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第33話 暗闇に蠢くもの 3
しおりを挟む瞬は薄い笑顔を浮かべながら、言葉を続けた。
「3月、彼女の誕生日だったんだよ。あの日はさすがに、声を掛けたんだ。そうしたら、練習の後は『家族がお祝いしてくれるの』と言っていた。だから、まっすぐ帰ったはずさ」
あの日、瞬は意地を張ったのだ。
せめて「本当の彼氏ではないけど、カタチだけでも渡さないと」とプレゼントとカードを持っていった。
けれども、家に行ったのが悪かった。その日、家族とお祝いしているはずの天音の部屋に灯りはついていなかった。代わりに健の部屋は灯りがついていて、まだ寝るには早い時間なのに、プツンと灯りが消えたのが事実。
「その後、ヘンな声でも聞こえるまで見ていた方が良かったのかな?」
陽菜が答えられないのを承知で、真顔で尋ねた瞬はさらに続ける。
「悔しいからさ、メッセージをつけてプレゼントをベランダに投げ込んだりしてね」
クスクスと笑って見せたのは瞬の意地だ。
「そしたら、翌日、部室のゴミ箱に捨てられていたんだよ。開けられた跡もなく。一応、他のゴミの下になってたけど、さ。ゴミ捨てをしてるのが誰なのか知らなかったんだろうなぁ。すごいよね、こうなってくると」
陽菜の顔が見られなかった。言葉が止まらない。
「それにさ、ヤッてたのは部屋だけじゃなかったんだ」
瞬が通う講習会は日曜日の夜、川向こうの専門学校で行われる。帰り道に河川敷の横を通るのが近道だ。人目に付きにくいホテルの裏を横切ることになる。
あれは2月の下旬。日曜日の夜のこと。
本当に、それは偶然だった。
天音がホテルの裏口から身を隠すようにして出てくるところを見てしまった。
「さすがに別々に出てきたみたいでさ、二階堂《ヤツ》の方は見てないんだけど、忘れられないなぁ、松永さんの疲れた顔はね」
疲れ果てた顔。ついさっきまで激しくヤッていたに違いない気怠そうな姿。けれども、そこには身勝手な苦悩をにじませているようにも見えていた。
瞬の頭に、今も焼きついている顔だった。
・・・・・・・・・・・・・・・
いつも応援、ありがとうございます。
話がどんどんと、辛くなっていって
申し訳ございません。
しかし、明日公開される
第35話 「綻(ほころ)び」
第36話 「もう一つの綻び」
とセットとなっております。
ここから、かなりトーンが変わります。
ご了承ください。
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