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第15話 今の君が 3
しおりを挟む突然、うっうううといううなり声を上げたかと思うと天音が「うわあ~ん!」と泣き出したのだ。
「どうした、どうした、どうした?」
経験値の少ない瞬には、それが「無条件の愛に甘えられたうれし泣き」だと言うことに気付けるはずがない。狼狽えるという言葉では足りないほどに、ビクついた。しかし、天音の腕は、ヒシと抱きついてきて離そうとしない。
だからこそ、正解を選べた。
すなわち、ジッと恋人を抱きしめていたのだ。
しばらく泣いた後「ありがとう」という言葉が聞こえてほっとした。
これで「とりあえず」という言葉が付いているが、とにかく、解決したことだけは確信できる。傷つきやすい少女の心は、愛する人間の一言で傷つきもするが、それで回復もできるのが世界のオヤクソクなのである。
しばらく、嗚咽を漏らしていた天音が、やがてポツンと言った。
「でもね、瞬」
頬に顔を押し当てたまま肩を振るわせている天音だ。
「なんだよ?」
「違ってたよ」
声にイタズラな響きが籠もっている。
「違ってる?」
「うん。あの時はね、過去のことだろ? 今の君が好きだからって言ってくれたんだよ~」
「あ、ば、ばかっ、そのくらい!」
「い~けないんだ、いけないんだ。瞬の方が覚えてなかった。すごく嬉しい言葉なのにぃ」
一度瞬の肩に顔をこすりつけた後「化粧、落ちちゃったじゃん!」と小さく独り言が聞こえてきた。
バンと勢いをつけて瞬の胸を突き飛ばして「あっち行ってて! 嫌い! もう~ こんなに泣かせて!」と全身から甘えを発しながらの「出てけ!」のセリフ。
どうやら、元気になったらしい。
「わかった、わかったって!」
泣いた顔を見られたくないだろうと言うことくらいは瞬だってわかる。慌ててドアから出ていく瞬に向かって、天音は唇を尖らせた。
「もう~ こんなに泣かせたんだから、帰りはウチに寄ってよね! 今、ちょうど良い時期だし。責任をとってもらうんだからぁ! 久し振りに最後まで中だからね!」
どうやらご褒美をくれるつもりらしい。
カレカノ特有のふざけっこ。きっと帰り道の天音は、いつもにも増して甘い顔をしてくっついてくるんだろうなと瞬は嬉しくなっている。
愛の戯れのようなイチャイチャを、他人からはどう見えたのかも知らない瞬と天音であった。
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