123 / 141
第38話 陽菜の復活 2
しおりを挟む「もう、一年生もUPに出てる時間だ。少し急ぐか。あれ?」
無人を予想していたのに、ポツンと座っている女子がいた。
ウルフカットのショートヘアに、独特のミルクのような匂い。アップ着の上からでもわかる薄い肩。
いや、一々そんなことを分析しなくても一目瞭然だ。
「おはよ、陽菜ちゃん」
「おはようございます」
他の人間がいないときは「ちゃん」呼びになった。陽菜からの強いお願いの結果だ。ホントは「陽菜」と呼ばれたがったが、それはさすがに固辞したという、妥協の産物である。
「よかった。今日は来られたんだ。調子はどう?」
聞くまでもないことだ。しかし、それ以外に掛ける言葉など思いつかなかった。
「先輩に会えたから、もう元気です~」
『いろいろと相談に乗ってるせいか、こんな冗談まで言えるようになってきたな』
瞬の顔を見て嬉しそうにはしてくれたものの、まったく覇気のない顔だ。少し痩せたかもしれない。
「だよね」
かみ合ってない返事をしながら、責任を感じてしまう瞬だ。
「ゴメン。オレのせいだね」
「違います」
慌てたように声が大きくなる。
「先輩はあんなに優しくしてくれてるじゃないですか! あんなところを見せた、あいつらのせいです。先輩は全然悪くなんてありません。むしろ、被害者じゃないですか」
ここで何かを言えば、さらに彼女を追い込む可能性があると思うと、瞬はそこで口を閉ざすしかなかった。
「レースは出るんだろ?」
「そうですね。勝ち目はなくても、エントリーはしちゃってるんで。経験になるかなって」
元気はないが、前向きなところは残っている。やはり、太陽の下のヒマワリのような女の子だと思ってしまう。
『何とかしてあげたいな。オレのせいなんだから』
瞬は陽菜のデータを素早く計算した。最近わかってきた性格も含めて、最善策を素早く構築する瞬だ。
いちばん大事なのはモチベーションだろうと結論する。
『それなら、オレには何とかできる可能性がある』
陽菜の中にある信頼と、最近、急速に膨らんできた淡い恋心を利用するやり方だ。悪辣な手段な気がして胸はチクリと痛んだが、何もしないよりはマシだと思った。
作り出すのは柔和な笑顔。優しい先輩の表情だ。
「陽菜ちゃんなら勝てると思うよ」
「え?」
「少なくとも決勝グループには残れる可能性が高いと思う」
「ホントですか?」
九分、一分で信じてない顔だ。優しい先輩が慰めで言ってくれてるのだろうとしか思ってない。
瞬を信じてくれる、そして、旬のために泣いてくれた優しい子だ。
何とかしてあげたかった。
2
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。




マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる