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第31話 花言葉は「初恋」 3
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瞬の顔に浮かんでいるのは微苦笑である。
「あぁ。まあ、去年くらいまでかな? あ、そうだ。お正月くらいまでだったよ。同じ八時までって言うのでも前はもう少し違ってた。それなりに返事があった。だけど1月の途中からかな。どうやら、お試しセールは終わったらしい。陸上以外の話はしなくなったし、大半は寝る前に一気に既読になるだけになったかなぁ」
ムダな努力だってしたのだ。それを陽菜に言ってどうなるとは思うのだが、口が勝手に喋ってしまう。
「オレもね、いろいろとやったよ。喜んでもらえそうなことは。全部ムダだった。ハハハ、全く意味がなかった。彼女はオレとのメッセなんて必要ないし求めてもいなかったんだなぁ」
チラッと様子をうかがうと陽菜が泣きそうな目をしている。胸が痛む。
「ほら、通販とかでよくあるじゃん? 最初だけサービス価格で、そのあとは定価販売になるやつ。あんな感じかな」
ぷっと乾いた笑いを吐き捨ててみせる。我ながら言い得てして妙。自分のセンスに感動してしまう。消費者庁にクレームものの恋愛かよと、一人ツッコミをしている瞬だ。
『おっと、何とも言えない顔になっちゃってるぞ。泣きそうだな。陽菜ちゃん、やめてくれよ。オレのコトなんて哀れまなくて良いんだからさ』
花壇の方に顔を向けた。
「だから、今さらカレカノだろうと言われてもね。正直、実感もないし、事実でもないと思うよ」
足下の小さな石を拾ってポイッと捨てた。オレも、この程度の存在なんだよね。道ばたで拾った小石。投げ捨てれば、次の瞬間、他の石と見分けがつかなくなる。その程度。
きっと、ね、オレは路傍の石さ。
「告白されてOKした。それ以来、別れてない。少なくとも、別れるとは言われてない。だから、今はまだ彼氏なのかもしれないね。だからオレは彼氏じゃないとは言わないよ。けれども、松永さんの本当の彼氏がオレではないってことも本当なんだよ」
「でも、それって浮気じゃないですか!」
さっきまでの泣きそうな顔とは思えないほどに、怒りのパワーがある声だ。
「あのさ? 浮気って言うのは、一度でも相手のことを好きになって、その後、別の人のことを好きになる場合を言うんじゃないかな?」
「せんぱい、それって、どういう意味で…… あっ」
言っている途中で、陽菜も意味がわかったのだろう。息を引き詰めて言葉を閉ざした。
「だから、そういう意味さ。付き合ってくれと言われたのは事実。OKしちゃったのも事実。カレカノだと松永さんが言葉にしていたのも事実。サービス期間があったのも事実だよ。でも……」
目の前の花壇にはライラックが咲いていた。
足下の、ほんの小さな石を拾って紫の花に放ってから「彼女が二階堂を好きだというのも事実だ」と言った瞬間、笑って見せたのはせめてもの意地だった。
柄にもなく、瞬はライラックの花言葉を思いだしていた。
『紫のライラックの花言葉って「初恋」だったっけ』
瞬の心の奥底で「それが誰の初恋なのかが問題だよね」と自分を嘲笑う声が響いた気がした。
「あぁ。まあ、去年くらいまでかな? あ、そうだ。お正月くらいまでだったよ。同じ八時までって言うのでも前はもう少し違ってた。それなりに返事があった。だけど1月の途中からかな。どうやら、お試しセールは終わったらしい。陸上以外の話はしなくなったし、大半は寝る前に一気に既読になるだけになったかなぁ」
ムダな努力だってしたのだ。それを陽菜に言ってどうなるとは思うのだが、口が勝手に喋ってしまう。
「オレもね、いろいろとやったよ。喜んでもらえそうなことは。全部ムダだった。ハハハ、全く意味がなかった。彼女はオレとのメッセなんて必要ないし求めてもいなかったんだなぁ」
チラッと様子をうかがうと陽菜が泣きそうな目をしている。胸が痛む。
「ほら、通販とかでよくあるじゃん? 最初だけサービス価格で、そのあとは定価販売になるやつ。あんな感じかな」
ぷっと乾いた笑いを吐き捨ててみせる。我ながら言い得てして妙。自分のセンスに感動してしまう。消費者庁にクレームものの恋愛かよと、一人ツッコミをしている瞬だ。
『おっと、何とも言えない顔になっちゃってるぞ。泣きそうだな。陽菜ちゃん、やめてくれよ。オレのコトなんて哀れまなくて良いんだからさ』
花壇の方に顔を向けた。
「だから、今さらカレカノだろうと言われてもね。正直、実感もないし、事実でもないと思うよ」
足下の小さな石を拾ってポイッと捨てた。オレも、この程度の存在なんだよね。道ばたで拾った小石。投げ捨てれば、次の瞬間、他の石と見分けがつかなくなる。その程度。
きっと、ね、オレは路傍の石さ。
「告白されてOKした。それ以来、別れてない。少なくとも、別れるとは言われてない。だから、今はまだ彼氏なのかもしれないね。だからオレは彼氏じゃないとは言わないよ。けれども、松永さんの本当の彼氏がオレではないってことも本当なんだよ」
「でも、それって浮気じゃないですか!」
さっきまでの泣きそうな顔とは思えないほどに、怒りのパワーがある声だ。
「あのさ? 浮気って言うのは、一度でも相手のことを好きになって、その後、別の人のことを好きになる場合を言うんじゃないかな?」
「せんぱい、それって、どういう意味で…… あっ」
言っている途中で、陽菜も意味がわかったのだろう。息を引き詰めて言葉を閉ざした。
「だから、そういう意味さ。付き合ってくれと言われたのは事実。OKしちゃったのも事実。カレカノだと松永さんが言葉にしていたのも事実。サービス期間があったのも事実だよ。でも……」
目の前の花壇にはライラックが咲いていた。
足下の、ほんの小さな石を拾って紫の花に放ってから「彼女が二階堂を好きだというのも事実だ」と言った瞬間、笑って見せたのはせめてもの意地だった。
柄にもなく、瞬はライラックの花言葉を思いだしていた。
『紫のライラックの花言葉って「初恋」だったっけ』
瞬の心の奥底で「それが誰の初恋なのかが問題だよね」と自分を嘲笑う声が響いた気がした。
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