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第5話 距離 3
しおりを挟むそんな事情を天音はカケラも見せることなく、天使の笑みで屈託無く笑う。
「ヤッパ、頼りになるぅ~」
ツンツンと二の腕を指でつつく。
「これからも、天音の初カレと上手く行くように応援するから、大いに頼りにしてくれたまえ」
ニコッと笑いながら、今度は正面からガバッとハグしてきた。
あ、これは、ちょっとダメかもと天音が思う前にパッと身体が離れた。
もちろん、こういうハグも親近感の表現なのだろうと本当の意味では気にしてない。だから「彼に申し訳ない」と考えなければ良いだけだ。健の方だって少しも気にする様子を見せずに話は進んでいく。
「陸部に来てくれたら、まずは記録員の形で登録して、部の中ではマネージャーってことにしようか」
「うん。きっと彼なら大丈夫だよ。今日だって、ちょっと話しただけで、いろいろとトレーニングのことも考えてくれてたみたいだもん」
中学時代の瞬は「高校生になったら本気で全国大会優勝を狙っていた」と告白してくれた。そんな瞬が「こんなオレが言うのはおかしいと思われるかも知れないけど」と前置きして教えてくれた。
「インターハイを狙うには、ひたすら上を狙わないとダメなんだ。少しでも現状維持でいいと思った瞬間からアスリートは負けだよ」
ひたむきな目をして語っていた瞬を思い出している天音だ。
「大竹はいろいろと詳しいみたいだから期待してるよ。ただ、部員達へのアドバイスは、オレを通じてもらうようにした方がいいね」
「どうして?」
「バスケと陸上の違いがあるだろ? そのあたりを噛み砕いて部員に伝えた方が、彼の良さを理解してもらいやすいじゃん」
「あ! なるほど。違っていることがあったら、それは健が伝えないようにするわけか。それならみんなも受け入れやすくなるかも」
天音は彼の良さを受け入れてくれる人が増えるのを単純に喜んでいた。
「そうだよ。初めが肝心だからね。彼の知識を大いに生かして部の財産になってもらおうよ」
「うん。瞬も応援してくれるって約束してくれたし!」
「ああ。オレと天音、二人ともインターハイ出場、するぞ」
「うん」
ハイタッチしてからの熱いハグ。
『あ~ やっぱり健の胸は安心する』
ギュッと抱かれながら、思い浮かべるのはやはり彼のことだ。
『瞬に抱き締められたら、きっと、もっともっと幸せなんだろうな』
胸をキュンとさせながら、しばし腕の中。
そんなやりとりを「彼女」がしてるとも知らず、瞬は明日の英語の予習をコツコツと進めていたのだった。
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