上 下
77 / 93

外伝7 後編 春遠からじ 5

しおりを挟む
 大島の表情に浮かぶのは「虚無」だった。

「彼女さんが男の人と一緒だったんですか?」
「ベンチで、男の上に乗って…… してる最中でしたよ」
「あなたは?」
「逃げるしかできなくてね。パニクってたんでしょう。ただ、相手の男がボランティア部のイケメン先輩だって。その幼なじみだった男? そいつだって見るのが精一杯でした」
「浮気、ですか?」
「どっちがよかったんですかね」
「どっちが、とは?」
「1時間くらいしてから電話が来たんですよ。で、浮気してたよなって言ったら否定するから、公園のベンチでヤッてるのを、さっき見たぞって話したら無言で切られました。しばらく見かけないなと思ったら、ある日突然、うちにやってきたんです」
「謝罪…… ではなかったんですね」

 大島の歪んだ顔を見れば、わかる。

「はい。この間、あなたは浮気って言ってたけど違うって言うんですよ。真顔で。最初に頭がおかしくなったのかと思って。次に、あ、こうやって誤魔化せると思ってるんだ、と。ずいぶんと舐められた話ですよ」
「誤魔化すつもりだったんですかね?」
「さあ? 相手は一個上の幼なじみで、夏休みに身体の関係があったことまでは、すぐ認めたんです。でも、浮気じゃないんだ。愛してるのはあなただけだと。それを真顔で言ってくれるんですよ?」
「それは……」
 
 心の中にモヤがかかる。モヤの中に、何かがある気がした。自分はそれを見つけなくちゃいけない。そんな気がした。

 何かがある。

 でも、それを見つけていいのだろうか? 

 大島は、紗絵の葛藤に気付いていなかった。

「白々しく、浮気だと思われるのは困るので先輩とはもうしない。好きなのはあなただけだって。真剣に言うんですよ? 頭、おかしいでしょ。もう、そいつのことが理解できなくて。別の生物を見てる感じでした。それ以来ですよ。女ってものを…… いや、他人を信じるのをやめたんです。信じなければ、失望もしないですからね」

 ゴクリとつばを飲み込んだ。心臓が早鐘のように響いてる。

『これは違う、ホントに違う。きっと、違う…… でも、それを言って良いの? 私に、それを言う資格なんてあるの? でも、言うのは、私の義務かもしれないし』

「その後は?」

 その質問は、ホントは必要ない。自分が踏み切るための時間稼ぎのようなものだ。
 
「もちろん即刻追い出しました。二度と近寄るなって言って。ま、キャンパスが同じなんで、たまに見かけましたけど、その後はオレを避けるようにしてくれたのだけは感謝ですね」

 冷え冷えとした薄い笑いを浮かべる大島は、紗絵の表情が歪むのに気付いていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

陛下、貴殿に尽くしてきた王妃ですが、もう私は貴殿へ尽くすことをやめます。

天災
恋愛
 貴殿に尽くすことをやめます。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

わがまま妹、自爆する

四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。 そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?

最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった

音の中
恋愛
山岸優李には、2人の幼馴染みと1人の親友がいる。 そして幼馴染みの内1人は、俺の大切で最愛の彼女だ。 4人で俺の部屋で遊んでいたときに、俺と彼女ではないもう一人の幼馴染み、美山 奏は限定ロールケーキを買いに出掛けた。ところが俺の凡ミスで急遽家に戻ると、俺の部屋から大きな音がしたので慌てて部屋に入った。するといつもと様子の違う2人が「虫が〜〜」などと言っている。能天気な俺は何も気付かなかったが、奏は敏感に違和感を感じ取っていた。 これは、俺のことを裏切った幼馴染みと親友、そして俺のことを救ってくれたもう一人の幼馴染みの物語だ。 -- 【登場人物】 山岸 優李:裏切られた主人公 美山 奏:救った幼馴染み 坂下 羽月:裏切った幼馴染みで彼女。 北島 光輝:裏切った親友 -- この物語は『NTR』と『復讐』をテーマにしています。 ですが、過激なことはしない予定なので、あまりスカッとする復讐劇にはならないかも知れません。あと、復讐はかなり後半になると思います。 人によっては不満に思うこともあるかもです。 そう感じさせてしまったら申し訳ありません。 また、ストーリー自体はテンプレだと思います。 -- 筆者はNTRが好きではなく、純愛が好きです。 なので純愛要素も盛り込んでいきたいと考えています。 小説自体描いたのはこちらが初めてなので、読みにくい箇所が散見するかも知れません。 生暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ちなみにNTR的な胸糞な展開は第1章で終わる予定。

貴方の側妃にはなりません。いっそ貴方の側近をやめさせていただくので。

天災
恋愛
 貴方の側近をやめさせていただくので。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

処理中です...