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第二話 美少女
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時は二日前に遡る。
世間は、新しくリリースされたVR型のMMORPG、ブラストオンラインに夢中になっていた。前作と異なる仕様。没入感。フィールド感の高いテクスチャ。
どれをとっても傑作で、当然にも、プロのネカマゲーマーを自負する俺にとって、こんなまたとない機会、飛びつかない手はなかった。
三年程前からネカマアカウントを運営しており、そろそろフォロワーは1万人を超える。
三年間も同じアカウントでネカマしていれば、一度疑われたり、あるいは特定されてバレたりなんかするのではないかと思うかもしれないが、最新技術という物は凄いらしい。
ボイスチェンジャーと自前の女声を混ぜ混ぜにした最強ロリかわボイスを操ることで、これまで一度もバレることなかった。
攻略を出せばかわいい。ゲーム動画を投稿すればかわいい。歌ってみたを上げてもかわいい。しまいには、何もしていなくてもかわいい。
正直、俺は有頂天になっていた。だが、そんな俺のネカマ人生を揺るがすような最大の危機が迫っていた。
それが、中年男性アカウント『アレン』だ。
彼のアカウントは、男が好きそうな中学生くらいの女の子のセンシティブな投稿を拡散するような内容や、最悪と言っても過言ではない程醜い下ネタの投稿が多くを占めている。
そんな彼だったが、俺が加入したブラストオンラインのギルド、『銀狼』の面接を担当していたのだ。
彼は、俺と何度か通話することで美少女アバターに心を惹かれたようだった。
オタクの執念とでもいうべきか。
最終的に、俺のネカマ垢に上がっている数少ないリアルの情報から最寄り駅を割り出し、オフ会に誘われた。
これは経験則だが、こういうタイプの男は大体、断ったりすると逆切れして相手の情報をリークしたり斑点アンチになったりする。
せっかく育てたアカウントが殺されることを避けるためにも、俺は勇気を出して、
「電車が来るまでの数分でよければお話しましょ~」
と返事した。
だが、待ち合わせ場所にやってきたのは、隣のクラスの美少女、深山結那だった。
「シノンちゃんって言うんだけど、もし危ないめにあってたら大変だから、一緒に探してくれない……?」
切羽詰まった様子の深山さんもかわいい。じゃなくて、本当に切羽詰まっているのは俺だ。
確かに知り合いの女の子が危ない眼に遭っているかもしれないなんて状況、焦ってしまうのはよくわかる。
しかしながら、残念ですがその知り合いの女の子は、今あなたの目の前にいます。
なんて言えるわけないだろ……。
どうすればいいんだ、コレ。おっさんと少し話して帰るだけのつもりが、女装してる状態で深山さんと二人っきりだ。
想像できる最悪の状況をさらに複雑にしたような、ジャイ〇ンシチューも真っ青の闇鍋状態。
「と、とりあえず、その子みかけたら連絡するから、一旦二手に分かれない?」
「わ、わかった!」
提案すると、案外すんなり受け入れてくれた。
彼女が見えなくなるのを見計らって、スマホを開くと、アレン――もとい深山さんからのメッセージが何件が入っているのが見えた。
『大丈夫?』
『なにかあったの?』
『おーい』
逆になんでここまで気持ちの悪いDMを送れるのか不思議でしょうがないが、妹の服を勝手に来て女装している俺の方が気持ち悪いと我に返る。
今は一旦余計なことは考えず、この状況を脱することを目的にしなければならない。
『大丈夫だよ~! ごめんんんスマホなくしちゃってた!』
『!! よかった』
『今どこにいるの? まだ時間はある?』
すぐに既読がついて、立て続けにメッセージが送られてくる。返信を考える暇を与えない連絡速度は、彼女の地頭の良さを表しているのだろうか。
いや、そんなことを考えている暇はない。どうにかして断る理由を探さなければならない。だけど、電車があと少しで来ちゃうからなどという断り方は、別日を設けられて終わってしまう。
もう二度とリアルで会う事のないような断り方があるはずだ。
どうすれば。どうすれば後腐れなく断れるだろうか。
『あれ、大丈夫?』
『ん、お母さんから電話きてた』
そうだ。俺は度々ゲーム内で、過保護な母親がいる女の子というキャラを演じていた。
もし深山さんがそれを知っていれば、母親を利用してどうにか断れるかもしれない。
ネットの人と会うから帰るの遅れる言ったら怒られちゃって。そうだ。これだ。
これなら俺——シノンは悪くない。全部母親のせいにできる上に、母親が許可してくれない限りは会えないといえば後腐れなく終われる。
なんで最初にこれを思いつかなかったのだろうか。
ふと時計を見ると、時刻は四時半を回るところだった。
俺が家に帰るために載らなければならない電車があと15分で到着する。
それまでに深山さんに会って見つからなかった旨を伝えて、それから何事もなかったように電車に乗れば。
後は、俺が女装をしている事にだけ目を瞑れば完璧なエンドだ。
クエストクリア。評価はSS。これで今期のギルドクエストもランキング上位で終わることができる――。
「高梨くん?」
