辛かったけど真の彼女ができました

新川 さとし

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第31話 花言葉は「初恋」 2

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 瞬の口調は、まるで老人が若い頃の話でもするような、しみじみとしたモノだった。

「告白されて付き合い始めた。有頂天になったよ。正直言って嬉しかった。それから何回かデートをしたんだ。学校の帰りに駅前のカフェで珈琲を飲んだっけ。あ、彼女はいつもクリームたっぷりのコールドドリンクでさ。あれはカロリーが高いからよせって言ったんだけど、それは受け入れてくれなかったなぁ」

 痒くもないのにポリポリとこめかみを掻くフリをしながら言葉を続ける。

 陽菜の顔が見られないままだ。

「彼女が本気でインターハイを目指したいっていうから喜んで協力を申し出たんだ。結果はもうすぐわかる。で、今に至るってわけだ」

 そこまで独白のように、ひたすら前を見たまま喋り終わって、ようやく顔を見られた。

 そこにあるのは唖然とした表情だった。

「あの…… 先輩、それじゃわからないです」

 陽菜からしたら、ドロドロの愛憎劇が語られると思ったはずだ。

『我ながら木で鼻をくくったような話だよな』

 瞬は苦笑してしまう。けれども「事実」しか話してないのが自分でも悲しい。

「でも、たぶん、それが松永さんとオレとの全てなんだよ」

 松永「さん」と呼んだところで陽奈が息を呑んだ。伝わったらしい。

「それ以上でもそれ以下でもない。あ、今でも家に帰ってからメッセのやりとりをすることがある。内容は練習メニューとか、大会のことだね」
「あの、先輩?」

 瞬が何を言おうとしているか陽菜に見当がつかなかった。

「やりとりは8時までの約束なんだ。それも今では陸上関係のことだけだし、たまに、って感じかな」
「え? メッセがですか?」

 陽菜は鼻白む。だって、ありえない。
 
 カレカノだと言っていたではないか

 陽菜の感覚ならば、いや、普通の感覚なら「毎日、一晩中やり取りして、それでも足りなくてベッドに入ってもお話しようとする」と思うだろう。

 陽菜が驚愕している表情を見定めてから、瞬は、ちっとも熱を入れない口調で話を続けた。

 
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