辛かったけど真の彼女ができました

新川 さとし

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第16話 世界が全て敵になっても 3

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 苦しい。

 息ができない。

 しかし、そんなことよりも大事なのは、子どもが死んだこと。瞬が動いたからこそ死んだのか?

「オレが助けようとしたのは何だったんだよ!」

 助けて、助けて、助けて

 誰か、誰か、誰か

 助けてよ! ボクを助けて! ボクは悪いことをしてないのに!

「……しゅん、しゅん、瞬?」

 ハッ

「うなされてたよ? 怖い夢?」
「あ、うん。怖かった」

 あの日、世界の全てが自分の敵になった気がした。それから文字通り「敵」にばかり囲まれて生きてきた気がする。

 ペロン

「え?」
「ふふふ、瞬の汗も、塩っぱいね」

 額の汗をペロペロと舐め取っている。

「おい。やめとけよ」
「ふふふ。照れちゃって。瞬だって、さっき、もっとも~っと恥ずかしい所、舐めてくれたクセにぃ~」

 楽しそうな顔だ。

「あれだけ言っても辞めてくれなかったんだから、今度は天音の番だよ?」

 ふふふっと、見せる笑顔が美しかった。

「大好きだよ、瞬。私がいるからね」

 天音は「怖い夢」の中身を聞いてこなかった。ただ、愛しい人を慈しむだけ。

 救われた気がした。

『こういうところが、天音ってスゴいんだよなぁ』

 屈折した瞬の内面を無理に探ろうとしてこないのだ。今だって、傷ついた子猫を慈しむ親猫のように額を舐めてきた。痛いところに包帯を当てるように、だ。

 天音は瞬の心に包帯を巻こうとしてくれる。
 
 さっきまで瞬の手で揉まれていた柔らかな部分が、キュッと二の腕に押しつけられている。これもまた無言の包帯のつもりなんだろう。

 怖がっている瞬を「そのまま受け止めるよ」と言っているみたいに感じた。

『この子なら、世界が全部敵になっても、最後まで味方でいてくれるんだろうな』

 理由などない。ただ、そう思えた。それが正しいかどうかなんてわからない。恋する者の思い込みかもしれない。

「ね? 疲れた?」

 いそいそと、瞬を握ってきた。あれだけ悪い夢だったのに、束の間の睡眠で、そこは元気を取り戻していた。

「あ、いや。天音こそ疲れたんじゃないの? さんざん練習した後の、あれ、だし」

 自分でもどれほど夢中になっていたのか覚えてない。まだ明るいが、夕方にはなっている。その間、だった。夢中になって天音に甘い声を上げさせ続けていた。

 愛する人の体内深くに、何度注ぎ込んだかも覚えていない。

 あまりにもガツガツと恋人をむさぼるセックスをしてしまった。自分でもあきれてしまう。

「ふふふ。瞬ってば。すっごく上手になっちゃったんだもん。もう、夢中になっちゃって恥ずかしいよ。でもね、アマネさんを甘く見ないで? まだまだ、バッチコーイだからね?」

 トントンと胸を叩く顔には、愛する人を全て受け入れたいと書いてあったのだ。
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