辛かったけど真の彼女ができました

新川 さとし

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第8話 苦味 2【R18】

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 そして、とっさに何かを回避したかったのだろうか。

 瞬の頭に浮かんだのは「中では初めて」という言葉とは似て異なる別のことだった。

 それはよく言う破瓜のこと。みんながみんな出血するわけではないのも知っているが出血した感じはない。「初めての時、女の子は痛がる」という言葉が浮かんでいる。

 天音が痛みを訴える様子はなかった。

 温かい場所に包まれた時、天音が漏らした声はあまりにも甘やかなものであった。それは決して痛みではなく、むしろ反対の方向の声であったはずだ。

 身体を硬くした恋人の様子に、天音はすぐに気付いた。

「あ? 気にしてる?」

 天音の声がいくぶん緊張していた。

 言葉のトーンで、瞬の頭に浮かんだ「疑問」は、その瞬間されたと理解した。

「いや、そんなことはないけど」

 天音のセリフが意味するのは「経験済み」という言葉だった。

 戸惑いを見抜いたように、下から抱きついてきた天音が「嫌いになる?」と聞いてきた。

 解釈を間違えようがない。

 自分はバージンではないが、嫌いにならないか、と聞いてきているのだ。

「そんなことはない! 嫌いになったりするわけがないよ!」

 断じてない。気になるのは別のこと。

「でも、オレ、ヘタだったろ?」

 むしろ、そっちだ。天音が経験した男と比べられて、下手だと軽蔑されるのは男として辛い。

「だって瞬は初めてなんでしょ? 仕方ないよ。それにすごくステキだったよ」

 それが、恋人の優しさゆえの言葉であるのはわかる。だから優しい言葉に嬉しさを感じる反面「仕方がない」という慰めの言葉で密かに落ち込むことになる。

『天音が知っている男は、もっと上手だったんだ。だから「仕方ない」って慰めてくれてる。オレなんて、入っただけで、すぐだったし』

 何か技巧を凝らすという余裕なんてなかった。あっという間に過ぎてしまった。

 男にとって、それは恥以外の何ものでもなかった。

 しかし天音はあくまでも優しい。

「とっても素敵だったよ。また、瞬がしたくなったら、いつでもしていいからね」

 嬉しそうな笑みで「瞬とだったら私もい~っぱい、したいんたから」と誘う。

 ゴクリとツバを飲んだ後、思い切って言葉にしてみる。
 
「ひとつ、聞いて良いて良いかな?」
「うん。なんでも聞いて」

 そこまで言ったが、その後の言葉が出せない。

 聞きたい、けれども、それを聞いて良いのかどうか。

 相手はいったい誰なんだ?

 そいつは、もっと上手だったのか?

 オレには見せないくらい、気持ち良くなった顔を見せたのか?

 それは男としての素朴な競争心、独占欲の表れなのであろう。

 一つとか、二つではなくて、トコトン聞きだしてしまいたいが、一方で、そういうことを聞くことで天音を傷付けてしまうかもという葛藤は、瞬の口を重くしたのである。



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