上 下
76 / 93

外伝7 後編 春遠からじ 4

しおりを挟む
 おそらく、自分自身の感慨を追い払おうとしたからだろう。紗絵はつい言葉を出していた。
 
「二股でしたっけ」
「え?」

 ギョッとしたように、目を開ける大島。

 その目を見て、慌てて「ごめんなさい」と我を取り戻した紗絵。
 
 他人の傷に触れて良いはずがない。

 案に相違して、大島は薄く笑って見せた。

「さっきの話ですね。あれ、ちょっとだけウソです」

 目を閉じた大島は「少しカッコをつけました」と吐き捨てた。

「カッコをつけた?」
「はい。ネトラレですよ。彼女には男がいたんです。単なる幼馴染みだと言ってたんですけどね」

 なんと答えるべきなのか、紗絵は迷ったが、勝手に言葉を続けたのである。

「仲良くしてるのは知ってましたよ? でも、幼馴染みだって、まあ、それは付き合った後に聞いたんですけど。とにかく、オレが告白してOKしたなら、他に付き合ってる男がいるなんて思うわけがない」
「その幼馴染みと、彼女さんが、こっそり付き合っていたのですか?」
「みたいですよ。最後まで認めなかったけど、身体の関係は認めましたからね。もう、わけが分かんないですよ」

 大島は自嘲のような歪んだ笑みを浮かべた。

「身体の関係がある人がいるのに、大島先生にOKをしたんですか?」
「どっちが先かはわかりませんけどね」

 ふっと息を吐き下ろした。

「ずっと、オレが初めてだって思ってました。でも、向こうが先だったのかもしれない。わかりません。 ……彼女とは大学も学部も同じだったんです。ただ、サークルだけ違ってて、オレはサッカー部。彼女はボランティア部でした。で、夏休みくらいから、なかなか会えなくなってきたんです。後から思えば、彼女が予定をわざとズラしていたんでしょう」

 だんだんと饒舌になって行くのは、何かのストッパーが外れてしまったからだろうか。

「彼女の誕生日が9月で、約束したんですよ。始めは渋っていたのを、ちょっと遠出するって言ったらノッてきたんです。後から考えれば、幼なじみ彼氏に見られるのを警戒してたんでしょうね。ま、こっちは、そんなことは知らないから、デートとは別にサプライズで誕生日になる瞬間にプレゼントを渡そうと思って行ったんですよ」
「そこで何か見ちゃったとか?」
「よくわかりますね。お互い実家ですからね。若かったんだなぁ。きっかり0時に渡そうって、彼女の家の前に着いて電話したら、なんと家の前の小さな公園で鳴ったんです」

 紗絵は、いつの間にか、保冷剤ではなく、その手で冷え切った背中を撫でていた。意識していたわけでもなく、自然とそうしていたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった

音の中
恋愛
山岸優李には、2人の幼馴染みと1人の親友がいる。 そして幼馴染みの内1人は、俺の大切で最愛の彼女だ。 4人で俺の部屋で遊んでいたときに、俺と彼女ではないもう一人の幼馴染み、美山 奏は限定ロールケーキを買いに出掛けた。ところが俺の凡ミスで急遽家に戻ると、俺の部屋から大きな音がしたので慌てて部屋に入った。するといつもと様子の違う2人が「虫が〜〜」などと言っている。能天気な俺は何も気付かなかったが、奏は敏感に違和感を感じ取っていた。 これは、俺のことを裏切った幼馴染みと親友、そして俺のことを救ってくれたもう一人の幼馴染みの物語だ。 -- 【登場人物】 山岸 優李:裏切られた主人公 美山 奏:救った幼馴染み 坂下 羽月:裏切った幼馴染みで彼女。 北島 光輝:裏切った親友 -- この物語は『NTR』と『復讐』をテーマにしています。 ですが、過激なことはしない予定なので、あまりスカッとする復讐劇にはならないかも知れません。あと、復讐はかなり後半になると思います。 人によっては不満に思うこともあるかもです。 そう感じさせてしまったら申し訳ありません。 また、ストーリー自体はテンプレだと思います。 -- 筆者はNTRが好きではなく、純愛が好きです。 なので純愛要素も盛り込んでいきたいと考えています。 小説自体描いたのはこちらが初めてなので、読みにくい箇所が散見するかも知れません。 生暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ちなみにNTR的な胸糞な展開は第1章で終わる予定。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

陛下、貴殿に尽くしてきた王妃ですが、もう私は貴殿へ尽くすことをやめます。

天災
恋愛
 貴殿に尽くすことをやめます。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

わがまま妹、自爆する

四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。 そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?

貴方の側妃にはなりません。いっそ貴方の側近をやめさせていただくので。

天災
恋愛
 貴方の側近をやめさせていただくので。

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

処理中です...