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第6話 理由 3
しおりを挟む中学時代、練習試合の帰り道のこと。坂道を猛スピードで下りてくる自転車が車と出会い頭の事故になるところを目撃した。
とっさに自転車を制止したら、あろうことか、子どもは前ブレーキだけをかけて1回転。乗っていた子どもは頭を強く打って脳内出血で死亡した。
止めようとした瞬はトラックとぶつかって選手生命を失った。
二度と走れぬ身体になったことを知ったベッドで、助けたはずの小学生が亡くなったのを知った。
自分の怪我は、全く無意味だったのだ。
それはある意味、走れなくなったことよりも重かった。
悲劇はさらに重なる。
亡くなった小学生は健の弟だった。
兄は、可愛い弟の死が「いきなり飛び出してきた中学生のせいだ」と泣きながら怒った。
それは別の意味でショックだった。
さすがに、健の両親は瞬を責める言葉は出さなかったが、警察は「形式上、君との事故という扱いになります」と告げたのだ。
トラックに触れてもいない弟の分は、トラックの運転手から金はもちろん謝罪の言葉すらないのを警察から教えてもらった。
『自分さえ余計なことをしなければよかったのか?』
これが瞬を苦しめた。さらに悲劇の出会いがあった。若葉高校で健と同級生になったこと。
正面から「人殺し」「弟を殺した」と何度なじられたことか。
瞬の真の悲劇は「アイツの言ってることも、ある意味正しい」と思えてしまうことなのかもしれない。
だから自分のことを「キモ竹」などと呼んで、ありとあらゆる悪い噂を健がばらまいているのを知っていても、ただ甘んじているしかなかった。
健はクラスの「一軍」で陸部のキャプテン。悪い噂を放置してきたせいで、瞬の悪評はそれなりに定着している。
そんな過去と、部員の悪いイメージがある以上、陸部の連中がすんなりと受け入れる可能性は低いと思うのが常識的な判断というものだ。
そんなことをチラリと言うと、天音はカラッと笑って「だいじょーぶ」と二の腕に触れてきた。
「前から言ってるけど、瞬のことはけっこう認めてるのんだよ? きっと何にも問題なんてないよ。今日から、部活、よろしくね!」
「あぁ、問題ないなら、もちろんだけどさ」
天音の予想は半分正しくて、半分外れた。
確かに、瞬の入部に誰も異議を唱えなかった。
けれども、練習が終わるまで天音以外は誰も声をかけてこなかったのも事実であったのだ。
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