「ぎゃああああ!! ああ、深山さん!?」
が、そううまくはいかないようだった。
***
世間は、新しくリリースされたVR型のMMORPG、ブラストオンラインに夢中になっていた。前作と異なる仕様。没入感。フィールド感の高いテクスチャ。
どれをとっても傑作で、当然にも、プロのネカマゲーマーを自負する俺にとって、こんなまたとない機会、飛びつかない手はなかった。
三年程前からネカマアカウントを運営しており、そろそろフォロワーは1万人を超える。
三年間も同じアカウントでネカマしていれば、一度疑われたり、あるいは特定されてバレたりなんかするのではないかと思うかもしれないが、最新技術という物は凄いらしい。
ボイスチェンジャーと自前の女声を混ぜ混ぜにした最強ロリかわボイスを操ることで、これまで一度もバレることなかった。
攻略を出せばかわいい。ゲーム動画を投稿すればかわいい。歌ってみたを上げてもかわいい。しまいには、何もしていなくてもかわいい。
正直、俺は有頂天になっていた。だが、そんな俺のネカマ人生を揺るがすような最大の危機が迫っていた。
それが、中年男性アカウント『アレン』だ。
彼のアカウントは、男が好きそうな中学生くらいの女の子のセンシティブな投稿を拡散するような内容や、最悪と言っても過言ではない程醜い下ネタの投稿が多くを占めている。
そんな彼だったが、俺が加入したブラストオンラインのギルド、『銀狼』の面接を担当していたのだ。
彼は、俺と何度か通話することで美少女アバターに心を惹かれたようだった。
オタクの執念とでもいうべきか。
最終的に、俺のネカマ垢に上がっている数少ないリアルの情報から最寄り駅を割り出し、オフ会に誘われた。
これは経験則だが、こういうタイプの男は大体、断ったりすると逆切れして相手の情報をリークしたり斑点アンチになったりする。
せっかく育てたアカウントが殺されることを避けるためにも、俺は勇気を出して、
「電車が来るまでの数分でよければお話しましょ~」
と返事した。
だが、待ち合わせ場所にやってきたのは、隣のクラスの美少女、深山結那だった。
「シノンちゃんって言うんだけど、もし危ないめにあってたら大変だから、一緒に探してくれない……?」
切羽詰まった様子の深山さんもかわいい。じゃなくて、本当に切羽詰まっているのは俺だ。
確かに知り合いの女の子が危ない眼に遭っているかもしれないなんて状況、焦ってしまうのはよくわかる。
しかしながら、残念ですがその知り合いの女の子は、今あなたの目の前にいます。
なんて言えるわけないだろ……。
どうすればいいんだ、コレ。おっさんと少し話して帰るだけのつもりが、女装してる状態で深山さんと二人っきりだ。
想像できる最悪の状況をさらに複雑にしたような、ジャイ〇ンシチューも真っ青の闇鍋状態。
「と、とりあえず、その子みかけたら連絡するから、一旦二手に分かれない?」
「わ、わかった!」
提案すると、案外すんなり受け入れてくれた。
彼女が見えなくなるのを見計らって、スマホを開くと、アレン――もとい深山さんからのメッセージが何件が入っているのが見えた。
『大丈夫?』
『なにかあったの?』
『おーい』
逆になんでここまで気持ちの悪いDMを送れるのか不思議でしょうがないが、妹の服を勝手に来て女装している俺の方が気持ち悪いと我に返る。
今は一旦余計なことは考えず、この状況を脱することを目的にしなければならない。
『大丈夫だよ~! ごめんんんスマホなくしちゃってた!』
『!! よかった』
『今どこにいるの? まだ時間はある?』
すぐに既読がついて、立て続けにメッセージが送られてくる。返信を考える暇を与えない連絡速度は、彼女の地頭の良さを表しているのだろうか。
いや、そんなことを考えている暇はない。どうにかして断る理由を探さなければならない。だけど、電車があと少しで来ちゃうからなどという断り方は、別日を設けられて終わってしまう。
もう二度とリアルで会う事のないような断り方があるはずだ。
どうすれば。どうすれば後腐れなく断れるだろうか。
『あれ、大丈夫?』
『ん、お母さんから電話きてた』
そうだ。俺は度々ゲーム内で、過保護な母親がいる女の子というキャラを演じていた。
もし深山さんがそれを知っていれば、母親を利用してどうにか断れるかもしれない。
ネットの人と会うから帰るの遅れる言ったら怒られちゃって。そうだ。これだ。
これなら俺——シノンは悪くない。全部母親のせいにできる上に、母親が許可してくれない限りは会えないといえば後腐れなく終われる。
なんで最初にこれを思いつかなかったのだろうか。
ふと時計を見ると、時刻は四時半を回るところだった。
俺が家に帰るために載らなければならない電車があと15分で到着する。
それまでに深山さんに会って見つからなかった旨を伝えて、それから何事もなかったように電車に乗れば。
後は、俺が女装をしている事にだけ目を瞑れば完璧なエンドだ。
クエストクリア。評価はSS。これで今期のギルドクエストもランキング上位で終わることができる――。
「高梨くん?」
「ぎゃああああ!! ああ、深山さん!?」
が、そううまくはいかないようだった。
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