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外伝5 紗絵の教室 6

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 クマに、少しだけ迷いが生まれている。

「せん、せ、い…… お、オレは」
「そうよ。堀内君? 今なら生徒として扱ってあげる。ナイフをそこに置くの。ね? 今なら、まだ間に合うから」
「ナイフを……」

 手元のナイフにジッと目を落としてから、ゆっくりと上がってきた視線は、元の「クマ」だった。

 ダメか、と絶望的な気持ちとなった紗絵は、ゆっくりとカバンを持ち上げる。

 クマの視線は、そのカバンに向けられてゆっくりと動いた。

 そのタイミングを見た紗絵が、突然「クマ」の後ろに目を向けると、パッと顔を輝かせた。

「あ、大島先生!」
「!!!」

 パッと振り返って、そこに誰もいないのを確かめた。

 クマは唖然とする。

 そのスキを見て紗絵は机の間を脱兎だっとのごとく走って行く。

「騙したな! 教師のくせに!」

 ガガガンと机をひっくり返しながら追いかけるクマ。

 出口のところで追いつかれた。

 振り返った紗絵が逆に、身体をぶつけてきた。

「ぎゃああああ!」

 断末魔の叫び。

 バチバチバチ 

 小さな火花と弾ける音。焦げ臭い臭い。

 女性教師が手に持っていたのはスタンガンだった。高電圧放出の小型強力タイプ。代わりに1回限りの使い捨てだ。

 倒れたかどうかを確認する前に、紗絵はそのまま職員室まで駆け下りる。2階、1階、走る、走る、走る。

「先生方! 今、襲われました。犯人は3の1の教室にいます!」

 職員室に駆け込むなり、そう叫んだ紗絵に反応して、一斉に男性教師達が走り出す。その後ろを女性陣。

 副校長と、そこにいた体育の教師は、立てかけてあるサスマタまで持ち出した。

 そして、駆け上がった教師達は、教室に倒れているを発見し、それがであることを確認したのである。

 困惑が広がる。
 
「小仏先生。これは?」

 少し遅れて入ってきた紗絵に、いつの間に来たのか、校長がとがめめる口調だ。

「犯人です」

 素早く走り寄っていた養護の関内先生が「息はしています。意識も、少しあるみたいですね」と、誰に言うでもなく声を上げた。

 ハア、ハア、ハアと、まだ荒い息をして到着したばかりの校長は青い顔だ。

 養護の関内先生が「救急車を?」と言うのを手で止めた校長。

「小仏先生、これは、一体何を?」
「襲ってきたので、これを使いました。高電圧タイプなので、しばらく気を失っているかも」

 そばに落ちているスタンガンを拾いあげて校長に差し出した。ギョッとした目で校長が紗絵を見た。

「小仏先生、いったい、なんと言うことをしてくれたんですか!」
「何がですか?」

 紗絵の方はすでに平常モードの表情になっていた。
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