Sランク冒険者はお姫様!?今さら淑女になんてなれません!

氷菓

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第一章 無知な少女の成長記

名前の意味

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『ワシにお前を愛することはできない』




自分を見てくれていたことに喜ぶ暇もなくルクレツィアはどん底に叩き落された。その言葉で世界が暗闇に染まり時間が止まったような気がし、全身が冷水を被ったように冷え指先が震える。感覚さえも怪しくて自分が立っているかもわからない浮遊感の中、ルクレツィアはただ茫然と俯き糸の切れた人形のように目を開きそこにいた。


《エクスカリバー》はルクレツィアの魔力が感情により暴走することを恐れた。しかしそれはまるで凪いだ海のように奇妙なほどの穏やかな魔力だった。《エクスカリバー》はそれが逆に恐ろしくて仕方がない。まるで感情のない人形のようなルクレツィアに声をかけようとした瞬間



「ワシにそんな権利はないんじゃよ」



ゴルバチョフは悲しそうに、申し訳なさそうに言葉を発した。槍を解除しルクレツィアに近づく。完全に心がなくなったわけではないのだろう、俯いていたルクレツィアはゴルバチョフの足が見えたところでビクッと怯えたように震えた。師の意味深な物言いに腹を立てるわけでもなく、期待と不安、興味、恐怖の入り混じた胸中を抱え少し顔を上げる。


「ルークの言った通りワシはお前の祖父、そしてワシとメリルの子がお前の父アルジャーノンじゃ。ワシは今からおよそ三年ほど前、お前を家族のもとから攫いここで弟子として育て教育した。何も知らないお前に名前を与え顔を奪いこの小さな世界に閉じ込めた。」

「ど…して…」


蚊の鳴くような声でルクレツィアがそういった気がした。依然顔色は紙のように白く指先は冷たい。しかしゴルバチョフが理由を話してくれているためか、その瞳に僅かな光が戻った気がした。


「ルークはワシがお前をメリルの代わりだといったがそうじゃない。ワシは恐れたのじゃ…お前がその祖母によく似た顔を見てワシとの関係を知ることを…そして……ワシを拒絶することを…。ワシが攫っておいてそんなこと言う権利がないのは分かっておる。お前を愛す権利もない。

それはワシが……ワシのせいでお前は…命を落とすからじゃ…。」


ルクレツィアはわずかに目を見開くとゆるゆると顔を上げ、目を落としてしまった師を見つめた。


「お前にとっては攫われたことになるが実際は預かったというべきかの…そして外から隔絶されたここでお前を強く、誰にも殺されない魔人にすることを約束しあの日お前を弟子にした」

「まるで私が死ぬことが確実に怒るような言い方ですね…」


目線はしたに落ちたが、確かにルクレツィアはそう言葉を発した。《エクスカリバー》は自然に息を吐いてしまった。心ここにあらずと言った様子から、何としてもゴルバチョフから全てを聞き出そうとしているのが分かる。


「そうじゃな……もう言っても大丈夫じゃろう」


そういったゴルバチョフは目線をあげ、ルクレツィアもそれにつられ二人は顔を見合わせる。そしてルクレツィアは向かい合う紫の瞳に目を奪われた。そしてその瞳の中に複雑な模様と竜の文様が浮かんでいることに気づく。


「これはワシらの一族に伝わる瞳【時の魔眼】と呼ばれる血統魔法じゃ。そして魔眼にはそれぞれ能力がある。ワシらの一族は名前の通り時を、未来過去現在を見ることが出来る。といってもその強力過ぎる能力ゆえになんでもというわけにはいかんがの。ワシはこの力でお前が…消される未来を知った。この能力は可能性を見る能力ではない。この未来を知った者がこのまま何もしなければ確実に起こるものじゃ。ゆえにワシとお前の両親と…今は言えんが他の協力者が話し合い、お前の本来の運命から完全に切り離した場所で育てようということになったんじゃ」

「それで…どうして私が死ぬことが師匠のせいのなるのですか?」

「それは…詳しくは話せん。じゃがいつかお前が全てを知る日が来るのは確かじゃ…。

ワシは本来なら今とは全く違う未来で、ある使命をもっておった。そしてそれを放棄しその結果お前が…命を落とすことになった…。息子にもそのツケを払わせてしまったのぉ」


そういってゴルバチョフは力なく笑った。瞳は元に戻りただの紫色の瞳をルクレツィアは見つめる。


「師匠は……自分のせいで私が死んだから…息子に苦労を掛けたから…だから…私を育てたのですか?義務で…罪滅ぼしのつもりで…私を育てたのですか…?」


ルクレツィアは震える声で途切れ途切れになりつつも言葉を放った。視線は定まらず呼吸も浅い。先が聞きたいけど怖くて俯きそうになる顔で必死に前を向く。ルクレツィアはゴルバチョフが自分を誘拐した犯人だろうが死ぬ原因になろうがどうだってよかった。ただこれまで共に暮らしてきた理由がただの贖罪だったのか、その中に情があったのか、『愛すことはない』といった言葉の中に少しでも自分を見てくれた気持ちはあるのかが知りたかったのだ。


「罪滅ぼし…最初はそのつもりじゃった…。罪悪感があったのは否めん。この未来を見なければワシはお前と合うことはなかった。お前が…息を引き取る瞬間を見てしまった時、悲しみより申し訳ないという気持ちが大きかった。

じゃが…じゃがな、今ワシは……お前と過ごす日々が楽しくて仕方がない…お前に名を言われるたび自然と口角が上がってしまう。お前が……大切で仕方がないんじゃよルクレツィア」


ゴルバチョフは涙を流しルクレツィアに近づくと、大きくなった彼女を抱き締めた。《エクスカリバー》は【剣の魔装】を解き、辺りにキラキラと光が舞い散っていた。その言葉を聞きポロポロと流れる涙がルクレツィアの頬を伝い、ゴルバチョフの方にシミを作る。子供のように声を上げることはなく、ただ静かに涙を流し師の服を掴み抱き合った。


「私の本当の名前は何というのですか…私の両親はどこの誰なのですか…?」

「それもまだお前に教えることはできない。ただ必ずそこに戻り再会できる」


二人は少し離れお互い顔を見ながら会話を続ける。


「本来お前が授かるはずの名前ない。『ルクレツィア』この名はお前の、未来を知ったお前の母エレインがワシに託した名前じゃ。


『運命が変わり貴方の幸福な未来がすることを祈ってルクレツィア成功愛してる』」


その言葉は母の言葉なのだろう。しかしルクレツィアにはその言葉が言えないゴルバチョフからの思いにも感じ涙が止まらなかった。自分のことを大切に、認める愛する人がいることがルクレツィアの心を軽くする。





「私も…」






そう小さくつぶやいたルクレツィアをゴルバチョフは抱き締め頭を撫でた。



















ーーーーーーーーー
前世からの承認欲求が満たされた瞬間ですね。そしてやっとシリアスから抜け出した…。
何か問い詰めたいことを忘れている彼女のことはまだまだ放置です。

次回 精霊の愛しいあの子
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