辛かったけど真の彼女ができました

新川 さとし

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第38話 陽菜の復活 2

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「もう、一年生もUPに出てる時間だ。少し急ぐか。あれ?」

 無人を予想していたのに、ポツンと座っている女子がいた。

 ウルフカットのショートヘアに、独特のミルクのような匂い。アップ着の上からでもわかる薄い肩。

 いや、一々そんなことを分析しなくても一目瞭然だ。

「おはよ、陽菜ちゃん」
「おはようございます」

 他の人間がいないときは「ちゃん」呼びになった。陽菜からの強いお願いの結果だ。ホントは「陽菜」と呼ばれたがったが、それはさすがに固辞したという、妥協の産物である。

「よかった。今日は来られたんだ。調子はどう?」

 聞くまでもないことだ。しかし、それ以外に掛ける言葉など思いつかなかった。

「先輩に会えたから、もう元気です~」

『いろいろと相談に乗ってるせいか、こんな冗談まで言えるようになってきたな』

 瞬の顔を見て嬉しそうにはしてくれたものの、まったく覇気のない顔だ。少し痩せたかもしれない。

「だよね」

 かみ合ってない返事をしながら、責任を感じてしまう瞬だ。

「ゴメン。オレのせいだね」
「違います」
 
 慌てたように声が大きくなる。

「先輩はあんなに優しくしてくれてるじゃないですか! あんなところを見せた、あいつらのせいです。先輩は全然悪くなんてありません。むしろ、被害者じゃないですか」

 ここで何かを言えば、さらに彼女を追い込む可能性があると思うと、瞬はそこで口を閉ざすしかなかった。

「レースは出るんだろ?」
「そうですね。勝ち目はなくても、エントリーはしちゃってるんで。経験になるかなって」

 元気はないが、前向きなところは残っている。やはり、太陽の下のヒマワリのような女の子だと思ってしまう。

『何とかしてあげたいな。オレのせいなんだから』

 瞬は陽菜のデータを素早く計算した。最近わかってきた性格も含めて、最善策を素早く構築する瞬だ。

 いちばん大事なのはモチベーションだろうと結論する。

『それなら、オレには何とかできる可能性がある』

 陽菜の中にある信頼と、最近、急速に膨らんできた淡い恋心を利用するやり方だ。悪辣な手段な気がして胸はチクリと痛んだが、何もしないよりはマシだと思った。

 作り出すのは柔和な笑顔。優しい先輩の表情だ。

「陽菜ちゃんなら勝てると思うよ」
「え?」
「少なくとも決勝グループには残れる可能性が高いと思う」
「ホントですか?」

 九分、一分で信じてない顔だ。が慰めで言ってくれてるのだろうとしか思ってない。

 瞬を信じてくれる、そして、旬のために泣いてくれた優しい子だ。

 何とかしてあげたかった。
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