上 下
67 / 93

外伝7 前編 大島真一の謎 3

しおりを挟む
 自分の言葉は、正論過ぎた。子どもたちの心をえぐる言葉だった。

『私の言葉だけだったら、きっと、重く受け止めすぎて、今度は動けなかったかもしれないわ』

 あの時は「大島先生は天然だから」ですませていた。
 
 しかし、あれ以後も、淡々と、そしてまるで何事もなかったかのように、全く変わらずにHRへと向かう大島の表情には一切の危うさを感じなかったのも事実だった。

『本当に、単純なだけの人なのかしら? ひょっとしたら、大きく勘違いさせられているかもしれないわ』

 あれが、天然じゃないとしたら、なんなの? どこまで考えて行動してるの?

 考えれば考えるほどに、怖い人だということだ。

「おっ、いーねー」

 小さく呟く声にチラッと大島を見た。

 指揮者が構えた瞬間、生徒達がザッと音を立てて一斉に歌唱体勢に入った姿に頷く姿だ。

「まあ、ホントは自然がいいんでしょうけどね」

 音楽の教師からは、各自が自然に歌唱姿勢を取るようにという指導がなされているし、それが本来のカタチだ。だが、中学生は「合図でこうするよ」と教えた方がやりやすいのも事実なのである。

 その話だと、とっさに思った。

 突然、話しかけられた紗絵は「ええ。そうですね、本当は、もっとリラックスして構えられたらいいと思います」と慌てて答えた。

 ドキッとした。

 まるで「自分の何かを探ってるんですか?」と問いかけるかのように紗絵と視線を合わせているのだ。 

 自分の「疑い」を見抜かれている気がして焦った。同時に「あ、この人は、やっぱり胸は見ないんだ」と心が呟いていた。

 実は、大島は数少ない「胸を見てこない男性」である、ということに好意を持っている気持ちを見抜かれた気がしたのだ。

『たっくん以来なんだよね、そんな人』

 自分の胸の大きさを隠すような服装をやめて久しい。以前は気にしすぎて逆に、そこにこだわりすぎていた気がした。今は、決して強調を心がけているわけではなく、を優先するようになっただけではある。しかし、大きなバストを持つ女性にとって、服装の選択は大げさに言えば、人生そのものでもあるのだ。

 少女の時に膨らみ始めてから、胸の膨らみとは強烈な誘引力を持っているものだとつくづく体験してきてしまった。男性の目は……男子生徒は言うに及ばず……必ず、そこに注がれてくる。それを煩わしいと想うことを、紗絵は止めたのだ。

 時に、イタズラだと言い訳して、直接触ってくる男子生徒もいるが、それこそとっつかまえて、徹底的に「お話」してあげるチャンスだとも思っている。

 とはいえ、一般の男性だって、直接触ってこないだけで、気を許せばその視線の通りにツケ込んでくるのだろう。そんな風に思って行動しているから、自然と、男性と距離を置くのが常となっていた。

 だが、大島だけは違っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった

音の中
恋愛
山岸優李には、2人の幼馴染みと1人の親友がいる。 そして幼馴染みの内1人は、俺の大切で最愛の彼女だ。 4人で俺の部屋で遊んでいたときに、俺と彼女ではないもう一人の幼馴染み、美山 奏は限定ロールケーキを買いに出掛けた。ところが俺の凡ミスで急遽家に戻ると、俺の部屋から大きな音がしたので慌てて部屋に入った。するといつもと様子の違う2人が「虫が〜〜」などと言っている。能天気な俺は何も気付かなかったが、奏は敏感に違和感を感じ取っていた。 これは、俺のことを裏切った幼馴染みと親友、そして俺のことを救ってくれたもう一人の幼馴染みの物語だ。 -- 【登場人物】 山岸 優李:裏切られた主人公 美山 奏:救った幼馴染み 坂下 羽月:裏切った幼馴染みで彼女。 北島 光輝:裏切った親友 -- この物語は『NTR』と『復讐』をテーマにしています。 ですが、過激なことはしない予定なので、あまりスカッとする復讐劇にはならないかも知れません。あと、復讐はかなり後半になると思います。 人によっては不満に思うこともあるかもです。 そう感じさせてしまったら申し訳ありません。 また、ストーリー自体はテンプレだと思います。 -- 筆者はNTRが好きではなく、純愛が好きです。 なので純愛要素も盛り込んでいきたいと考えています。 小説自体描いたのはこちらが初めてなので、読みにくい箇所が散見するかも知れません。 生暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ちなみにNTR的な胸糞な展開は第1章で終わる予定。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

陛下、貴殿に尽くしてきた王妃ですが、もう私は貴殿へ尽くすことをやめます。

天災
恋愛
 貴殿に尽くすことをやめます。

わがまま妹、自爆する

四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。 そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

貴方の側妃にはなりません。いっそ貴方の側近をやめさせていただくので。

天災
恋愛
 貴方の側近をやめさせていただくので。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...