幸せになりたい!ー兄と塔から逃げ出して自由に生きてやる!ー

氷菓

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アヴェントゥリーニス竜王国

外の世界

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「お嬢様、ジルバート=オルキス様がご到着されました。」

「はっ!いっいい今行くわ!……ねぇ…この服変じゃないかしら……」

ロゼリアは鏡の前からかれこれ1時間はこうしてウロウロしていた。
ロメリア様は裾に向かうほど深く紫色のグラデーションが美しい7分袖のワンピースを着ていた。それは彼女の豊かな胸を強調しすぎず、その細い腰や手足を美しく見せている。鎖骨部分は白の繊細なレースで透け、首には彼女の瞳と同じ紫色の宝石が輝いていた。足元は白のリボンが足に巻きつく、少し低めのパンプスで、その姿はまるで、すみれの花の妖精の様に可愛らしさと凛とした美しさがあった。
侍女たちはそんな彼女を顔を赤らめながらため息をつき眺めていた。
しかし、ジルバートが来ている事もありロゼリア専属メイドであるメリルが彼女に話しかけた。

「お嬢様は何を着てもお似合いですわ!それに私達全員がそのお召し物に太鼓判を押したのです。自信をお持ちになってくださいな」

「で…でも…」

コンコンッ

ドアがノックされ、侍女の1人が開けるとクリストファーが立っていた。

「もーロゼ、ジルを待たせて何をやってるの?って…はぁ」

クリストファーはロゼリアと侍女の様子を見て呆れていた。

「ロゼは何着ても可愛いよ。ジルがもし批判してきたら僕が埋めてきてあげるから」
「いやクリス何を言ってるの?別に…ジルバート様がどうとか、どうでもいいのよ!た…ただ変な格好じゃないか気になっただけで!」

クリストファーは「はいはい」と言うとロゼリアに手を差し出し、ジルバートの待つエントランスへ向かった。

「ロゼリア!」

ジルバートはロゼリアの姿を見た瞬間、惚けるような笑顔で彼女の名前を呼んだ。そしてクリストファーから彼女のエスコートを変わると蕩けるような笑みを向けた。

「綺麗だ…今までの君も女神のような美しさだったが、着飾った君は女神をも超越した美しさと可愛らしさがあるな……。私に貴方の傍を歩く栄誉を頂けますか?ロゼリア嬢。」
「びゃっ……ふぁい!」

ジルバートから手にキスを落とされ、ロゼリアは顔を赤くしながら頷いた。

「ではジル、ロゼを宜しくね。」
「あぁ、彼女の事は任せてくれ。クリスもまだ万全じゃないんだ。彼女の事は心配せずゆっくり休んでくれ。」

ジルバートとクリストファーは仲良さそうに話、その後ロゼリアを見て微笑んだ。ロゼリアは知らない内に二人の仲が深まっていた事に驚いていたが、兄に友人が出来たことを喜んでいた。
ロゼリアとジルバートはその後馬車に乗り込んだ。

「……あのジルバート様、距離…近くありません?そして何故手を…」
「ジル」
「え?」
「ジルと…呼んでくれたら考えてあげる」

ジルバートはそう言うと、目を細め彼女の頭を撫でた。ロゼリアはそれを気持ち良さそうに受け入れていたが、はっ、と我に返り顔を赤らめた。

「ぅ…ぁ…えっと……………ジル…様」
「ジル」
「………ジ…ジル」

恥ずかしそうに上目遣いで様子を伺ってくるロゼリアを、ジルバートは抱き締め顔中にキスをした。ロゼリアは喜びと困惑と羞恥で顔を更に赤く染め、目には涙を浮かべた。その様子をジルバートは愛おしいものを見るような笑みで見つめていた。

「ジ…ジル……えっと…婚約者でもないのにこんな事…」
「……あぁ、そうだったね。んーロゼリアは俺の事…嫌い?こうやって触れるのも…嫌だ?」
「はぐぅ…」

ジルバートはその美しい金色の瞳に涙を浮かべ、眉を下げてロゼリアの頬を撫でた。何よりもあざといのは問う度に僅かに顔を傾ける仕草だろう。その様子を見たロゼリアは胸元を抑え、悶えながらも彼の言葉を否定した。

「いえ…そんな事はありません!!寧ろ…安心してしまうというか…嬉しくって、幸せで…」
「なら俺と婚約しても問題ないな」
「えっ?」
「というかもう陛下には届けてあるんだ。君が嫌だと言っても、話す気は更々なかったんだがな。」
「ふぁっ!?それ立派に囲い込まれてるじゃない!!」

ジルバートはロゼリアの手を取り楽しそうに笑い、怒る彼女を宥めた。

「あぁそうだよ。俺は君を手放す気はないからね。それと…婚約者になったんだからその敬語も他人行儀な態度も必要ないよ。」

ジルバートはニヤリと笑いロゼリアの頬をつまんだ。その目は獲物を見つけた竜そのもので、ロゼリアは一瞬身体を硬直させた。が恐怖や嫌悪感はなく、という事に喜びを感じていた。

「本当の君はそんなお淑やかとはかけ離れているだろう?あんなに俺と派手に殺り合ったんだ、君が猫を被ってるのなんて最初から分かってたよ。まぁ半分以上脱げかかっていたけど…くくっ…そんな君を見るのも楽しかったけど、やっぱり俺の前では本当の君を見せて欲しいんだ。」

耐えられないようにくくっと笑ったジルバートをロゼリアは、赤い顔で睨んだ。

「いいわ!意地悪なジルに丁寧な態度なんてとってやらないから。我儘な私が嫌だからって言っても、絶対離してやらないんだからね。これからよろしく婚約者様。私の事をロゼと呼ぶのを許可してあげるわ!」

「うんその方がいいよ、耳まで赤くして恥ずかしんだね?やっぱり素の君の方がずっと可愛い。
あと俺は《リア》って呼ぶ事にするよ。俺だけが呼ぶロゼリアの愛称。」
「……なんかずるい。私も私だけが呼ぶ名前をつけたいわ。ジル…ジルバート……………無理ね《ジル》にしましょう。」
「もうちょっと粘って欲しかった。」

2人が話している間に馬車は街へ到着した。ロゼリアはジルバートに手を差し出され、馬車を降りた。そしてその紫の瞳を輝かせた。

「ぅわぁっ!凄い…凄い………なんて綺麗なのっ」
「ふふっ。さぁ行こうかリア、今日一日中思いっきり楽しもう。」
「えぇ!あっ!あれ何かしら?ほらジルっ早く行きましょ!」

ロゼリアは目を輝かせ、近くの露天にジルバートの手を引き歩きだした。ジルバートはその手を絡め、嬉しそうに彼女の後をついて行った。

ロゼリアにとって《街》とは、戦争でボロポロに崩れ落ちた建物や、痩せこけた人間が虚ろな目で居るイメージしか無かった。それもそうだろう。彼女は戦争の道具として戦地を駆け回り、【転移】で移動していたために帝都の様子を見ることはなかったのだ。
そんなロゼリアにとって、目の前の光景はまさに物語の1ページのようで、見る物全てにそそられた。美しく舗装された石畳や歴史を感じるレンガ造りの建物、笑顔で行き交う人々や活気溢れる市場、その全てにロゼリアは魅せられていた。ジルバートはそんなロゼリアの様子を愛おしげに眺め、彼女が興奮して話す言葉や要望に答えていた。

「ジル!次はあのお店を見てみたいわ!」

ロゼリアはと言うだけで、何一つ買おうとしなかった。ジルバートがいくらプレゼントしようと言っても首を横に振り、また次の店に行くのだ。

「すっごく美味しかったわね。ジルが予約してくれていたんでしょ?ありがとう。とっても綺麗で美味しかったわ!」

ロゼリアは頬に両手を添え幸せそうな顔をし、ジルバートにお礼を言った。そもそも今までの帝国でのロゼリアとクリストファーの食事は食事と呼べるものでは無く、彼女らにとっては量がある事だけで贅沢なのだ。竜人は人間の3倍は子供でも平気で食べ、ロゼリアとクリストファーは常に飢餓状態であった。ロゼリアはまともな食事もなく戦地で戦わされ、その都度雑草や木の実、野生動物を狩るなどでクリストファーと空腹を満たしていた。

