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第29話 陽菜の怒り 3
しおりを挟むもしも、陽菜の匂いを、経験のある大人が解説するならば「保護欲をそそる処女のニオイ」とでも教えたかもしれない。
実際、陽菜は、お日様の匂いと女の子の匂いとが半々の、実に爽やかな甘さを感じるのだ。
しかし瞬の理解は理屈抜きの本能だ。
陽菜の笑顔は明るい。
何となく太陽の下で遊ぶ仔犬を連想させる雰囲気に、その香りが似合っていると思っていた。もちろん、そんな感想を誰かに漏らすわけがないのだが。
ともかくも普段なら人懐こい笑顔を向けてくるはずの彼女が険しい。
「どうしたの?」
黙って入り口に立っているだけ。顔が強ばっているのは怒りを押し殺そうとしているからだろう。
質問をしておきながら、瞬は事態を既に理解してしまった。
『さっきのを見ちまったか』
陽菜の足音は階段とは逆側から来た。そっちには小さなトイレが一箇所あるだけ。部室のドアには窓があり、そこをポスターで塞いではある。けれども、いつからか一部が剥がれていたせいで、中が丸見えなのだ。
大方、そこから中の二人を見て立ちすくみ、出てくるところを避けてトイレに隠れたってところだろう。
何を見ていたのかは予想がつく。そして、正義感の強い、真面目な後輩が浮気のシーンを見ればどんな反応をするか。
黙っていられるわけがない。
『騒ぎになっちまうよなぁ』
瞬なりの「ゴール間近」で厄介ごとの気配。内心やれやれと思っていながら知らぬフリで笑顔を見せて、軽さを意識して話しかける。
「どうしたの? 何かある?」
陽菜はパッチリした瞳を歪め、小さな肩をワナワナと震わせている。ウルフカットの黒髪が揺れているのを見ると、一目で彼女の抱える怒りが見て取れるのだ。
『あ~ ヤバいな。かなり来てるね~』
普段は気が付かないフリをしているだけで、瞬は決して人の気持ちに鈍感ではない。それが男女のモノであるかどうかは別にして、陽菜がかねてから自分に好意を持っている唯一の部員であることくらいはわかっていた。
だからこそ、さっきの部室での浮気シーンを見られていたとしたらヤバいのだ。
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