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第43話 笑顔 3
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一人部屋に残されて、何かを探し回るようなマネなどするわけがない。もしも痕跡を見てしまえばダメージを深くするだけだから。
以前だったらベッドに座っただろう。しかし「このベッドでヤツとやってるのかよ」と思うと座るのをためらってしまった。
結局机の引き出しに寄っかかるカタチでフローリングに座った。
それからしばらく戻ってこなかった。15分ほどたった頃だ。
「待たせちゃったね、ごめ~ん」
えっ? と息を呑む瞬。
パイル地のオフショルダーの部屋着。コロンを付け直してきたのか、いつの間にか懐かしく感じるスズランの匂いがフレッシュだ。
激しい既視感。
あの時の服だ。初めて部屋に来た時に着ていた服だ。いかにも、シャワーしたばかりだとわかる天音は、手に飲み物など持っていない。
「久しぶり」
座り込んだ瞬と目線を合わせるように跪いて、顔を覗き込んできた。
ニコリ。
瞬の好きだったあの笑顔が目の前にある。
言葉をためらった。
一言だけのつもりだった。
勇気をふるって「ちゃんと別れよう」と言う。その時は、目一杯の努力でにっこり笑って「ありがとう」も付け足すつもりだった。
最後の最後に意地を張ろうと思っていた。
しかし、この笑顔に向かって、それを告げるのは、勇気とは別次元の何かが必要だった。どんなに意地の悪い見方をしても、今の天音の瞳には自分しか映ってないのは明白なのだ。
『オレは、何かを根本的に間違えていた? これって、オレのことが大好きな女の目じゃん。いや、違う、そんなことはない。オレは見たんだ! あれも、これも! 何度もだ! ホテルから出てくるところだって見たじゃん!』
言うんだ。言ってしまえ。たった一言で楽になれるんだぞ!
『でも、目の前の天音は、オレが大好きだった天音だぞ? いったい、何を間違えてたんだ? いや、違う、あんなに冷たい女だぞ! こんな笑顔を見せるなんてありえない。オレの勘違いに決まってる! ちゃんと別れるんだ!』
勇気をふるって口を開こうとした機先を制して「図々しいとわかってるけど、お願いがあるの!」と両手を掴んできた。美少女の必死の表情だ。
以前だったらベッドに座っただろう。しかし「このベッドでヤツとやってるのかよ」と思うと座るのをためらってしまった。
結局机の引き出しに寄っかかるカタチでフローリングに座った。
それからしばらく戻ってこなかった。15分ほどたった頃だ。
「待たせちゃったね、ごめ~ん」
えっ? と息を呑む瞬。
パイル地のオフショルダーの部屋着。コロンを付け直してきたのか、いつの間にか懐かしく感じるスズランの匂いがフレッシュだ。
激しい既視感。
あの時の服だ。初めて部屋に来た時に着ていた服だ。いかにも、シャワーしたばかりだとわかる天音は、手に飲み物など持っていない。
「久しぶり」
座り込んだ瞬と目線を合わせるように跪いて、顔を覗き込んできた。
ニコリ。
瞬の好きだったあの笑顔が目の前にある。
言葉をためらった。
一言だけのつもりだった。
勇気をふるって「ちゃんと別れよう」と言う。その時は、目一杯の努力でにっこり笑って「ありがとう」も付け足すつもりだった。
最後の最後に意地を張ろうと思っていた。
しかし、この笑顔に向かって、それを告げるのは、勇気とは別次元の何かが必要だった。どんなに意地の悪い見方をしても、今の天音の瞳には自分しか映ってないのは明白なのだ。
『オレは、何かを根本的に間違えていた? これって、オレのことが大好きな女の目じゃん。いや、違う、そんなことはない。オレは見たんだ! あれも、これも! 何度もだ! ホテルから出てくるところだって見たじゃん!』
言うんだ。言ってしまえ。たった一言で楽になれるんだぞ!
『でも、目の前の天音は、オレが大好きだった天音だぞ? いったい、何を間違えてたんだ? いや、違う、あんなに冷たい女だぞ! こんな笑顔を見せるなんてありえない。オレの勘違いに決まってる! ちゃんと別れるんだ!』
勇気をふるって口を開こうとした機先を制して「図々しいとわかってるけど、お願いがあるの!」と両手を掴んできた。美少女の必死の表情だ。
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