故にロゼリアにとっての《幸せ》は、満足な食事と睡眠が取れ、誰にも強制的な命令をされないことだった。
ロゼリアにはこの物語のような美しい街を見る事が出来た事自体が《幸せ》であり、これ以上の何かプレゼントを貰えば夢が覚めてしまいそうで恐ろしかったのだ。

しばらく歩いているとロゼリアはある宝石店のショーウィンドウに目を泊めた。そこにはキラキラと輝く丸い紫水晶の耳飾りピアスがあった。紫水晶は金色の蔓に絡められ、ロゼリアはその美しさに釘付けになっていた。
だがしばらく眺めた後、ロゼリアとジルバートはその場を後にした。もちろんジルバートはプレゼントとしようとしたのは言うまでもない。だがロゼリアは笑顔でそれを断り、最終目的地である《ドワイアル国立公園》に辿り着いた。

「疲れてるだろう?はいこれ」
「ありがとう。じゃあ座らせて貰うわ」

ジルバートはベンチにハンカチーフをかけるとロゼリアを座らせた。そして予め用意していたのだろう、【空間収納】から冷たいりんごジュースを取り出した。

「……私が好きなりんごジュースを出してくるところに、身の危険を感じたわ。……クリスがストーカーには気をつけろって言ってたの。」
「じゃあ安心して。君を付け狙う奴がいたら俺が消しに行くから。」

ロゼリアは真剣な顔でジルバートを見たが、彼はニッコリと笑うだけで別の事を話した。

「………お父様にストーカーとは無理だっ「クリスに聞いたんだ!君がりんごジュースが好きだってっ…。………カッコ悪いだろ?裏でコソコソ君の事聞き回ってましたとか………あぁもうっ…」」

ロゼリアはジルバートの顔を見て目を瞬かせた。が、耳を赤くして自分の事を知りたかったというジルバートを見て嬉しそうに笑った。

「ふっふふふっあはははははは!」
「笑わないでよ!だから言いたくなかったんだよ!!」
「ひーっ…ふっくっくくくっ……。はぁぁぁ。カッコ悪くなんてないよ。笑ってごめんね、私の事を知りたいって、喜ばせようとしてくれてたんでしょ?それ…すっごく嬉しいな…。
今までジルばっかり私をからかってたから、今の反応が可愛くって…ふふっつい笑っちゃった。
ありがとうジル。今日すっっっごく!楽しかった…幸せだった…世界にはこんなに綺麗な所があるなんて知らなかった。ありがとう。私に外の世界を教えてくれて、あの時私を助けてくれて。」

ロゼリアは座っているジルバートの前に立つと、彼の頬に右手を添え、微笑んだ。ジルバートは夕日に照らされ輝く彼女の美しい微笑みを、目を細めて見ていた。
そして彼女の手に自身の手を重ね立ち上がると、ロゼリアを優しく抱き締め自身と彼女に魔法をかけた。ふわりと暖かな風に吹かれ、ロゼリアは右耳に違和感を感じた。

チャリンッ

「やっぱりよく似合ってる…綺麗だ…。俺もどうかな?」

ロゼリアは自身の耳に手を当て、ジルバートを見た。彼の左耳には耳飾りピアスが着いていた。

「な…なんで」
「俺が買いに行ったことすら気付かないほどに見蕩れてて、よく要らないなんて言うよ」

ジルバートはそう言って笑うと、ロゼリアの美しい絹のような銀髪をサラリと右耳にかけ、耳飾りピアスを揺らした。

「ほら、俺とリアの瞳の色。俺もこれに見蕩れて、お揃いにしたかったんだ。だからリアは気にせず俺の我儘プレゼントを受け取って。」
「ふっ……く…ぅぅ……ぁりが…どぅ…」

ロゼリアはジルバートの優しさに包まれ泣いてお礼を言った。



















ーアルゲントゥム公爵邸ー


「これ…私の宝物にする。毎日つけるね。」
「俺もそのつもり。それに他の男にリアは俺のものってアピールにもなるからね。」
「なるほど…じゃあ私も皆に見せびらかそっ」

ロゼリアはニコッと笑い、ジルバートとのデートを終えたのだった。
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