147 / 153
第一章
新ダンジョン探索-11-
しおりを挟む
そうだとしても、俺は彼らの命を化け物……モンスターのことだろうか……から救った記憶はない。
さてどうしたものかと俺は片手を頭において、対応に苦慮していると、突然隊員たちが一斉にその体を直立不動にして、姿勢を正す。
「間宮隊長!」
中里曹長がそう大きな声を張り上げると、隊員全員が軍隊式の敬礼をする。
俺が後ろをむくと、そこには綾音さんがいた。
「中里曹長、楽にしてよいぞ」
綾音さんは、軽い敬礼をしてそう返すと、俺の方を見て、
「二見……先ほどは途中で悪かったな。き、急用があって……な」
と、歯切れが悪そうにそう言う。
そして、綾音さんは着替えたのか、制服が先ほどとは変わっていた。
とはいえ他に様子がおかしいところはなく、幸いといってよいのか綾音さんの振る舞いはもとに戻っていた。
居並ぶ部下を前にして、キリッとした佇まいを見せる今の綾音さんは、まさに士官にふさわしい態度といえる。
綾音さんは隊員たちを見回して、咳払いをして、
「ごほん、みな集まっているのなら、ちょうどいい。今回の任務の説明をする。後から合流する米国のウォーカー少尉、それにここにいる二見……氏とともに、わたしは我が国管轄の北方領土内で先ごろ発見されたダンジョンの探索に赴く。みなは我々三人を根室沖まで護衛、輸送し、速やかに離脱。そこから先はわたしたち三人で現地まで赴く」
と、そう無駄なくテキパキと言う。
隊員たちはただ黙って、綾音さんの話しを聞いていたが、その顔にはほんのわずかであるが動揺が見られた。
俺が兵士をやっていた異世界とこの世界が大きくその常識を異にするとしても、軍の上意下達の文化まではそこまで変わりはないだろう。
だとしたら、彼らのような軍の兵士は上官の命令が絶対であると骨の髄まで叩き込まれているはずだ。
そんな彼らが、上官の命令を聞いてこんな顔をするということはよほどこの任務は彼らにとって納得し難いのだろうか。
綾音さんも部下たちのそうした反応に気づいているようで、
「言いたいことがある者はこの場で言ってみろ。どうせ我々の間には隠し事はできない。わたしの力でつなげばすぐにわかるのだしな」
と、隊員たちの顔を見回して意味深に言う。
つなぐか……綾音さんが使う魔法のことだろうか。
言葉から察するに、部隊の士気……感情を……を操作するバフ系のようだが。
やがて中里曹長が、おもむろに手を上げる。
「中里曹長、発言を許可する」
「では隊長、みなを代表してわたしが発言させていただきます。いくら隊長でもたった三人で未踏査のダンジョンを探索するのは、あまりにも……リスクが大きい。しかも、なぜ我々を連れていかずに部外者を連れて行くのでしょうか。命令は覆せないとしても、せめて説明だけはしてほしいものですな」
と、中里曹長は表情を変えずに淡々とそう言う。
そして、彼は一瞬俺をチラリと見て、すぐに視線を外す。
「やれやれ……美月といい……わたしはお前ら部下たちからも信用されていないのか?」
「隊長、自分は——」
「わかっている。中里曹長、さて……理由か。我が国の領土とはいえ、紛争を抱えている北方領土内に正規の陸自の部隊がまたぞろ島に上陸し、ダンジョン探索とはいかないだろう。そこで少数精鋭という訳だ。メンバーの一人は米国からの要請で、同盟国として我が国の立場上断るわけにはいかない。そして、最後の一人は……二見……氏だ。彼については説明は不要だろう」
そう言うと、綾音さんは俺の方を見る。
綾音さんに促されるように周りの隊員たちも一斉に俺の方を見る。
彼らの大半はその顔に疑念や懸念……はたまた恐怖といった表情をにじませている。
どうやら中里曹長の言葉にも関わらず、やはり俺は彼らにあまり信用されていないようだ。
まあ……一度は敵対していたのだし、いきなり素性不明のオッサンを信用しろというのも無理からぬ話しか。
「他にないのであれば話しは終わりだ。すぐに出発の準備をして——」
「隊長! この男は本当に信用できるのですか? こいつの力は知っています。ですが……」
隊員の一人が我慢できないと言った様子でそう声を張り上げて、俺の方を見る。
「……信用できる。少なくともわたしは二見……彼のことを信用している。わたしを含めてみな彼に命を救われた。信用という面では……それで十分だ」
綾音さんはそう言うと、俺を見る。
さてどうしたものかと俺は片手を頭において、対応に苦慮していると、突然隊員たちが一斉にその体を直立不動にして、姿勢を正す。
「間宮隊長!」
中里曹長がそう大きな声を張り上げると、隊員全員が軍隊式の敬礼をする。
俺が後ろをむくと、そこには綾音さんがいた。
「中里曹長、楽にしてよいぞ」
綾音さんは、軽い敬礼をしてそう返すと、俺の方を見て、
「二見……先ほどは途中で悪かったな。き、急用があって……な」
と、歯切れが悪そうにそう言う。
そして、綾音さんは着替えたのか、制服が先ほどとは変わっていた。
とはいえ他に様子がおかしいところはなく、幸いといってよいのか綾音さんの振る舞いはもとに戻っていた。
居並ぶ部下を前にして、キリッとした佇まいを見せる今の綾音さんは、まさに士官にふさわしい態度といえる。
綾音さんは隊員たちを見回して、咳払いをして、
「ごほん、みな集まっているのなら、ちょうどいい。今回の任務の説明をする。後から合流する米国のウォーカー少尉、それにここにいる二見……氏とともに、わたしは我が国管轄の北方領土内で先ごろ発見されたダンジョンの探索に赴く。みなは我々三人を根室沖まで護衛、輸送し、速やかに離脱。そこから先はわたしたち三人で現地まで赴く」
と、そう無駄なくテキパキと言う。
隊員たちはただ黙って、綾音さんの話しを聞いていたが、その顔にはほんのわずかであるが動揺が見られた。
俺が兵士をやっていた異世界とこの世界が大きくその常識を異にするとしても、軍の上意下達の文化まではそこまで変わりはないだろう。
だとしたら、彼らのような軍の兵士は上官の命令が絶対であると骨の髄まで叩き込まれているはずだ。
そんな彼らが、上官の命令を聞いてこんな顔をするということはよほどこの任務は彼らにとって納得し難いのだろうか。
綾音さんも部下たちのそうした反応に気づいているようで、
「言いたいことがある者はこの場で言ってみろ。どうせ我々の間には隠し事はできない。わたしの力でつなげばすぐにわかるのだしな」
と、隊員たちの顔を見回して意味深に言う。
つなぐか……綾音さんが使う魔法のことだろうか。
言葉から察するに、部隊の士気……感情を……を操作するバフ系のようだが。
やがて中里曹長が、おもむろに手を上げる。
「中里曹長、発言を許可する」
「では隊長、みなを代表してわたしが発言させていただきます。いくら隊長でもたった三人で未踏査のダンジョンを探索するのは、あまりにも……リスクが大きい。しかも、なぜ我々を連れていかずに部外者を連れて行くのでしょうか。命令は覆せないとしても、せめて説明だけはしてほしいものですな」
と、中里曹長は表情を変えずに淡々とそう言う。
そして、彼は一瞬俺をチラリと見て、すぐに視線を外す。
「やれやれ……美月といい……わたしはお前ら部下たちからも信用されていないのか?」
「隊長、自分は——」
「わかっている。中里曹長、さて……理由か。我が国の領土とはいえ、紛争を抱えている北方領土内に正規の陸自の部隊がまたぞろ島に上陸し、ダンジョン探索とはいかないだろう。そこで少数精鋭という訳だ。メンバーの一人は米国からの要請で、同盟国として我が国の立場上断るわけにはいかない。そして、最後の一人は……二見……氏だ。彼については説明は不要だろう」
そう言うと、綾音さんは俺の方を見る。
綾音さんに促されるように周りの隊員たちも一斉に俺の方を見る。
彼らの大半はその顔に疑念や懸念……はたまた恐怖といった表情をにじませている。
どうやら中里曹長の言葉にも関わらず、やはり俺は彼らにあまり信用されていないようだ。
まあ……一度は敵対していたのだし、いきなり素性不明のオッサンを信用しろというのも無理からぬ話しか。
「他にないのであれば話しは終わりだ。すぐに出発の準備をして——」
「隊長! この男は本当に信用できるのですか? こいつの力は知っています。ですが……」
隊員の一人が我慢できないと言った様子でそう声を張り上げて、俺の方を見る。
「……信用できる。少なくともわたしは二見……彼のことを信用している。わたしを含めてみな彼に命を救われた。信用という面では……それで十分だ」
綾音さんはそう言うと、俺を見る。
62
お気に入りに追加
1,340
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者現代へ帰る。でも、国ごと付いてきちゃいました。
Azanasi
ファンタジー
突然召喚された卒業間近の中学生、直人
召喚の途中で女神の元へ……女神から魔神の討伐を頼まれる。
断ればそのまま召喚されて帰るすべはないと女神は言い、討伐さえすれば元の世界の元の時間軸へ帰してくれると言う言葉を信じて異世界へ。
直人は魔神を討伐するが帰れない。実は魔神は元々そんなに力があるわけでもなくただのハリボテだった。そう、魔法で強く見せていただけだったのだが、女神ともなればそれくらい簡単に見抜けるはずなおだが見抜けなかった。女神としては責任問題だここでも女神は隠蔽を施す。
帰るまで数年かかると直人に伝える、直人は仕方なくも受け入れて現代の知識とお買い物スキルで国を発展させていく
ある時、何の前触れもなく待望していた帰還が突然がかなってしまう。
それには10年の歳月がかかっていた。おまけにあろうことか国ごと付いてきてしまったのだ。
現代社会に中世チックな羽毛の国が現れた。各国ともいろんな手を使って取り込もうとするが直人は抵抗しアルスタン王国の将来を模索して行くのだった。
■小説家になろうにも掲載
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる