149 / 153
第一章
新ダンジョン探索-13-
しおりを挟む
一人離れていたところに残っていた中里曹長が俺の方に近づいてきて、
「二見さん、一民間人のあんたにこんなことを言うのは筋違いだってことは十分わかっているんだが……隊長は俺等にとっては単なる上官ってだけじゃないんだ。まあ……言葉にするのは難しいが……」
そう言うと、やや気恥ずかしそうに苦笑いをして、下を向いて頭をかく。
大柄で顔もいかつい中年の中里曹長は、同じくオッサンの俺が言うのも何なのだが、前に立つと正直圧迫感すらあった。
そんな彼が、こんな優しい顔をするのかと俺はいささか驚いていた。
それだけ彼に……いやきっと部隊の隊員たちにとって綾音さんは大切な存在なのだろう。
中里曹長は、すぐにいつものいかめしい表情に戻り、
「隊長が遅れを取ることはないと信じたいが、ダンジョン関連のたぐいは何があるかわからない。こないだの化け物のことだってあるしな。ましてや今回は少数で、俺たちも同行できない上に、さらには新ダンジョンときた。つまり……なんだ。あんたの力が頼りなんだ」
とそういった後で、中里曹長は、その姿勢を正し、
「二見さん、先ほどの言葉信じてます! 隊長のことを頼みます!」
とそう言って、敬礼をする。
俺はあまり何かを断言したり、約束したりすることは好きではない。
この世の事柄に絶対や100%というものは存在しないし、人の感情はうつろいでいく。
俺はそのことを異世界での経験で嫌というほど知っている。
しかし……それでも、人は何かを断言し、約束しないといけない場面があるということもまた俺は知っている。
俺は中里曹長の目をまっすぐに見て、
「わかりました。間宮三尉のことは自分が必ず守ると約束します」
と、そう力強く断言する。
彼や彼らの気持ちに俺は答えなければならないだろう。
仲間を失うという経験とその痛み……俺はそれをそれなりに知っているつもりだ。
中里曹長は無言でただうなずき、
「それでは、失礼します」
と言って、その場を後にした。
一人残された俺は、薄暗い廊下で小さなため息をつく。
守るか……。
俺は今更ながら責任の重さを痛感していた。
綾音さん、それにキャシーさん……彼女にも綾音さんと同じように彼女のことを大切に思っている人々がいるだろう……。
彼女たちになんとしても危険が及ばないようにしないとな。
やはりソロで探索する方が今の俺には性にあっている。
自分一人の命ならば、それは俺だけの責任だ。
いや……今の俺はもう一人では——。
脳裏に心配そうな表情をしている花蓮さん、鈴羽さん、美月さん、麻耶さんの顔が浮かんだ。
俺もまたこの世界で仲間ができたのだろか。
俺は首を振って、苦笑する。
何を馬鹿な……彼女たちはわずか数日前に知り合った人たちで、俺とは生きている場所も違う令嬢たちだ。
俺は、しがらみがない一人の方が好きだ。
異世界でもこの世界でも結局のところ、一人でいた時の方が気楽だった。
人とのつながりは否が応でも面倒事……大抵それは異世界では争いだった……をもたらす。
この平和な世界でもまたそうなのだろうか。
だとしたらやはり俺は、一人でいるべきかもしれないな。
ヘリが着陸する音が、耳にこだまする。
どうやらそろそろ出発らしい。
俺は建物の入り口へと足を運ぶ。
薄暗い建物内にいたからなのか、やけに日光に照らされた外の光が眩しくみえる。
俺は空を仰ぎ見て、その眩しさに顔をしかめる。
俺は脳裏に浮かんでいた花蓮さんたちの顔を脇に追いやり、着陸したヘリの元へとかけよった。
「二見さん、一民間人のあんたにこんなことを言うのは筋違いだってことは十分わかっているんだが……隊長は俺等にとっては単なる上官ってだけじゃないんだ。まあ……言葉にするのは難しいが……」
そう言うと、やや気恥ずかしそうに苦笑いをして、下を向いて頭をかく。
大柄で顔もいかつい中年の中里曹長は、同じくオッサンの俺が言うのも何なのだが、前に立つと正直圧迫感すらあった。
そんな彼が、こんな優しい顔をするのかと俺はいささか驚いていた。
それだけ彼に……いやきっと部隊の隊員たちにとって綾音さんは大切な存在なのだろう。
中里曹長は、すぐにいつものいかめしい表情に戻り、
