129 / 153
第一章
束の間の遊戯-23-
しおりを挟む
再び先ほどと同じ車に乗ると、美月さんは運転手の人に行き先を告げる。
「習志野の駐屯地にむかってください」
運転手の人は「わかりました」と一言いうと、すぐに車を発進させる。
と、美月さんは俺の方を向くと、
「二見さん、駐屯地で綾音さん……間宮三尉と合流してください。後は三尉と部隊の方々が二見さんを新ダンジョンまでエスコートしてくれる手はずになっていますので……それと昨日会った米国政府の人間……あの女性も駐屯地で合流するはずです」
と、言う。
美月さんの口調は事務的なトーンであったが、何故かその表情は思い詰めたような暗い顔を浮かべている。
美月さんの話しが唐突すぎたのもあったが、何よりも彼女の見たこともない表情に俺は驚いてしまう。
と、美月さんは俺の表情を見て、わかっていますとばかりに丁寧に説明をしてくれた。
美月さんの話しによると、どうやら新ダンジョン探索のメンバーは俺と、綾音さん、それにキャシーさんとのことだった。
美月さんは説明をしている間、終始不安と苛立ちが入り混じったような表情を浮かべていた。
「本来ならこんな少人数で新規のダンジョンの探索などありえません……。どんなモンスターがでるかも含めて全くの未知数で危険も計り知れないのに……。政府はいったい何を考えているんでしょうか。いえ……そもそも母はなぜこんな決定を受け入れてしまったのか……」
と、美月さんは首を傾げて、難しい顔を浮かべている。
そして、俺の目を見て、
「……二見さん。二見さんの実力は十分に認識していますけど、それでも今回のダンジョン探索にわたしは断固として反対です。こんな危険なことを二見さんたちに押し付けるなんて……。百歩譲って、綾音さんは自衛隊員ですし、米国政府の女性も軍所属らしいので、まだ納得できますけれど……二見さんは兵士じゃなくて単なる民間人なのに……」
と、眉根を寄せて、唇を固く結び、憤りの表情を浮かべている。
俺は美月さんのその言葉に思わずドキリとしてしまう。
幸い美月さんは俺の不審な様子に気づくことなく、話しを続ける。
「わたし……やっぱりもう一度母と話しをしてみます。そして、この決定を覆してもらうようお願いしてみます。母は、新ダンジョンの探索がどれほど危険なのか誰よりもよくわかっているはずなんです。だから——」
美月さんはそこまで言うと、言葉を詰まらせる。
美月さんの表情は固く、唇はわずかに震えてさえいた。
俺は美月さんのその苦悶に満ちた表情に驚くとともに、一方では若干とまどってもいた。
というのも、美月さんの考えは俺が抱いているダンジョン探索の認識……つまりそれは異世界でのダンジョン探索の常識だ……とかなり違っていたからだ。
異世界でのダンジョン探索は原則として少人数で行われることが多い。
パーティーを組むのはよい方で、腕に覚えのある人間はソロで挑む場合も少なくない。
これは純粋に経済的な問題——コストとリターンの問題——である。
冒険者の数が増えればその分、リスクは確かに軽減されるが、一人一人の得られる利益は減る。
それに人数が多ければ、当然利益の分配を巡っての揉め事も多い。
もとより冒険者家業をする人間はハイリスク・ハイリターン思考の人間でアウトサイダー色の強い人間が多い。
冒険者といえば聞こえはよいが、要は金や名誉のために、命をかけてモンスターと闘い、未踏査の危険地域を探索するような輩たちだ。
当然色々な意味で、少しばかり頭のネジの外れた人間が集まることになる。
異世界にだって……この世界よりはそもそもリスクの総量が全体的に高いが……リスクが低い仕事——農家、商人、職人など——は多くあるし、こちらの職業に就く者が大半である。
そういうローリスクだけどローリターン……要は地味でコツコツ毎日働く仕事……を嫌う者、人付き合いが嫌いな者、あるいは何らかの事情で普通の職につけない者が冒険者になるのだ。
そんなはみ出し者たちが全員武装している状態で、大人しく話し合いをする訳もない。
当然利益の配分の揉め事が殺し合いに発展するケースもざらにある。
一応フォローしておきたいのだが、俺は元来オタクであり、数年とはいえサラリーマン生活を送っていたような人間である。
当然、本来は冒険者気質の人間ではない。
が……着の身着のままで、異世界に飛ばされて、身一つで生きていかざるをえなくなり、どんなアウトサイダーでも……そう異世界人でもなれる冒険者になったのだ。
まあ……朱に交われば赤くなるというもので、俺もなんだかんだで冒険者業が性にあってはいたのだが……。
ひょっとしたら気づいていなかっただけで、もともと俺も社会に馴染めないアウトサイダー気質があったのかもしれない。
「習志野の駐屯地にむかってください」
運転手の人は「わかりました」と一言いうと、すぐに車を発進させる。
と、美月さんは俺の方を向くと、
「二見さん、駐屯地で綾音さん……間宮三尉と合流してください。後は三尉と部隊の方々が二見さんを新ダンジョンまでエスコートしてくれる手はずになっていますので……それと昨日会った米国政府の人間……あの女性も駐屯地で合流するはずです」
と、言う。
美月さんの口調は事務的なトーンであったが、何故かその表情は思い詰めたような暗い顔を浮かべている。
美月さんの話しが唐突すぎたのもあったが、何よりも彼女の見たこともない表情に俺は驚いてしまう。
と、美月さんは俺の表情を見て、わかっていますとばかりに丁寧に説明をしてくれた。
美月さんの話しによると、どうやら新ダンジョン探索のメンバーは俺と、綾音さん、それにキャシーさんとのことだった。
美月さんは説明をしている間、終始不安と苛立ちが入り混じったような表情を浮かべていた。
「本来ならこんな少人数で新規のダンジョンの探索などありえません……。どんなモンスターがでるかも含めて全くの未知数で危険も計り知れないのに……。政府はいったい何を考えているんでしょうか。いえ……そもそも母はなぜこんな決定を受け入れてしまったのか……」
と、美月さんは首を傾げて、難しい顔を浮かべている。
そして、俺の目を見て、
「……二見さん。二見さんの実力は十分に認識していますけど、それでも今回のダンジョン探索にわたしは断固として反対です。こんな危険なことを二見さんたちに押し付けるなんて……。百歩譲って、綾音さんは自衛隊員ですし、米国政府の女性も軍所属らしいので、まだ納得できますけれど……二見さんは兵士じゃなくて単なる民間人なのに……」
と、眉根を寄せて、唇を固く結び、憤りの表情を浮かべている。
俺は美月さんのその言葉に思わずドキリとしてしまう。
幸い美月さんは俺の不審な様子に気づくことなく、話しを続ける。
「わたし……やっぱりもう一度母と話しをしてみます。そして、この決定を覆してもらうようお願いしてみます。母は、新ダンジョンの探索がどれほど危険なのか誰よりもよくわかっているはずなんです。だから——」
美月さんはそこまで言うと、言葉を詰まらせる。
美月さんの表情は固く、唇はわずかに震えてさえいた。
俺は美月さんのその苦悶に満ちた表情に驚くとともに、一方では若干とまどってもいた。
というのも、美月さんの考えは俺が抱いているダンジョン探索の認識……つまりそれは異世界でのダンジョン探索の常識だ……とかなり違っていたからだ。
異世界でのダンジョン探索は原則として少人数で行われることが多い。
パーティーを組むのはよい方で、腕に覚えのある人間はソロで挑む場合も少なくない。
これは純粋に経済的な問題——コストとリターンの問題——である。
冒険者の数が増えればその分、リスクは確かに軽減されるが、一人一人の得られる利益は減る。
それに人数が多ければ、当然利益の分配を巡っての揉め事も多い。
もとより冒険者家業をする人間はハイリスク・ハイリターン思考の人間でアウトサイダー色の強い人間が多い。
冒険者といえば聞こえはよいが、要は金や名誉のために、命をかけてモンスターと闘い、未踏査の危険地域を探索するような輩たちだ。
当然色々な意味で、少しばかり頭のネジの外れた人間が集まることになる。
異世界にだって……この世界よりはそもそもリスクの総量が全体的に高いが……リスクが低い仕事——農家、商人、職人など——は多くあるし、こちらの職業に就く者が大半である。
そういうローリスクだけどローリターン……要は地味でコツコツ毎日働く仕事……を嫌う者、人付き合いが嫌いな者、あるいは何らかの事情で普通の職につけない者が冒険者になるのだ。
そんなはみ出し者たちが全員武装している状態で、大人しく話し合いをする訳もない。
当然利益の配分の揉め事が殺し合いに発展するケースもざらにある。
一応フォローしておきたいのだが、俺は元来オタクであり、数年とはいえサラリーマン生活を送っていたような人間である。
当然、本来は冒険者気質の人間ではない。
が……着の身着のままで、異世界に飛ばされて、身一つで生きていかざるをえなくなり、どんなアウトサイダーでも……そう異世界人でもなれる冒険者になったのだ。
まあ……朱に交われば赤くなるというもので、俺もなんだかんだで冒険者業が性にあってはいたのだが……。
ひょっとしたら気づいていなかっただけで、もともと俺も社会に馴染めないアウトサイダー気質があったのかもしれない。
52
お気に入りに追加
1,340
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者現代へ帰る。でも、国ごと付いてきちゃいました。
Azanasi
ファンタジー
突然召喚された卒業間近の中学生、直人
召喚の途中で女神の元へ……女神から魔神の討伐を頼まれる。
断ればそのまま召喚されて帰るすべはないと女神は言い、討伐さえすれば元の世界の元の時間軸へ帰してくれると言う言葉を信じて異世界へ。
直人は魔神を討伐するが帰れない。実は魔神は元々そんなに力があるわけでもなくただのハリボテだった。そう、魔法で強く見せていただけだったのだが、女神ともなればそれくらい簡単に見抜けるはずなおだが見抜けなかった。女神としては責任問題だここでも女神は隠蔽を施す。
帰るまで数年かかると直人に伝える、直人は仕方なくも受け入れて現代の知識とお買い物スキルで国を発展させていく
ある時、何の前触れもなく待望していた帰還が突然がかなってしまう。
それには10年の歳月がかかっていた。おまけにあろうことか国ごと付いてきてしまったのだ。
現代社会に中世チックな羽毛の国が現れた。各国ともいろんな手を使って取り込もうとするが直人は抵抗しアルスタン王国の将来を模索して行くのだった。
■小説家になろうにも掲載
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる