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第二章 破滅の赤

家族が出来ました

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そいつは突然現れた。

何もかもビックリするくらい綺麗なアイツは父上に連れられ、俺の妹だと紹介された。

見たこともない髪や瞳の色は母上の宝石みたいに輝いていて、その顔は声を聴くまで生きた人間とは思えないほど完璧だった。

だから父上に俺たち以外の子供が?なんて疑いようもないほどソイツは父上とは似てないし、二人の間に漂う雰囲気もそんなことを考えるようなものじゃない。だからかアイツは母上や何も分からない幼い弟のみならず、屋敷に皆に受け入れられるのもあっという間で、いつしかアイツの周りは楽し気な雰囲気が漂っていた。

でも俺はそれが気に食わなかった。

いつも何考えているのか分かんない顔の父上がアイツの頭を撫でるのも、なぜか寂しそうな母上がアイツのことで笑顔を見せるのも、俺の後ろばっかりついて来ていた弟がアイツの後ろを追うようになったのも、何もかも面白くない。

でも…



明るくて素直

礼儀正しくて親しみやすい

いつも笑顔で優しい女の子



褒められて嬉しそうに笑っているその顔を見るだけでイライラする。日向で笑うその姿が…追うしかできない後姿が…どうしようもなく癇に障るんだ。


「ほらほらお兄様ぁ~今日の罰ゲームはメイド服着て紅茶入れてもらいますからねぇ?」


普段はふざけていて、そのくせに人の機微に鋭くって…


「私たち兄弟で一緒にあの二人を守るんです!」


誇らしそうにお二人の背に立つ姿が


どうしようもなく眩しい


俺の自慢


そんな妹との出会い












「初めまして。この度君の養父となったセドリック=マティスロアだよ」


お城での生活が慣れ始めたある日、ツヴァイ…いえコニーと共にやってきたお兄さんは唐突に私を抱き上げるとそう言い放ちました。


「「!?」」


抱き上げられている状況と聞き捨てならない内容に驚き、一緒に部屋に入ってきたコニーを見ても、こっちもこっちで驚いているのか私を抱えるお兄さんを驚いた様子で凝視していました。



え、これ本当にどういう状況?









――遡ること数日前――


私、ツヴァイ、リリーの三人は賭けに勝ち、無事に炎を掻き消したことで周辺で消火活動をしていた騎士団に保護されました。それはもう涙なしでは語れない幼児三人の悲しい誘拐物語と勇敢な脱出劇を熱弁した結果、私たちを攫った組織は壊滅し、現在高貴なお二人をお守りしたとか、お友達だとかで私はお城の一室で保護されています。

身元不明で明らかに外国人とわかる容姿の私ですが、能力と成り行きで出来た友人二人が権力の権化だったこともあり、ご友人と恩人という立場を確立した訳です。なのでお部屋は凄く豪華でお世話してくれるメイドさんもいます。まぁそう楽観視は出来ないので監視でしょうがね。

ですがこの対応にコニーことコーラル殿下とはいえ五歳児のもつ権力って疑問も浮かびましたが…正直凄かったです。身元不明かつ負傷(嘘)中の幼児のため部屋から出られなかった私は、ピスティスにお願いして城内の情報取集をしてもらったのですが、彼らの言葉の重みにドン引きです。

イエスマンしかいないんですか?もう少し慎重になりましょうよ。私自分でも結構怪しいと思うんですけど。まぁその五歳児が普通と這い難いほどしっかりされている故だと信じましょう。じゃないと色々怖いです。


あとついでにピスティスの情報取集力も怖いです。誰もさっきお茶を入れてくれたメイドさんの痴話喧嘩情報なんていりませんよ。何ですか騎士四人とのハーレムが崩壊した末の乱闘って。滅茶苦茶面白そうじゃないですか。

まぁそんなこんなで王子、公女の誘拐やら王都での犯罪組織摘発などなどで忙しかったのか、事件からもう二月近く経っています。あの日私たちが爆破というか炎上させた地下施設は結局港近くの倉庫の地下だったようで、心配していた民間人への影響はなかったそうです。まぁコニーはある程度予想がついていたとかぬかしてましたが。

とはいえかなり大きな騒ぎになったようで、町では恐怖よりも太陽神が降臨されたとか大騒ぎだったとかなんとか…ちょっとこの国の闇見ちゃった感があります。集団オカルトとか怖いです。だからかどうか知らないですけど、あんな大きな火柱は【太陽神の愛し子】でないとあり得ないとかで、秘密裏に捜索していたコニーとインジーの失踪も世間に知られてしまい大事件に。そうなればこの国の教会とやらが口を出してきて…とまぁ色々あったようで本当にお疲れ様です。

とまぁこんな感じで、ピスティスが集めた情報を聞いて現状把握は怠っていないものの、いつまでもこのままという訳にはいきません。

ていうか暇です。あとツヴァイとリリーには何やらやらねばならない事があるようですし、面白そうなことには私も参加したいのです。

ですが今まで事情聴取や熱弁し過ぎた故に絶対安静を求められたり、そもそもツヴァイとリリーが腰を据えて話し合う機会が中々取れなかったりなどで時間が過ぎていくばかり。周りの人に外に出たいと言っても安静の二文字で断られています。

やっぱり二人を守るため魔法を酷使した話とか、疲れ果てボロボロな演技とか過剰演出だったと思うんですよね。あの二人すっごいノリノリで可哀そうな幼児のフリしてましたし!まぁそれがなくても監視や私の様子を伺ってはいるからこそ、私という異物の安全性が図れていないうちは城内の自由を制限しているんでしょう。それと警備の見直しとか安全面の強化やらで、二人の自由が減り都合がつかなかったことも大きいですね。

そんな中漸く落ち着いて話が出来るようになり開かれたお茶会。


「ルカ。君はこれからどうしたい?」


王子様感全開のツヴァイことコーラル殿下と、お嬢様オーラ出しまくりのリーリヤことイングリッド様。素の状態を知っているこちらとしては芝居クサくて笑ってしまいそうになる状況ですが、これも慣れです。というか…


「私は行く当てもありません。ですから過去に囚われることなくあの牢でお二人と約束した誓いを守り、この力をお二人に捧げましょう」


にっこりと微笑み言い切りました。二人とも私の性格を理解してきたのか、この芝居ががった一連の流れを楽しんでいることに気付いていますね!周囲には人の目があり、簡単に本音は語れないお茶会は綺麗な薔薇に囲まれたお庭の風景の一部としてさぞかし映えていることでしょう。


「なら私も君の誓いに沿えるよう取り計らおう」


この言葉の数日後。私の前にあのお兄さんが現れたのでした。







「おいセドリック?これはどいういう状況なんだ?」


本当にどういうことか聞きたいです。ですがコニーの口調から彼は信頼している味方ということなんでしょう。そして現在私は謎の養父と名乗るお兄さんのお膝に乗せられ、頭をナデナデされています。くぅ…なんていう安定感と包容力!そして筋肉!雄ッパイ!はっ…私は今何を!?顔が崩れていたのがバレたのかコニーから呆れた目を向けられました!


「殿下からのお話を受け入れた結果、彼女に頷いて貰えるよう全力でアピールしている状況であります」

「待て待て。お前さっきまであんなに乗り気じゃなかったじゃないか。アピールするなら一端そいつを下ろせ。」

「何のことでしょう?天使が飛び立たないよう留めるのは人間の本能です。」

「天使って…何馬鹿なこと言ってんだ。お前普段の寡黙さはどこに置いてきたんだよ」


えーと何やら言い合いっているようですが、要するにコニーは私の臣下として立場を盤石なものとするためにこの国で身分を作ろうとしたようです。それでも私の年齢が幼く、両親もおらず身元不明ということもあり、私さえよければ養子として貴族の仲間入りをしてもらいたいと考えたと。今日はまずは養子云々は置いておき、コニーの護衛騎士であり信頼と胸板の厚いお兄さんことセドリックさんとの顔合わせだったそうなんですが…


「ん?」


滅茶苦茶気に入られています。雰囲気が甘いです。焦げ茶色の長く伸ばした髪を後ろで低く結び、一見冷たい印象を受けるアイスブルーに瞳が溶けまくってます。さっきからテーブルに並ぶお菓子を私の口に入れようとしては、コニーに止められているこのお兄さんは私を持ち帰る気満々です。

ですがそれも悪くないと思うほどのパパ味!

オギャりたい!バブバブ!

けしからん雄ッパイとナデナデ!

あっコニーの目が冷たい。でもこのパパ味は沼です…嵌ったら抜け出せない!

セドリックさんの御実家は侯爵家で奥さんとの間には私と同じ五歳と三歳の息子さんがいるそうです。今回の養子の件は私さえよければ進める予定だったらしく、奥さんには既に説明と了承済みだったよう。というか奥さんは娘が欲しかったらしく、この話には結構乗り気なんだとか。まぁコニー王家からの打診ですし、私がそちらの立場でも今後の繋がりを強めるうえでも悪くない話だなとは思います。

対するセドリックさん的にはコニー悪ガキが友人とか言うような子供は、一体どんな奴かと戦々恐々としていたそうですが、出会って即刻抱き上げる程に込み上げてくる何かがあったみたいです。気が合いますね。私もその話を聞いて即座にオッケー出しちゃいますよ!

本当はインジーが私を引き取って妹として迎えたかったそうですが、宰相である御父上とは折り合いが悪くそんな話すら出来ない状況だそうで残念がっていました。申し訳ないですがインジー断念してくれてありがとう。そしてコニー、ナイス人選!


こうして私は =マティスロア としての第一歩を踏み出したのでした。















ー---------------
一気に話を進めました。そして深夜テンションが否めない内容です。

次回 マティスロア家の家令
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