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第一章
内閣府ダンジョン対策庁サイド-01-
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西条花蓮邸——強行突入4時間前——
千代田区霞が関、合同庁舎ビルディングにて——
その日、内閣府の外局にあたるダンジョン対策庁の職員たちは朝から市民たちからの電話対応に追われていた。
もともとその性質上ダンジョン対策庁への市民からの問い合わせは非常に多い。
そのため、庁では以前より専用の回線——別途コールセンター——を設けている。
が……今日に限っては本庁にも電話が殺到している。
それは松方が所属する冒険者管理課も同様であった。
というのも、コールセンターは朝の9時に回線を開いたと同時に、電話が殺到し、早々にパンクしてしまったからだ。
「まったく……何が起きているんだか」
松方は鳴り止まない電話にうんざりしながら、そんな愚痴を漏らす。
「松方さん! 何やっているんですか! 少しは電話取るの手伝ってくださいよ!」
隣りにいる若い男……平井が、キレ気味に声をかけてくる。
当然、平井以外の課員も本来ならばいる。
だが、電話が鳴り出すのと前後して、冒険者管理課には各官庁からの照会が入った。
他の職員はそれらに対応するために、慌ただしく席を立つことになった。
彼らが呼び出されたのも、この電話が鳴り止まないのも、結局は同じ原因——二見敬三——なのだが……。
現代はSNS……もといダンジョン全盛の時代である。
インターネット、ITの加速度的進化、SNS、ダンジョン内の動画配信……。
これらが結びつくことにより、今ではネット上の話題の大半はダンジョンにまつわる話しばかりだ。
つまり……選挙のことしか頭にない人気取りの政治屋どもがDitterのトレンドひとつで右往左往する時代なのだ。
結果として、嘆かわしいことに、松方たち中央官庁の役人もダンジョン内の出来事に振り回されることになる。
まったく……まさにこれぞほまれ高き民主主義というやつか。
松方はそう心の中で毒づく。
いまこの部屋には平井と松方の二人しかいない。
なぜこの二人は課に残っているのか……。
まず平井についてだが、彼はこの課では新人だからやむを得ないといえる。
各官庁や政治家へのレク——説明——は彼では荷が重いとされるのは当然である。
それにたいして松方は入省30年——むろんその時はダンジョン対策庁も存在していなかった——の大ベテランである。
そんな松方は、なぜ課に残り、暇そうにしているのか。
それは、彼が、この課……いや庁全体で訳ありの人間だからである……。
松方は平井の言葉を無視して、デスクにのっそりと座る。
ついで、肘をついて、電話を取り続ける平井のことを興味深げに見る。
7月の定例人事異動でダンジョン対策庁にやってきたこの若手の男……。
最初は何か余程の大目玉をやらかして、半ば左遷、島流しでやってきたのかと思ったが……。
なにせこの男は、五大省庁——特に人気がある省庁——の一角を占める警察庁から、もっとも不人気である外局のこのダンジョン対策庁に来たのだから……。
ダンジョン対策庁は発足当初はその目新しさからそれなりの耳目を集めた。
が……その名前の割にこの庁に与えられている実質的な権限が少ないことと、その業務の多さと内容が知れ渡るにつれて、人気は下降直線の一途を辿った。
そういう訳で、あえてこのダンジョン対策庁を志望する人間はめったにいない。
松方のような自他ともに認める変わり者を除けば……。
しかも、平井は総合職——旧国家一種採用のいわゆるキャリア組——なのである。
が……話しを聞くにこの男、なんと自らのたっての希望で、反対する上司の声をがんとしてはねのけて、この庁にやってきたのだという。
「やっぱり………変わりものだわなあ」
いくら若手とはいえキャリア組の男が律儀にもこんな電話取りのような雑務をこなすとはねえ……。
ノンキャリアとして、長年キャリアを見てきた松方にとって、それは単純な驚きであった。
彼らはたいてい非常に優秀であるが、同時に合理主義者であり、良い意味でも悪い意味でも利己的である。
いや……こいつみたいなやつもいたか……はるか昔にな……。
遠い記憶の彼方の忘れがたき男の顔が松方の脳裏に浮かぶ……。
松方は頭をかき、その記憶を脇へと追いやる。
ついで、頭に手をおいて、肘掛け椅子を思いっきりのけぞらせて、伸びをする。
平井はそんな松方を見て、完全に諦め顔で、いやみったらしく大きなため息をつく。
そして、今も鳴り止まない電話をまた取っている。
「いえ……ですから、そもそも冒険者の個人情報は——……え!? 内閣情報調査室の関係者!? 違いますよ! いえ……公安調査庁でも——」
平井は先ほどから何度も同じような話しをしている。
朝からかかってくる電話……その内容は多かれ少なかれ全て同じ内容だ。
昨日の日本アルプスダンジョン最下層で起きた出来事……いやその出来事を起こしたであろう一人の男……二見敬三についての問い合わせである。
千代田区霞が関、合同庁舎ビルディングにて——
その日、内閣府の外局にあたるダンジョン対策庁の職員たちは朝から市民たちからの電話対応に追われていた。
もともとその性質上ダンジョン対策庁への市民からの問い合わせは非常に多い。
そのため、庁では以前より専用の回線——別途コールセンター——を設けている。
が……今日に限っては本庁にも電話が殺到している。
それは松方が所属する冒険者管理課も同様であった。
というのも、コールセンターは朝の9時に回線を開いたと同時に、電話が殺到し、早々にパンクしてしまったからだ。
「まったく……何が起きているんだか」
松方は鳴り止まない電話にうんざりしながら、そんな愚痴を漏らす。
「松方さん! 何やっているんですか! 少しは電話取るの手伝ってくださいよ!」
隣りにいる若い男……平井が、キレ気味に声をかけてくる。
当然、平井以外の課員も本来ならばいる。
だが、電話が鳴り出すのと前後して、冒険者管理課には各官庁からの照会が入った。
他の職員はそれらに対応するために、慌ただしく席を立つことになった。
彼らが呼び出されたのも、この電話が鳴り止まないのも、結局は同じ原因——二見敬三——なのだが……。
現代はSNS……もといダンジョン全盛の時代である。
インターネット、ITの加速度的進化、SNS、ダンジョン内の動画配信……。
これらが結びつくことにより、今ではネット上の話題の大半はダンジョンにまつわる話しばかりだ。
つまり……選挙のことしか頭にない人気取りの政治屋どもがDitterのトレンドひとつで右往左往する時代なのだ。
結果として、嘆かわしいことに、松方たち中央官庁の役人もダンジョン内の出来事に振り回されることになる。
まったく……まさにこれぞほまれ高き民主主義というやつか。
松方はそう心の中で毒づく。
いまこの部屋には平井と松方の二人しかいない。
なぜこの二人は課に残っているのか……。
まず平井についてだが、彼はこの課では新人だからやむを得ないといえる。
各官庁や政治家へのレク——説明——は彼では荷が重いとされるのは当然である。
それにたいして松方は入省30年——むろんその時はダンジョン対策庁も存在していなかった——の大ベテランである。
そんな松方は、なぜ課に残り、暇そうにしているのか。
それは、彼が、この課……いや庁全体で訳ありの人間だからである……。
松方は平井の言葉を無視して、デスクにのっそりと座る。
ついで、肘をついて、電話を取り続ける平井のことを興味深げに見る。
7月の定例人事異動でダンジョン対策庁にやってきたこの若手の男……。
最初は何か余程の大目玉をやらかして、半ば左遷、島流しでやってきたのかと思ったが……。
なにせこの男は、五大省庁——特に人気がある省庁——の一角を占める警察庁から、もっとも不人気である外局のこのダンジョン対策庁に来たのだから……。
ダンジョン対策庁は発足当初はその目新しさからそれなりの耳目を集めた。
が……その名前の割にこの庁に与えられている実質的な権限が少ないことと、その業務の多さと内容が知れ渡るにつれて、人気は下降直線の一途を辿った。
そういう訳で、あえてこのダンジョン対策庁を志望する人間はめったにいない。
松方のような自他ともに認める変わり者を除けば……。
しかも、平井は総合職——旧国家一種採用のいわゆるキャリア組——なのである。
が……話しを聞くにこの男、なんと自らのたっての希望で、反対する上司の声をがんとしてはねのけて、この庁にやってきたのだという。
「やっぱり………変わりものだわなあ」
いくら若手とはいえキャリア組の男が律儀にもこんな電話取りのような雑務をこなすとはねえ……。
ノンキャリアとして、長年キャリアを見てきた松方にとって、それは単純な驚きであった。
彼らはたいてい非常に優秀であるが、同時に合理主義者であり、良い意味でも悪い意味でも利己的である。
いや……こいつみたいなやつもいたか……はるか昔にな……。
遠い記憶の彼方の忘れがたき男の顔が松方の脳裏に浮かぶ……。
松方は頭をかき、その記憶を脇へと追いやる。
ついで、頭に手をおいて、肘掛け椅子を思いっきりのけぞらせて、伸びをする。
平井はそんな松方を見て、完全に諦め顔で、いやみったらしく大きなため息をつく。
そして、今も鳴り止まない電話をまた取っている。
「いえ……ですから、そもそも冒険者の個人情報は——……え!? 内閣情報調査室の関係者!? 違いますよ! いえ……公安調査庁でも——」
平井は先ほどから何度も同じような話しをしている。
朝からかかってくる電話……その内容は多かれ少なかれ全て同じ内容だ。
昨日の日本アルプスダンジョン最下層で起きた出来事……いやその出来事を起こしたであろう一人の男……二見敬三についての問い合わせである。
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