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第18話 闇の中 〜天音〜 1
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おそらく、瞬と付き合う前だったら、もっともっとあっさりと、天音は「闇」に飲まれていたはずだった。
もしも、この場で身体を求められていても、あっさりと応じたはずだ。それがたとえ、その場の癒やしだけだと分かっていても、あるいは、健を恋人としてみられなかったとしても「こんな身体で良いのなら」と投げ与えるように諦めていたはずだった。
それが、天音の哀しいほどに低い、自尊感情なのである。
しかし、今は瞬がいた。
愛する人がいる。
愛する人がいるのに、他の人に身体を許してはいけない。その程度には常識もある。
だから、健に求められたとしても「瞬に悪いから」が基準となって、今の天音は拒否できる。
しかし、一方で健の心を傷付けるのが怖くて突き放すことができなかった。
『こんな私なんだもん。今さらだよ。このくらい我慢すれば良いだけかもしれないのに、健を傷付けるのは可哀想』
天音の心の中で様々なモノがせめぎ合っている。
さっきから、背中を撫でてくる手がヒップに届き始めているのは気が付いていた。
健の手が自分の感触を楽しむ動きに変わり始めている。
『でも、私の身体を楽しんでいいのは、やっぱり瞬だけだよ』
とうとう勇気を持って言葉に出した。
「健? 気持ちは嬉しいけど、わかってるでしょ。私は瞬の彼女だよ」
「瞬と付き合ったままでも良いから」
「それじゃ、彼を裏切ることになっちゃうもん。そんなことできないよ」
根気強く言い聞かせていこうとした。けっして突き放さない。「健を孤独に追い込んではダメ」と言う声が絶えず頭で響いているせいだ。ここで自分が見放したら、健は闇に飲み込まれてしまうだろう。
……自分みたいに。
だから、絶対に見捨てられない。なんとかして心を動かさなくちゃいけないんだ。
天音の心は張りつめた。
Tシャツ一枚越しに、背中を何度も何度も撫で下ろし、ヒップを揉むようにし始めた手の動きを咎めるのはやめておくことにした。そんなことで余計な罪の意識を持って欲しくなかったし、実際、生理的な拒否感はないのだ。
手を持ち上げる瞬間、手のひらがTシャツに潜りこむことがあるのには当惑した。
もちろん、素肌であっても、健の手は遠慮なく撫で続けている。けれども、不思議なほどに嫌悪感が湧かない。「犯されるかも」という危機感もない。
瞬、ゴメン
そんなお詫びの気持ちがあるだけだ。
ただ、心の中の問題とは別に、女性としての「感覚」が立ち上る気配に困り始めた。それは、長く、育てられてしまった豊かな、女性としての感覚と、闇の中で以前の記憶が天音を支配し始めているせいだ。
ゾワゾワし始めた感覚を受け入れつつ、彼氏への申し訳なさを感じていた。
しかし、今、それを言えば、逆に誤解される可能性を考えてしまう。
今は幼なじみが向けてくれた好意を断る話をしているのだから、つまらないことを言うのはやめようと天音は思った。
手が止まって、キュッと抱きしめてきた。
「じゃあ、オレのコトは嫌いなのか?」
「嫌いとか好きとかじゃなくて、そんなことは考えられないって言ってるの。人としてなら健のことは好きだよ?」
「じゃあ、今、考えてよ。嫌いじゃないなら、オレの気持ちも受け入れてほしいんだ。大竹を裏切ることにはならいからさ」
そんなバカな話があるわけがない。彼氏がいるのに、他の男からの告白を受け入れたらそれは裏切りに決まっている。
「そんな都合のいい話、あるわけないでしょ」
健の言い分を認めるわけにはいかないのは当然だ。
しかし「違うんだ」とまたしてもギュッと抱きしめてきた。
もしも、この場で身体を求められていても、あっさりと応じたはずだ。それがたとえ、その場の癒やしだけだと分かっていても、あるいは、健を恋人としてみられなかったとしても「こんな身体で良いのなら」と投げ与えるように諦めていたはずだった。
それが、天音の哀しいほどに低い、自尊感情なのである。
しかし、今は瞬がいた。
愛する人がいる。
愛する人がいるのに、他の人に身体を許してはいけない。その程度には常識もある。
だから、健に求められたとしても「瞬に悪いから」が基準となって、今の天音は拒否できる。
しかし、一方で健の心を傷付けるのが怖くて突き放すことができなかった。
『こんな私なんだもん。今さらだよ。このくらい我慢すれば良いだけかもしれないのに、健を傷付けるのは可哀想』
天音の心の中で様々なモノがせめぎ合っている。
さっきから、背中を撫でてくる手がヒップに届き始めているのは気が付いていた。
健の手が自分の感触を楽しむ動きに変わり始めている。
『でも、私の身体を楽しんでいいのは、やっぱり瞬だけだよ』
とうとう勇気を持って言葉に出した。
「健? 気持ちは嬉しいけど、わかってるでしょ。私は瞬の彼女だよ」
「瞬と付き合ったままでも良いから」
「それじゃ、彼を裏切ることになっちゃうもん。そんなことできないよ」
根気強く言い聞かせていこうとした。けっして突き放さない。「健を孤独に追い込んではダメ」と言う声が絶えず頭で響いているせいだ。ここで自分が見放したら、健は闇に飲み込まれてしまうだろう。
……自分みたいに。
だから、絶対に見捨てられない。なんとかして心を動かさなくちゃいけないんだ。
天音の心は張りつめた。
Tシャツ一枚越しに、背中を何度も何度も撫で下ろし、ヒップを揉むようにし始めた手の動きを咎めるのはやめておくことにした。そんなことで余計な罪の意識を持って欲しくなかったし、実際、生理的な拒否感はないのだ。
手を持ち上げる瞬間、手のひらがTシャツに潜りこむことがあるのには当惑した。
もちろん、素肌であっても、健の手は遠慮なく撫で続けている。けれども、不思議なほどに嫌悪感が湧かない。「犯されるかも」という危機感もない。
瞬、ゴメン
そんなお詫びの気持ちがあるだけだ。
ただ、心の中の問題とは別に、女性としての「感覚」が立ち上る気配に困り始めた。それは、長く、育てられてしまった豊かな、女性としての感覚と、闇の中で以前の記憶が天音を支配し始めているせいだ。
ゾワゾワし始めた感覚を受け入れつつ、彼氏への申し訳なさを感じていた。
しかし、今、それを言えば、逆に誤解される可能性を考えてしまう。
今は幼なじみが向けてくれた好意を断る話をしているのだから、つまらないことを言うのはやめようと天音は思った。
手が止まって、キュッと抱きしめてきた。
「じゃあ、オレのコトは嫌いなのか?」
「嫌いとか好きとかじゃなくて、そんなことは考えられないって言ってるの。人としてなら健のことは好きだよ?」
「じゃあ、今、考えてよ。嫌いじゃないなら、オレの気持ちも受け入れてほしいんだ。大竹を裏切ることにはならいからさ」
そんなバカな話があるわけがない。彼氏がいるのに、他の男からの告白を受け入れたらそれは裏切りに決まっている。
「そんな都合のいい話、あるわけないでしょ」
健の言い分を認めるわけにはいかないのは当然だ。
しかし「違うんだ」とまたしてもギュッと抱きしめてきた。
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