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第41話 弟妹 ~健~ 2
しおりを挟む「オレは父さんの子どもじゃないってよ!」
「健、いったい何だ、帰る早々、わけの分からないことを」
「今日献血車が来た。オレの血液型はBだった。天音の父親と同じBだったんだぜ!」
その瞬間、オヤジの顔が真っ白になったのは恐らく思い当たることがあったからだろう。普通だったら、話を確認しようとするだろ? あるいは何が何でも否定するはず。
オレ自身が、一番、否定してほしかった。オヤジに「実はオレはB型だぞ」と笑いながら言って欲しかったんだと思う。
だけど、親父の顔にあったのは驚愕でも疑問でもなく「やっぱり」という怒りだった。ひょっとしたら、オレが生まれる前に、オヤジとあの女との間に何かがあったのかもしれない。
あの女は、オレの言葉を聞くと何も言わずに泣き崩れた。
家中の時が止まった。
あの大人しい父親が、その日は暴れた。暴力なんて言葉をこれっぽちも持っているはずがないと思った男が、長年妻だった女をグーで殴りつけていた。
「出てけ!」
そんな言葉が聞こえたと思う。
オレは「いい気味だ」としか思えなかった。生物学的な親であるあの女よりも、同じ男としてオヤジに完全に味方していた。
その後、あの女がどうしたのかはわからない。
けれども部屋で荒れ狂ったオレが、翌日、気が付いたらベッドで寝ていたこと。そして、長い長い時間が経った後、オヤジが来たこと。
「お前はオレの息子だからな」
そう言って抱きしめてくれたことだけがハッキリとしている。
抱き締められながら、聞くに聞けないことがあった。
「それなら渉は誰の子なんだよ」
恐ろしい疑問だ。
家族でオレだけが高身長。しかし、オレの背が伸びたのは中学からだ。
オレと渉は似てなかった。だけど似てない兄弟なんて珍しくもない。
子どもの頃から、オレと天音は足が速かった。そして渉の足が遅いのは目を覆わんばかりだった。
自転車で坂道を猛スピードで下ることに夢中になったのは、足の速いお兄ちゃんにコンプレックスがあったからだろう。そんなことを渉の担任が漏らしたことがある。
オレと渉。オレと天音。そして渉と天音……
「弟」の渉の仇を討つために天音をコマとして使った。
この1年で「妹」の心は確実に壊れた。心が痛まないといったらウソになる。
心を鬼にしたのは「弟」の復讐のため。ヤツの彼女である天音を壊すのは仕方がなかったんだ。
でも、弟の復讐のために妹の心を壊したことになる。
オレは妹とヤッてしまった。天音はオレと兄妹だって知っていたんだよな?
兄に犯されながら、天音はいったい何を考えたんだろう?
オレはいったい何をしてしまったんだ。
オレの復讐は、いったい何だったんだ。
オヤジは天音の母親に何も言わなかったらしい。いかにもオレの親父らしいって感じだ。
だって天音の母親に責任なんてないことはわかりきっているから、オヤジは責める口調になることを恐れたんだと思う。
あとは親父の中の問題だ。
だけど、オレは違う。
弟のために妹を壊した。知ってるとか知らないとか言う問題じゃない。
天音という「妹」を壊してしまったのはオレだ。
オレはどうしたら良いんだ?
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