?」
「逃げるしかできなくてね。パニクってたんでしょう。ただ、相手の男がボランティア部のイケメン先輩だって。その幼なじみだった男? そいつだって見るのが精一杯でした」
「浮気、ですか?」
「どっちがよかったんですかね」
「どっちが、とは?」
「1時間くらいしてから電話が来たんですよ。で、浮気してたよなって言ったら否定するから、公園のベンチでヤッてるのを、さっき見たぞって話したら無言で切られました。しばらく見かけないなと思ったら、ある日突然、うちにやってきたんです」
「謝罪…… ではなかったんですね」
大島の歪んだ顔を見れば、わかる。
「はい。この間、あなたは浮気って言ってたけど違うって言うんですよ。真顔で。最初に頭がおかしくなったのかと思って。次に、あ、こうやって誤魔化せると思ってるんだ、と。ずいぶんと舐められた話ですよ」
「誤魔化すつもりだったんですかね?」
「さあ? 相手は一個上の幼なじみで、夏休みに身体の関係があったことまでは、すぐ認めたんです。でも、浮気じゃないんだ。愛してるのはあなただけだと。それを真顔で言ってくれるんですよ?」
「それは……」
心の中にモヤがかかる。モヤの中に、何かがある気がした。自分はそれを見つけなくちゃいけない。そんな気がした。
何かがある。
でも、それを見つけていいのだろうか?
大島は、紗絵の葛藤に気付いていなかった。
「白々しく、浮気だと思われるのは困るので先輩とはもうしない。好きなのはあなただけだって。真剣に言うんですよ? 頭、おかしいでしょ。もう、そいつのことが理解できなくて。別の生物を見てる感じでした。それ以来ですよ。女ってものを…… いや、他人を信じるのをやめたんです。信じなければ、失望もしないですからね」
ゴクリとつばを飲み込んだ。心臓が早鐘のように響いてる。
『これは違う、ホントに違う。きっと、違う…… でも、それを言って良いの? 私に、それを言う資格なんてあるの? でも、言うのは、私の義務かもしれないし』
「その後は?」
その質問は、ホントは必要ない。自分が踏み切るための時間稼ぎのようなものだ。
「もちろん即刻追い出しました。二度と近寄るなって言って。ま、キャンパスが同じなんで、たまに見かけましたけど、その後はオレを避けるようにしてくれたのだけは感謝ですね」
冷え冷えとした薄い笑いを浮かべる大島は、紗絵の表情が歪むのに気付いていなかった。
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