「隊長が遅れを取ることはないと信じたいが、ダンジョン関連のたぐいは何があるかわからない。こないだの化け物のことだってあるしな。ましてや今回は少数で、俺たちも同行できない上に、さらには新ダンジョンときた。つまり……なんだ。あんたの力が頼りなんだ」
とそういった後で、中里曹長は、その姿勢を正し、
「二見さん、先ほどの言葉信じてます! 隊長のことを頼みます!」
とそう言って、敬礼をする。
俺はあまり何かを断言したり、約束したりすることは好きではない。
この世の事柄に絶対や100%というものは存在しないし、人の感情はうつろいでいく。
俺はそのことを異世界での経験で嫌というほど知っている。
しかし……それでも、人は何かを断言し、約束しないといけない場面があるということもまた俺は知っている。
俺は中里曹長の目をまっすぐに見て、
「わかりました。間宮三尉のことは自分が必ず守ると約束します」
と、そう力強く断言する。
彼や彼らの気持ちに俺は答えなければならないだろう。
仲間を失うという経験とその痛み……俺はそれをそれなりに知っているつもりだ。
中里曹長は無言でただうなずき、
「それでは、失礼します」
と言って、その場を後にした。
一人残された俺は、薄暗い廊下で小さなため息をつく。
守るか……。
俺は今更ながら責任の重さを痛感していた。
綾音さん、それにキャシーさん……彼女にも綾音さんと同じように彼女のことを大切に思っている人々がいるだろう……。
彼女たちになんとしても危険が及ばないようにしないとな。
やはりソロで探索する方が今の俺には性にあっている。
自分一人の命ならば、それは俺だけの責任だ。
いや……今の俺はもう一人では——。
脳裏に心配そうな表情をしている花蓮さん、鈴羽さん、美月さん、麻耶さんの顔が浮かんだ。
俺もまたこの世界で仲間ができたのだろか。
俺は首を振って、苦笑する。
何を馬鹿な……彼女たちはわずか数日前に知り合った人たちで、俺とは生きている場所も違う令嬢たちだ。
俺は、しがらみがない一人の方が好きだ。
異世界でもこの世界でも結局のところ、一人でいた時の方が気楽だった。
人とのつながりは否が応でも面倒事……大抵それは異世界では争いだった……をもたらす。
この平和な世界でもまたそうなのだろうか。
だとしたらやはり俺は、一人でいるべきかもしれないな。
ヘリが着陸する音が、耳にこだまする。
どうやらそろそろ出発らしい。
俺は建物の入り口へと足を運ぶ。
薄暗い建物内にいたからなのか、やけに日光に照らされた外の光が眩しくみえる。
俺は空を仰ぎ見て、その眩しさに顔をしかめる。
俺は脳裏に浮かんでいた花蓮さんたちの顔を脇に追いやり、着陸したヘリの元へとかけよった。
66
お気に入りに追加
1,340
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者現代へ帰る。でも、国ごと付いてきちゃいました。
Azanasi
ファンタジー
突然召喚された卒業間近の中学生、直人
召喚の途中で女神の元へ……女神から魔神の討伐を頼まれる。
断ればそのまま召喚されて帰るすべはないと女神は言い、討伐さえすれば元の世界の元の時間軸へ帰してくれると言う言葉を信じて異世界へ。
直人は魔神を討伐するが帰れない。実は魔神は元々そんなに力があるわけでもなくただのハリボテだった。そう、魔法で強く見せていただけだったのだが、女神ともなればそれくらい簡単に見抜けるはずなおだが見抜けなかった。女神としては責任問題だここでも女神は隠蔽を施す。
帰るまで数年かかると直人に伝える、直人は仕方なくも受け入れて現代の知識とお買い物スキルで国を発展させていく
ある時、何の前触れもなく待望していた帰還が突然がかなってしまう。
それには10年の歳月がかかっていた。おまけにあろうことか国ごと付いてきてしまったのだ。
現代社会に中世チックな羽毛の国が現れた。各国ともいろんな手を使って取り込もうとするが直人は抵抗しアルスタン王国の将来を模索して行くのだった。
■小説家になろうにも掲載
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる