78 / 141
第25話 冬来たりなば 2
しおりを挟む
一人、天音のことを考え続けた。
『う~ん。やっぱり合宿以来だよなぁ』
合宿最終日は、明らかに体調がおかしかった。しかも瞬の目線を避けるかの表情を何度も見せていたのは明らかだった。
あんな態度を取る天音は初めてだ。「何かやましいことがあったに決まっている」と思ったが、それを問い質すのは可哀想な気がした。
『考えるなよ? 考えたらダメだからな』
本当の答えはわかっているのに、ワザと気付かないフリを自分にしている。なにしろ、合宿中の各選手の調子は克明にメモしているのだから、気付かない方がおかしい。
あの日、明らかに調子が悪かったのは、もう一人だけいた。
合宿最終日の午前練。
常に書いている「個人カルテ」を、改めて見直すまでもない。
合宿の最終日、二階堂健のページには「寝不足?」とハッキリと書き込んであった。
『ひょっとして、こういう時は天音に直接聞くべきなのかなぁ』
天音の可愛いけれど、どこかポンコツな顔を浮かべてしまう。そこに「浮気してるだろ」と詰問している自分を思い浮かべると、顔を振ってしまう。
『そんな醜いことは無理だよ』
健との関係を今さら取り沙汰しても仕方がないとも思う。
「結婚を約束したわけじゃないんだし。もしも他の男に天音の目が行ったなら、もっと大きな愛で包んで取り返すさ。それでダメなら仕方ない。裏切りを詰っても心が戻ってくるわけないんだし」
そんなことを秋口から考えていた瞬だ。そして、冬を越えようとしている今、もう、結論は出たカタチだ。
永遠に「走る」能力を喪った、あの事故の日からだろうか。それとも亡くなった子どもの兄から「現に、お前は死なかっただろ! お前さえいなければ渉は生きてたんだ!」と迫られたときからだろうか。
瞬の考え方は常に一歩引いたところにある。
良かれと思って、とっさに動いた結果、自分にも他人にも最悪の現実となった。だから、成り行きに対して抗《あらが》わない方が良いのだと、常に考えてしまうのだ。
「二階堂を選ぶのなら、それは天音の自由だろ? オレが愛しても、あっちには愛し返す義務なんてないんだからさ」
一つため息をついた後、机の上に置いたノートに点々と水滴が落ちているのに気が付いた。
「あっ、オレ、泣いてるんだ」
気が付いた次の瞬間「自分を哀れむのだけは辞めよう、もっと惨《みじ》めになるだけだぞ」と戒《いまし》める。
涙をふけ、今できることをやれ、楽しいことを考えろ。
自分に言い聞かせるように声を出した後、ふっと「楽しいこと、か……」と天井を見上げた。
何が楽しいのか、わからなくなっていた。
『う~ん。やっぱり合宿以来だよなぁ』
合宿最終日は、明らかに体調がおかしかった。しかも瞬の目線を避けるかの表情を何度も見せていたのは明らかだった。
あんな態度を取る天音は初めてだ。「何かやましいことがあったに決まっている」と思ったが、それを問い質すのは可哀想な気がした。
『考えるなよ? 考えたらダメだからな』
本当の答えはわかっているのに、ワザと気付かないフリを自分にしている。なにしろ、合宿中の各選手の調子は克明にメモしているのだから、気付かない方がおかしい。
あの日、明らかに調子が悪かったのは、もう一人だけいた。
合宿最終日の午前練。
常に書いている「個人カルテ」を、改めて見直すまでもない。
合宿の最終日、二階堂健のページには「寝不足?」とハッキリと書き込んであった。
『ひょっとして、こういう時は天音に直接聞くべきなのかなぁ』
天音の可愛いけれど、どこかポンコツな顔を浮かべてしまう。そこに「浮気してるだろ」と詰問している自分を思い浮かべると、顔を振ってしまう。
『そんな醜いことは無理だよ』
健との関係を今さら取り沙汰しても仕方がないとも思う。
「結婚を約束したわけじゃないんだし。もしも他の男に天音の目が行ったなら、もっと大きな愛で包んで取り返すさ。それでダメなら仕方ない。裏切りを詰っても心が戻ってくるわけないんだし」
そんなことを秋口から考えていた瞬だ。そして、冬を越えようとしている今、もう、結論は出たカタチだ。
永遠に「走る」能力を喪った、あの事故の日からだろうか。それとも亡くなった子どもの兄から「現に、お前は死なかっただろ! お前さえいなければ渉は生きてたんだ!」と迫られたときからだろうか。
瞬の考え方は常に一歩引いたところにある。
良かれと思って、とっさに動いた結果、自分にも他人にも最悪の現実となった。だから、成り行きに対して抗《あらが》わない方が良いのだと、常に考えてしまうのだ。
「二階堂を選ぶのなら、それは天音の自由だろ? オレが愛しても、あっちには愛し返す義務なんてないんだからさ」
一つため息をついた後、机の上に置いたノートに点々と水滴が落ちているのに気が付いた。
「あっ、オレ、泣いてるんだ」
気が付いた次の瞬間「自分を哀れむのだけは辞めよう、もっと惨《みじ》めになるだけだぞ」と戒《いまし》める。
涙をふけ、今できることをやれ、楽しいことを考えろ。
自分に言い聞かせるように声を出した後、ふっと「楽しいこと、か……」と天井を見上げた。
何が楽しいのか、わからなくなっていた。
1
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる