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第9話  憂鬱 ~天音~ 3

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「おまえなんて、汚れてるんだ。こんな汚れてるおまえに、良いことなんて、この先あるわけがない!」

 お母さんが鬼のような顔になって、言葉の刃を突きつけてくる。

 ううん、その手には、本当に包丁が握られてた。

 もっともっとひどいセリフまでもが頭の中でいつもリフレインする記憶。

 もう、今になってみると、どこからどこまでが本当にいわれた言葉なのか、思い出せないほどだ。

 いつだって、私の心には不安の黒い沼があった。

 何か楽しいことがある度に、よどみの底にいる怪物が「こんなに汚れたオンナに幸せなんてくるわけがないだろう」ってわめいてる。

 でも、瞬と居たら、私は幸せだよ? ただ、一緒にいられるだけで良いの。でも、健の悪意が瞬に向かっているのを知っているのに言葉にできない。だって、それを言葉にしちゃったら、健を見捨てることになってしまうから。

 幼いときから一緒に過ごした、そして、渉君の思い出を共有している私が、健を見捨てるのは人としてダメなこと。

 どうしたらいいの? 

 瞬との幸せと健を孤独にしないこと、両立させるには、どうしたらいいんだろう?

 わからない。

 ああ! 私が二人いればいいのに。

 そんな風に、悲しみと戸惑いがあるくせに、私の心は、イケないことだけど、甘やかに疼いている。

 瞬が私を求めてくれたのは嬉しかった。それは事実。私が初めてじゃないって知っても、ちっとも軽蔑の冷たい目で見なかったのが嬉しかった。

 何度も求めてくれて、私の中に瞬を注ぎ込んでくれた。生まれて初めて、自分からしてあげたくなって、お口でしたら、あっと言う間で……

 気持ち良くなってくれたんだね。

 すごく嬉しかった。

 私を求めてくれる、という現実に勇気をもらえたんだもの。

 ありがとう、瞬。

 は、まだ全部を打ち明けられないけど、いつか話した方がイイよね? その時こそ捨てられちゃうかもしれないけど。でも、瞬は「過去のことだろ?」って言ってくれた。

 ホントのことを話しても、きっと捨てないでくれるよね?

 とにかく、私に出来ることははっきりしてる。「今」の瞬を大切にすること。そして、あの人との記憶を二度とよみがえらせないということ。

 身体に刻まれてしまった感覚は消えないけど、もう、会わなければ良いよね? うん。それなら大丈夫。会いさえしなければ断ち切れる。現に、今は会いたいとも思ってない。心から、そう思える。

 心配していた身体の感覚だって、瞬とした時の方が、ずっとずっと素敵だった。この先、もっともっと二人で慣れていけば、きっと、身体だけの感覚だって「最高」を更新してくれるはず。

 とにかく、もう会わない人のことを考えても仕方ないよ。

 夢の中に落ちかけた意識の端っこで「もしも会ってしまったら?」という意地悪な質問から目をそむけた私がいた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

天音の「初めて」は誰とだったのか。
もうお分かりいただけたかと思います
健では無さそうです。
さて「闇」が深くなって参りました。

ところで……

クレクレをしてしまってすみません
小説の下側にある
ここまでお読みいただいた方へのお願いです

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