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第25話 冬来たりなば 3
しおりを挟むそして二月に入る直前のこと。
瞬の誕生日は近い。しかし、一言も触れてこない彼女に、寂しさを感じない男なんていないだろう。
寂しさとか不満はさておいて、画像解析でフォームチェックをする瞬だ。
『これでも、バランスは以前よりも全然良くなったんだけどなぁ。トレーニングの効果が期待よりも出て来ないんだよね』
すぐに過去分のデータと突き合わせる。トレーニングに対する効果が予定よりも悪い。
付き合い始めてから合宿の頃までは順調すぎるほどに順調だった。それなのに、調子が明らかに落ちていた。
『彼氏とデートすらしないで、トレーニングしてるはずなんだけどね』
いつの間にか、天音の部屋に行くこともなくなった。
皮肉なことに、天音との時間が無くなった分だけ余裕が出来た。その分、後輩の陽菜からの頼みを気軽に聞けるようになっていた。部活中は健との約束がある。直接のアドバイスはできない。いつかIDを交換して「密かなコーチング」をするようになっていた。
コーチングのお礼にと、こっそり手作りクッキーをもらったりしている。淡い恋心を痛みとともに受け止める程度には瞬も心が出来ていた。
陽菜は、ヒマワリの花のような明るさを孕んで、瞬を見つめてくる。
「ありがとうございます。こんなに伸びるとは思いませんでした!」
「あとちょっとだね」
あくまでも練習でだが、去年の都大会通過タイムまで、射程距離に届いた。このまま伸びれば今年はインターハイ出場が現実の視野に入ってくるだろう。
伸び悩む天音にはどこかしら陰があった。対照的に、走る姿にも笑顔も陽菜には陰が全くない。
掲示板に貼りだした結果につぼみがほころぶような笑顔を見せた陽菜は、ツツツっと寄ってきて「ありがとうございました」と、またしても笑顔が向けられた。
その視線は純粋な好意であることが心地良い。
『こんなに素直な笑顔を見るのは久し振りだな』
それは瞬が陸上部で久し振りに見た、心からの笑顔だった。
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